MOON

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MOON-2『BOY MEET VAMPIRE』<16>FIN

2010-06-11 13:21:52 | 日記
               <16>FIN

 かつて。
 この新宿には二人の『帝王』がいた。
 『闇』の一族をを統べる吸血鬼一族の、その長である彼らは、『光』と『闇』とを統べる『唯一無二』の『帝王』の座をめぐり闘った---この新宿(まち)で。
 そして---一人は永久とも思える深い眠りにつき・・・一人はこの現世(うつしよ)へ留まった。
 陽の光を、『昼の住人』へと明け渡し、『夜』の闇を駆け抜ける---。
 決して越えてはならない、『光』と『闇』の境界線を越えようとする者たちを、『帝王』の名にかけてその手で葬るために。

 新宿-大京町のマンションで。
 「じゃ、和人は吸血鬼(ヴァンパイア)で、秀さんは狼男(ウルフ・ガイ)って事?」
 「そう」
 秀はにっこりと笑い、「冗談みたいな話だろうけど、本当。」
 「マジ?」
 裕希は一歩身をひき、「・・・冗談・・・じゃないよね?」
 「本当の話」
 カウンターの中央に腰かけている和人は、続けた。「お前も見ただろ?昨日の事。」
 「うん。」
 裕希は頷き、「それだったら---全ての『事』がつじつま合う。」
 「だろ?」
 朝子が入れたキリマンを一口含む。「そういう事。」
 「でも、和人は陽の光を浴びても、灰にならないよ。」
 「そうだね」
 和人は苦笑し、目を伏せた。「そういう体質らしい、『帝王』って。」
 「血はどうしてるの?和人だってヴァンパイアだったら人の血が必要なはずでしょ?」
 と、そこで裕希は、ふと思い出したように、「昨日の『結婚式』とかして?」
 「あれは違うのよ、裕希くん。」
 小首を傾げる裕希に今度は朝子が、「あの『儀式』はね、花嫁さんを和人の一族に加えるための『儀式』なの。ヴァンパイアは本来帝王の血を受け継がないと、今の九桜の一族のように『人の生き血』を欲しがるの。帝王の血は濃いから、和人が直接一族に加えた人はその帝王の『血(エナジー)』によって、帝王が生きてる限り、人の血を吸おうという気持ちはおきないの。」
 「じゃ、和人自身は?」
 「それは、私---私が和人の血の提供者なの。」
 「じゃ、朝子さんもヴァンパイアなの?ヴァンパイア同士で血を分けあってるの?」
 「違うわよ、裕希くん。
 と、彼女は少し寂しげな表情を見せ、「私は普通の人間よ。でもね、血を吸われてもヴァンパイアにならない『力』を持ってるの。だから」
 そこで、一呼吸置き、端正な横顔の和人に視線を向け、「歳はとるけど---和人と『永遠』を供にすることはできないの。」
 「俺も」
 と、秀は続け、「ウルフ・ガイだからヴァンパイアと違って永遠の命を持ってる訳じゃない。それに俺たちの一族は九桜が『闇』を統一しようとした時、皆奴に葬り去られた。俺は一族でただ一人残った、ウルフ・ガイなのさ。」
 「そんな」
 裕希は眉をひそめた。「そうしたらみんな---和人も秀さんも朝子さんも一人きりじゃない。和人だけが最後に残るの?」
 「そんなことないよ、裕希。」
 和人は微笑した。「俺たちも裕希と同じ時間の中を生きてる---一人ひとりは『一人』かもしれないけど、俺には朝子や秀と同じ時間を---『今』を供に生きてる。」
 「運命共同体なのよ、私たち。」
 朝子も微笑んだ。「和人の時間の中ではほんの『刹那』な時間かもしれないけど、『今』を一緒に生きてる。」
 「お前だって言ったろ、裕希。」
 秀は言った。「もう一人の帝王 九桜にはそんな存在がいなかったから『闇』に染まってしまったんだと。」
 「九桜・・・」
 裕希は呟いた。「あの和人が葬ったっていう、ビリジアン・ブルーの瞳の人?」
 「裕希」
 和人は怪訝そうに言った。「どうして、お前が九桜のことを知っているんだ?」
 「わからない」
 裕希は首を振り、「ただ、あの占い師が俺に見せてくれたんだ。」
 「あいつが、『闇』の一部を裕希に見せたのかもしれない。」
 和人が答える。「この新宿(まち)には、俺が結界を張っている---『外』の者が入ってこないように。九桜の側に襲われたり、『闇』にその心を委ねないように。」
 「でも、どんな理由であれ、お前は来ちゃったもんな。」
 伊達メガネをかけた秀が、「あの占い師が言ったように、本当に裕希の『運命』は変わってしまったかもしれないぜ。」
 と、ニヒルな微笑を浮かべる。
 「運命が変わる・・・」
 裕希は呟いた。
 「どうする?裕希くん。」
 朝子は優しく問いかけた。
 「今から帰ってもいいんだぞ。」
 和人は、「記憶を封じてあげるよ。」
 「------」
 裕希は暫く彼の瞳を見つめ、やがて、「ううん。俺、ここにいる。」
 力強く言った。「俺自身で選んだことだもん。自分の運命を変えたいってこと。」
 「裕希---」
 「俺も和人の『刹那』の時の中にいる一人だよ、もう。」
 少年は笑顔を浮かべ、
 「あの夜の出会いが全ての始まりだよ、和人。」
 甦る、鮮やかな記憶。

 『ちょうど俺も買おうと思ってたトコ。』

 不思議な光が宿る、和人の澄んだ翡翠色の瞳。
 「自分の運命を変えるのは、自分だから。俺はこの街にいても『闇』には染まらないよ、和人。」
 夏の爽やかな日差しと風が、一陣、広い室内に広がった。
 「あ!」
 裕希はカウンター・キッチンの時計に目をやり、「もうこんな時間、遅刻しちゃうよ!」
 『不良志望』の無邪気な少年。
 慌てて、南側の和人の部屋へと向かう。
 「やば。」
 秀も左手首の羅針盤を見つめ、「10:00からクライアントとの打ち合わせがあるんだ!その前にコンテ作っとかなきゃ---おい、和人。お前も打ち合わせに来いよ。」
 「わかったよ、秀。」
 和人が微笑して答える。
 「忙しい、朝だこと。」
 朝子がくすくすと笑う。
 和人がプレゼントしてくれたワイシャツはそのままに、制服に着替えた裕希は、
 「朝子さん、俺、朝食抜き。遅刻しちゃうから。」
 と、声と同時に、黒い鞄を小脇にかかえて玄関へと向かう。
 「ほら、和ちゃん、お仕事、お仕事。」
 秀は嫌がる和人の腕を引っ張り、「今、寝たらまたお前『遅刻』すっからさ。オフィスでコンテ作るの手伝ってくれ。」
 『理由』をこじつけ、玄関へとひきづっていく。
 「1時間だけ。」
 「だめ。」
 秀は楽しそうに答え、裕希が待つ、玄関へと向かう。
 「じゃ、そういう事で、朝子。」
 「行ってきまーす!」
 「・・・行ってくる。」

                   バタン

 閉じられた白いドア。
 「本当に」
 朝子は肩を落とし、「忙しい家ね、ここって。『朝』も『夜』もないんだから。」
 微笑した。
 太陽の眩しさに目を細め、
 「さてと。私もお仕事、お仕事。天気がいいからみんなのシーツも洗って、と。その前にこのドレス何とかしなくちゃね。」

 『俺は『闇』には染まらないよ---この新宿(まち)にいても。』

 新しい朝が、暖かな日差しに守られ---始まる。


                     FIN:BGM『GACKT: REBERTH』

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