<16>FIN
かつて。
この新宿には二人の『帝王』がいた。
『闇』の一族をを統べる吸血鬼一族の、その長である彼らは、『光』と『闇』とを統べる『唯一無二』の『帝王』の座をめぐり闘った---この新宿(まち)で。
そして---一人は永久とも思える深い眠りにつき・・・一人はこの現世(うつしよ)へ留まった。
陽の光を、『昼の住人』へと明け渡し、『夜』の闇を駆け抜ける---。
決して越えてはならない、『光』と『闇』の境界線を越えようとする者たちを、『帝王』の名にかけてその手で葬るために。
新宿-大京町のマンションで。
「じゃ、和人は吸血鬼(ヴァンパイア)で、秀さんは狼男(ウルフ・ガイ)って事?」
「そう」
秀はにっこりと笑い、「冗談みたいな話だろうけど、本当。」
「マジ?」
裕希は一歩身をひき、「・・・冗談・・・じゃないよね?」
「本当の話」
カウンターの中央に腰かけている和人は、続けた。「お前も見ただろ?昨日の事。」
「うん。」
裕希は頷き、「それだったら---全ての『事』がつじつま合う。」
「だろ?」
朝子が入れたキリマンを一口含む。「そういう事。」
「でも、和人は陽の光を浴びても、灰にならないよ。」
「そうだね」
和人は苦笑し、目を伏せた。「そういう体質らしい、『帝王』って。」
「血はどうしてるの?和人だってヴァンパイアだったら人の血が必要なはずでしょ?」
と、そこで裕希は、ふと思い出したように、「昨日の『結婚式』とかして?」
「あれは違うのよ、裕希くん。」
小首を傾げる裕希に今度は朝子が、「あの『儀式』はね、花嫁さんを和人の一族に加えるための『儀式』なの。ヴァンパイアは本来帝王の血を受け継がないと、今の九桜の一族のように『人の生き血』を欲しがるの。帝王の血は濃いから、和人が直接一族に加えた人はその帝王の『血(エナジー)』によって、帝王が生きてる限り、人の血を吸おうという気持ちはおきないの。」
「じゃ、和人自身は?」
「それは、私---私が和人の血の提供者なの。」
「じゃ、朝子さんもヴァンパイアなの?ヴァンパイア同士で血を分けあってるの?」
「違うわよ、裕希くん。
と、彼女は少し寂しげな表情を見せ、「私は普通の人間よ。でもね、血を吸われてもヴァンパイアにならない『力』を持ってるの。だから」
そこで、一呼吸置き、端正な横顔の和人に視線を向け、「歳はとるけど---和人と『永遠』を供にすることはできないの。」
「俺も」
と、秀は続け、「ウルフ・ガイだからヴァンパイアと違って永遠の命を持ってる訳じゃない。それに俺たちの一族は九桜が『闇』を統一しようとした時、皆奴に葬り去られた。俺は一族でただ一人残った、ウルフ・ガイなのさ。」
「そんな」
裕希は眉をひそめた。「そうしたらみんな---和人も秀さんも朝子さんも一人きりじゃない。和人だけが最後に残るの?」
「そんなことないよ、裕希。」
和人は微笑した。「俺たちも裕希と同じ時間の中を生きてる---一人ひとりは『一人』かもしれないけど、俺には朝子や秀と同じ時間を---『今』を供に生きてる。」
「運命共同体なのよ、私たち。」
朝子も微笑んだ。「和人の時間の中ではほんの『刹那』な時間かもしれないけど、『今』を一緒に生きてる。」
「お前だって言ったろ、裕希。」
秀は言った。「もう一人の帝王 九桜にはそんな存在がいなかったから『闇』に染まってしまったんだと。」
「九桜・・・」
裕希は呟いた。「あの和人が葬ったっていう、ビリジアン・ブルーの瞳の人?」
「裕希」
和人は怪訝そうに言った。「どうして、お前が九桜のことを知っているんだ?」
「わからない」
裕希は首を振り、「ただ、あの占い師が俺に見せてくれたんだ。」
「あいつが、『闇』の一部を裕希に見せたのかもしれない。」
和人が答える。「この新宿(まち)には、俺が結界を張っている---『外』の者が入ってこないように。九桜の側に襲われたり、『闇』にその心を委ねないように。」
「でも、どんな理由であれ、お前は来ちゃったもんな。」
伊達メガネをかけた秀が、「あの占い師が言ったように、本当に裕希の『運命』は変わってしまったかもしれないぜ。」
と、ニヒルな微笑を浮かべる。
「運命が変わる・・・」
裕希は呟いた。
「どうする?裕希くん。」
朝子は優しく問いかけた。
「今から帰ってもいいんだぞ。」
和人は、「記憶を封じてあげるよ。」
「------」
裕希は暫く彼の瞳を見つめ、やがて、「ううん。俺、ここにいる。」
力強く言った。「俺自身で選んだことだもん。自分の運命を変えたいってこと。」
「裕希---」
「俺も和人の『刹那』の時の中にいる一人だよ、もう。」
少年は笑顔を浮かべ、
「あの夜の出会いが全ての始まりだよ、和人。」
甦る、鮮やかな記憶。
『ちょうど俺も買おうと思ってたトコ。』
不思議な光が宿る、和人の澄んだ翡翠色の瞳。
「自分の運命を変えるのは、自分だから。俺はこの街にいても『闇』には染まらないよ、和人。」
夏の爽やかな日差しと風が、一陣、広い室内に広がった。
「あ!」
裕希はカウンター・キッチンの時計に目をやり、「もうこんな時間、遅刻しちゃうよ!」
『不良志望』の無邪気な少年。
慌てて、南側の和人の部屋へと向かう。
「やば。」
秀も左手首の羅針盤を見つめ、「10:00からクライアントとの打ち合わせがあるんだ!その前にコンテ作っとかなきゃ---おい、和人。お前も打ち合わせに来いよ。」
「わかったよ、秀。」
和人が微笑して答える。
「忙しい、朝だこと。」
朝子がくすくすと笑う。
和人がプレゼントしてくれたワイシャツはそのままに、制服に着替えた裕希は、
「朝子さん、俺、朝食抜き。遅刻しちゃうから。」
と、声と同時に、黒い鞄を小脇にかかえて玄関へと向かう。
「ほら、和ちゃん、お仕事、お仕事。」
秀は嫌がる和人の腕を引っ張り、「今、寝たらまたお前『遅刻』すっからさ。オフィスでコンテ作るの手伝ってくれ。」
『理由』をこじつけ、玄関へとひきづっていく。
「1時間だけ。」
「だめ。」
秀は楽しそうに答え、裕希が待つ、玄関へと向かう。
「じゃ、そういう事で、朝子。」
「行ってきまーす!」
「・・・行ってくる。」
バタン
閉じられた白いドア。
「本当に」
朝子は肩を落とし、「忙しい家ね、ここって。『朝』も『夜』もないんだから。」
微笑した。
太陽の眩しさに目を細め、
「さてと。私もお仕事、お仕事。天気がいいからみんなのシーツも洗って、と。その前にこのドレス何とかしなくちゃね。」
『俺は『闇』には染まらないよ---この新宿(まち)にいても。』
新しい朝が、暖かな日差しに守られ---始まる。
FIN:BGM『GACKT: REBERTH』
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かつて。
この新宿には二人の『帝王』がいた。
『闇』の一族をを統べる吸血鬼一族の、その長である彼らは、『光』と『闇』とを統べる『唯一無二』の『帝王』の座をめぐり闘った---この新宿(まち)で。
そして---一人は永久とも思える深い眠りにつき・・・一人はこの現世(うつしよ)へ留まった。
陽の光を、『昼の住人』へと明け渡し、『夜』の闇を駆け抜ける---。
決して越えてはならない、『光』と『闇』の境界線を越えようとする者たちを、『帝王』の名にかけてその手で葬るために。
新宿-大京町のマンションで。
「じゃ、和人は吸血鬼(ヴァンパイア)で、秀さんは狼男(ウルフ・ガイ)って事?」
「そう」
秀はにっこりと笑い、「冗談みたいな話だろうけど、本当。」
「マジ?」
裕希は一歩身をひき、「・・・冗談・・・じゃないよね?」
「本当の話」
カウンターの中央に腰かけている和人は、続けた。「お前も見ただろ?昨日の事。」
「うん。」
裕希は頷き、「それだったら---全ての『事』がつじつま合う。」
「だろ?」
朝子が入れたキリマンを一口含む。「そういう事。」
「でも、和人は陽の光を浴びても、灰にならないよ。」
「そうだね」
和人は苦笑し、目を伏せた。「そういう体質らしい、『帝王』って。」
「血はどうしてるの?和人だってヴァンパイアだったら人の血が必要なはずでしょ?」
と、そこで裕希は、ふと思い出したように、「昨日の『結婚式』とかして?」
「あれは違うのよ、裕希くん。」
小首を傾げる裕希に今度は朝子が、「あの『儀式』はね、花嫁さんを和人の一族に加えるための『儀式』なの。ヴァンパイアは本来帝王の血を受け継がないと、今の九桜の一族のように『人の生き血』を欲しがるの。帝王の血は濃いから、和人が直接一族に加えた人はその帝王の『血(エナジー)』によって、帝王が生きてる限り、人の血を吸おうという気持ちはおきないの。」
「じゃ、和人自身は?」
「それは、私---私が和人の血の提供者なの。」
「じゃ、朝子さんもヴァンパイアなの?ヴァンパイア同士で血を分けあってるの?」
「違うわよ、裕希くん。
と、彼女は少し寂しげな表情を見せ、「私は普通の人間よ。でもね、血を吸われてもヴァンパイアにならない『力』を持ってるの。だから」
そこで、一呼吸置き、端正な横顔の和人に視線を向け、「歳はとるけど---和人と『永遠』を供にすることはできないの。」
「俺も」
と、秀は続け、「ウルフ・ガイだからヴァンパイアと違って永遠の命を持ってる訳じゃない。それに俺たちの一族は九桜が『闇』を統一しようとした時、皆奴に葬り去られた。俺は一族でただ一人残った、ウルフ・ガイなのさ。」
「そんな」
裕希は眉をひそめた。「そうしたらみんな---和人も秀さんも朝子さんも一人きりじゃない。和人だけが最後に残るの?」
「そんなことないよ、裕希。」
和人は微笑した。「俺たちも裕希と同じ時間の中を生きてる---一人ひとりは『一人』かもしれないけど、俺には朝子や秀と同じ時間を---『今』を供に生きてる。」
「運命共同体なのよ、私たち。」
朝子も微笑んだ。「和人の時間の中ではほんの『刹那』な時間かもしれないけど、『今』を一緒に生きてる。」
「お前だって言ったろ、裕希。」
秀は言った。「もう一人の帝王 九桜にはそんな存在がいなかったから『闇』に染まってしまったんだと。」
「九桜・・・」
裕希は呟いた。「あの和人が葬ったっていう、ビリジアン・ブルーの瞳の人?」
「裕希」
和人は怪訝そうに言った。「どうして、お前が九桜のことを知っているんだ?」
「わからない」
裕希は首を振り、「ただ、あの占い師が俺に見せてくれたんだ。」
「あいつが、『闇』の一部を裕希に見せたのかもしれない。」
和人が答える。「この新宿(まち)には、俺が結界を張っている---『外』の者が入ってこないように。九桜の側に襲われたり、『闇』にその心を委ねないように。」
「でも、どんな理由であれ、お前は来ちゃったもんな。」
伊達メガネをかけた秀が、「あの占い師が言ったように、本当に裕希の『運命』は変わってしまったかもしれないぜ。」
と、ニヒルな微笑を浮かべる。
「運命が変わる・・・」
裕希は呟いた。
「どうする?裕希くん。」
朝子は優しく問いかけた。
「今から帰ってもいいんだぞ。」
和人は、「記憶を封じてあげるよ。」
「------」
裕希は暫く彼の瞳を見つめ、やがて、「ううん。俺、ここにいる。」
力強く言った。「俺自身で選んだことだもん。自分の運命を変えたいってこと。」
「裕希---」
「俺も和人の『刹那』の時の中にいる一人だよ、もう。」
少年は笑顔を浮かべ、
「あの夜の出会いが全ての始まりだよ、和人。」
甦る、鮮やかな記憶。
『ちょうど俺も買おうと思ってたトコ。』
不思議な光が宿る、和人の澄んだ翡翠色の瞳。
「自分の運命を変えるのは、自分だから。俺はこの街にいても『闇』には染まらないよ、和人。」
夏の爽やかな日差しと風が、一陣、広い室内に広がった。
「あ!」
裕希はカウンター・キッチンの時計に目をやり、「もうこんな時間、遅刻しちゃうよ!」
『不良志望』の無邪気な少年。
慌てて、南側の和人の部屋へと向かう。
「やば。」
秀も左手首の羅針盤を見つめ、「10:00からクライアントとの打ち合わせがあるんだ!その前にコンテ作っとかなきゃ---おい、和人。お前も打ち合わせに来いよ。」
「わかったよ、秀。」
和人が微笑して答える。
「忙しい、朝だこと。」
朝子がくすくすと笑う。
和人がプレゼントしてくれたワイシャツはそのままに、制服に着替えた裕希は、
「朝子さん、俺、朝食抜き。遅刻しちゃうから。」
と、声と同時に、黒い鞄を小脇にかかえて玄関へと向かう。
「ほら、和ちゃん、お仕事、お仕事。」
秀は嫌がる和人の腕を引っ張り、「今、寝たらまたお前『遅刻』すっからさ。オフィスでコンテ作るの手伝ってくれ。」
『理由』をこじつけ、玄関へとひきづっていく。
「1時間だけ。」
「だめ。」
秀は楽しそうに答え、裕希が待つ、玄関へと向かう。
「じゃ、そういう事で、朝子。」
「行ってきまーす!」
「・・・行ってくる。」
バタン
閉じられた白いドア。
「本当に」
朝子は肩を落とし、「忙しい家ね、ここって。『朝』も『夜』もないんだから。」
微笑した。
太陽の眩しさに目を細め、
「さてと。私もお仕事、お仕事。天気がいいからみんなのシーツも洗って、と。その前にこのドレス何とかしなくちゃね。」
『俺は『闇』には染まらないよ---この新宿(まち)にいても。』
新しい朝が、暖かな日差しに守られ---始まる。
FIN:BGM『GACKT: REBERTH』
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