初夏の風が京(みやこ)の御所にも流れていた。空は風一つない。
すがすがしい笛の音だけが聞こえていた。
ふと。
その音が途切れる。
「私の命は短命です。」
狩衣姿の青年は言った。「もう、私で終わりでしょう。あの者の恨みも。」
「… …。」
御簾の中からは何の返答もない。
浅黄色の着物を着た侍女が御簾の前ですすり泣きを始めた。
「惇忠様… …!」
「惇忠様!」
すがすがしい切れ長の目を持つ青年---藤原
惇忠は告げた。
「彰子様。」
侍女の一人に笛を預けた。「これを私だと思って下さい。」
「… …!」
御簾の中で着物の擦れる音が微かに聞こえた。
「私はもう行かなければなりません。」
「!… …」
彰子は心の中で叫び、御簾を勢いよく上げた。
しかし、そこには、彼の姿は無かった。
「惇忠… …っ!」
彰子と呼ばれた姫は庭に降り立った。
風だけが。
そこに残っていた。
『行かないで!』
どうしてその一言が言えなかったのだろう。
手を伸ばせば、届く距離にいたのに。
ワタシダケガ アツタダヲ スクエタノニ。
ワタシダケガ カノモノヲ
タオスコトガ デキタノニ。
彰子はじっと庭を見つめていた。
『笛は好きですか?』
先に声をかけたのは彰子の庭に迷い込んだ惇忠の方だった。
『… …好きです。』
ワタシ ハ コンナ コエヲ
シテイタノカシラ?
それが2人の出逢いだった。
その惇忠はもういない… …。
「姫様。」
惇忠から受け取った笛を侍女が敦子に渡した。
「-----」
アノトキ ナゼ テヲ ノバサナカッタ?
ノバセバ トドク キョリ ダッタノニ。
彰子は笛を胸に抱きしめた。
紅の十二単が御簾と共に初夏の風に揺れる。
空は雲ひとつなかった。
モウ アエナイ… …
カノモノガ 『マタ』カレノ
イノチヲ ネラウ。
彰子は笛を胸に目を固く閉じた。
そして、思う。
『雷神』を。
それは、1000年もの昔の話… …
直樹と智は腐れ縁の幼馴染だった。
家が隣同志という理由もあるが、直樹が幼い頃両親を事故で亡くし、それからはモデルをやっている兄 瞬に育てられ智の家にも瞬が留守になる時、泊まりに行くせいもある。
両親を亡くした時、瞬は既に大学生、直樹は小学生だった。それからは瞬は仕事と学業を両立し、智を育てあげたのである。
「智、お疲れー!」
放課後の学校の校庭の片隅で、直樹はサッカーの部活を終えて帰る所の智に声をかけた。
「ほいなー、カレーパン。」
「サンキュ!」
智は鞄を肩にかけ直しパンを受け取る。
もぐもぐと食べながら、
「先に帰ってれば良かったのに。バイトがあるだろ?」
「そうなんだけど」
直樹はそんな智を見つめながら、「兄貴がさ、2日不在になるから智のトコに泊めてもらおうと思ってさ。ついさっき、兄貴から携帯に連絡あったんだ。」
「瞬兄も忙しいね。」
2人は肩を並べて、高校を後にした。
夕焼けが2人の影を路上に長く伸びさせる。
「この間、イタリアから帰ったばかりじゃん。」
「俺たち、大学進学を控えてるだろ?」
「うん。」
「だから、稼いでるんだろ?」
「はぁ。」
智は曖昧に頷いた。「智だってバイトしてるし一応<あしながおじさん>入ってるんだろ?」
「まーね。」
直樹は舌をちょっと出し、「本当は兄貴は半分趣味でやってるとこあるからねー。」
電車に乗り2駅目に智と直樹の家がある。
「いらっしゃーい、智くん、直樹くん♡」
「… …」
智はがっくり肩を落とした。「その最後に入るハート・マーク的な喋り方どうにかならない?いくら、親父が海外出張だからって。」
「あーら、それは関係ないわよ。」
智の母は白いエプロンドレスの裾を翻し、
「瞬ちゃんに頼んでおいた瞬ちゃんの写真集今見てたのよ。そうしたら瞬ちゃんからも電話が入って、」
「で、母さん。今度は誰に『サイン入り』写真集配るの?」
「PTAよ、智ちゃんと直樹ちゃんの学校の。」
「極秘だよ、直樹の兄貴が瞬だなんて。」
「だから、『極秘』に頼んでおいたのよー。」
智の母は銀色の『おたま』を振り回し、
「2年ぶりの写真集でしょ。母さん、つい口が滑ってー。
「… …。」
「… …。」
智と直樹はお互いを見つめて溜息交じりに肩を落とした。
夕食を終えた智と直樹は、2階の智の部屋で携帯ゲームを楽しんでいた。むろん、何処からかで瞬も参加しているに違いない。
「あー、武田信玄の勝ち。」
直樹がぷちぷちとボタンを押しながら言った。
「ところでさ」
彼が智に向かって続ける。「お前、大学決めた?」
「うん。」
携帯から目を離さずに、智は答えた。「S大学。あそこサッカー強いから。」
「大学でもサッカー続けるの?」
「うん。直樹は?」
「俺はA大学。」
「何で。」
「医者になりたいから。」
「何で。」
「父さんと母さんを救えなかったし、元々兄貴がA大学に入って、医者になるつもりだったから。」
「それって」
智は初めて視線を直樹に向けた。「自己犠牲じゃない?本当にやりたいことないの?」
「ある。」
「何?」
「お前と一緒にいる事。父さんと母さんを守れなかった分、智と兄貴を守る。」
「FFに感化された?」
智は苦笑した。
「そんなんじゃないよ。」
直樹は智を見つめ、「本当に守りたいんだ。理由は判らないけど。」
「俺だって直樹や瞬兄や母さんを守りたいよ。」
智は言った。「誰もが守りたいものを持ってるんじゃない?」
「そりゃそうだ。」
直樹は頷き、再びスマフォに視線を落とした。
「智はサッカーがあるからね。」
「直樹だって瞬兄がいるじゃんん。俺、一人っ子だし羨ましいよ。」
智もスマフォに目を落とした。「柴田勝家沈没。」
「あはははは!」
直樹は声をあげて笑った。「もう少し歴史の勉強して、強い味方を付けなくちゃ。」
「直樹が頭良すぎるんだよ。」
確かに。
直樹は学年TOPである。
「んじゃー。」
直樹があくびをしながら両腕を伸ばし、
「そろそろ寝ますか。休み前だけど明日は朝練あるんだろ?」
「うん。そうだね。」
智もあくびをしだした。
時計の針は午前1:00を廻っていた。
2人は智の母が用意したお揃いのグレーのパーカーに着替え、
「最初はグー。」
「じゃんけんぽん。」
「はい、智は床の上。」
直樹はとっとと智のベッドに入ってしまった。
「どういう事??」
智は不服そうに近くの黒いクッションを直樹目がけて投げつけた。
「この間もお前、俺のベッドだったろ?」
「智のじゃんけんなんて、俺大抵判るからさ---おやすみ。」
もぞもぞと直樹はそのまま白い羽毛布団に隠れてしまった。
「どういう事?」
智は寝袋にくるまり、「ったく、直樹ってヤツは。瞬兄が甘やかすからだよ!」
ぶつぶつ文句を言いだした。
瞬が直樹を可愛がるのは半端ではない。
幼い直樹をここまで未成年だった瞬が育てあげるとは… …。
モデルのバイトも生活費や進学費用の為に始めた事。
智はそれをよく判っていた。
「… …」
羽毛布団にくるまってるため、今、直樹がどんな顔をしているか判らない。
「寝よ。」
智は目を閉じた。
夢を見た。
2人の男女が不思議な服を着ている。
(練習疲れかな… …)
夢の中で呟く、智。(あれ、女性の方、確か十二単とか言ってたっけ。)
まるで、目の前に立っている様な2人。
(この間試験に出た烏帽子帽とかいうヤツだったな、男性の方は。)
眠たいんですけど。
智は2人に『言った』。
女性の方がくすくすと笑うのが見えた。
それから。
男性が、切れ長の涼しげな目元で微笑み、何かを言った。
(聞こえませんー。)
十二単の女性も急に眉間に皺を寄せて何かを訴えていた。
(聞こえないよー。)
何度も口にする女性。
(アンシン?)
女性は首を振った。まるで智の言葉が判るかのように。
でも、ここは夢の中。
艶やかな女性は腰まである長い髪を揺らし、何度も智に『何か』を伝えようとしている。
『… …ジン』
(ジシン?)
女性は首を振って、もう一度ゆっくりと言った。
『雷神。』
(雷神?)
ガバッ
智は飛び起きた。
額には汗が滲んでいる。
「どうした、智。」
ベッドの上から直樹が声をかける。
「… …」
智は無言で肩で息をしている。
「おい、母さん呼ぼうか?」
素早くベッドを降りた直樹は智の隣に腰を降ろした。
「… …いや。」
智は首を振った。「変な夢を見ただけ。」
「そう。」
「そう。」
『雷神。』
あの、十二単の女性の口の形は確かにそう形作られていた。
そして。
聞こえた---雷神と。
何処かで---学校の授業とかではなく、聞いた事がある。
智はその言葉に恐怖を覚えて仕方なかった。
※「小説家になろう」http://mypage.syosetu.com/87301/
※「魔法のiランド」http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=gackt1130_5
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すがすがしい笛の音だけが聞こえていた。
ふと。
その音が途切れる。
「私の命は短命です。」
狩衣姿の青年は言った。「もう、私で終わりでしょう。あの者の恨みも。」
「… …。」
御簾の中からは何の返答もない。
浅黄色の着物を着た侍女が御簾の前ですすり泣きを始めた。
「惇忠様… …!」
「惇忠様!」
すがすがしい切れ長の目を持つ青年---藤原
惇忠は告げた。
「彰子様。」
侍女の一人に笛を預けた。「これを私だと思って下さい。」
「… …!」
御簾の中で着物の擦れる音が微かに聞こえた。
「私はもう行かなければなりません。」
「!… …」
彰子は心の中で叫び、御簾を勢いよく上げた。
しかし、そこには、彼の姿は無かった。
「惇忠… …っ!」
彰子と呼ばれた姫は庭に降り立った。
風だけが。
そこに残っていた。
『行かないで!』
どうしてその一言が言えなかったのだろう。
手を伸ばせば、届く距離にいたのに。
ワタシダケガ アツタダヲ スクエタノニ。
ワタシダケガ カノモノヲ
タオスコトガ デキタノニ。
彰子はじっと庭を見つめていた。
『笛は好きですか?』
先に声をかけたのは彰子の庭に迷い込んだ惇忠の方だった。
『… …好きです。』
ワタシ ハ コンナ コエヲ
シテイタノカシラ?
それが2人の出逢いだった。
その惇忠はもういない… …。
「姫様。」
惇忠から受け取った笛を侍女が敦子に渡した。
「-----」
アノトキ ナゼ テヲ ノバサナカッタ?
ノバセバ トドク キョリ ダッタノニ。
彰子は笛を胸に抱きしめた。
紅の十二単が御簾と共に初夏の風に揺れる。
空は雲ひとつなかった。
モウ アエナイ… …
カノモノガ 『マタ』カレノ
イノチヲ ネラウ。
彰子は笛を胸に目を固く閉じた。
そして、思う。
『雷神』を。
それは、1000年もの昔の話… …
直樹と智は腐れ縁の幼馴染だった。
家が隣同志という理由もあるが、直樹が幼い頃両親を事故で亡くし、それからはモデルをやっている兄 瞬に育てられ智の家にも瞬が留守になる時、泊まりに行くせいもある。
両親を亡くした時、瞬は既に大学生、直樹は小学生だった。それからは瞬は仕事と学業を両立し、智を育てあげたのである。
「智、お疲れー!」
放課後の学校の校庭の片隅で、直樹はサッカーの部活を終えて帰る所の智に声をかけた。
「ほいなー、カレーパン。」
「サンキュ!」
智は鞄を肩にかけ直しパンを受け取る。
もぐもぐと食べながら、
「先に帰ってれば良かったのに。バイトがあるだろ?」
「そうなんだけど」
直樹はそんな智を見つめながら、「兄貴がさ、2日不在になるから智のトコに泊めてもらおうと思ってさ。ついさっき、兄貴から携帯に連絡あったんだ。」
「瞬兄も忙しいね。」
2人は肩を並べて、高校を後にした。
夕焼けが2人の影を路上に長く伸びさせる。
「この間、イタリアから帰ったばかりじゃん。」
「俺たち、大学進学を控えてるだろ?」
「うん。」
「だから、稼いでるんだろ?」
「はぁ。」
智は曖昧に頷いた。「智だってバイトしてるし一応<あしながおじさん>入ってるんだろ?」
「まーね。」
直樹は舌をちょっと出し、「本当は兄貴は半分趣味でやってるとこあるからねー。」
電車に乗り2駅目に智と直樹の家がある。
「いらっしゃーい、智くん、直樹くん♡」
「… …」
智はがっくり肩を落とした。「その最後に入るハート・マーク的な喋り方どうにかならない?いくら、親父が海外出張だからって。」
「あーら、それは関係ないわよ。」
智の母は白いエプロンドレスの裾を翻し、
「瞬ちゃんに頼んでおいた瞬ちゃんの写真集今見てたのよ。そうしたら瞬ちゃんからも電話が入って、」
「で、母さん。今度は誰に『サイン入り』写真集配るの?」
「PTAよ、智ちゃんと直樹ちゃんの学校の。」
「極秘だよ、直樹の兄貴が瞬だなんて。」
「だから、『極秘』に頼んでおいたのよー。」
智の母は銀色の『おたま』を振り回し、
「2年ぶりの写真集でしょ。母さん、つい口が滑ってー。
「… …。」
「… …。」
智と直樹はお互いを見つめて溜息交じりに肩を落とした。
夕食を終えた智と直樹は、2階の智の部屋で携帯ゲームを楽しんでいた。むろん、何処からかで瞬も参加しているに違いない。
「あー、武田信玄の勝ち。」
直樹がぷちぷちとボタンを押しながら言った。
「ところでさ」
彼が智に向かって続ける。「お前、大学決めた?」
「うん。」
携帯から目を離さずに、智は答えた。「S大学。あそこサッカー強いから。」
「大学でもサッカー続けるの?」
「うん。直樹は?」
「俺はA大学。」
「何で。」
「医者になりたいから。」
「何で。」
「父さんと母さんを救えなかったし、元々兄貴がA大学に入って、医者になるつもりだったから。」
「それって」
智は初めて視線を直樹に向けた。「自己犠牲じゃない?本当にやりたいことないの?」
「ある。」
「何?」
「お前と一緒にいる事。父さんと母さんを守れなかった分、智と兄貴を守る。」
「FFに感化された?」
智は苦笑した。
「そんなんじゃないよ。」
直樹は智を見つめ、「本当に守りたいんだ。理由は判らないけど。」
「俺だって直樹や瞬兄や母さんを守りたいよ。」
智は言った。「誰もが守りたいものを持ってるんじゃない?」
「そりゃそうだ。」
直樹は頷き、再びスマフォに視線を落とした。
「智はサッカーがあるからね。」
「直樹だって瞬兄がいるじゃんん。俺、一人っ子だし羨ましいよ。」
智もスマフォに目を落とした。「柴田勝家沈没。」
「あはははは!」
直樹は声をあげて笑った。「もう少し歴史の勉強して、強い味方を付けなくちゃ。」
「直樹が頭良すぎるんだよ。」
確かに。
直樹は学年TOPである。
「んじゃー。」
直樹があくびをしながら両腕を伸ばし、
「そろそろ寝ますか。休み前だけど明日は朝練あるんだろ?」
「うん。そうだね。」
智もあくびをしだした。
時計の針は午前1:00を廻っていた。
2人は智の母が用意したお揃いのグレーのパーカーに着替え、
「最初はグー。」
「じゃんけんぽん。」
「はい、智は床の上。」
直樹はとっとと智のベッドに入ってしまった。
「どういう事??」
智は不服そうに近くの黒いクッションを直樹目がけて投げつけた。
「この間もお前、俺のベッドだったろ?」
「智のじゃんけんなんて、俺大抵判るからさ---おやすみ。」
もぞもぞと直樹はそのまま白い羽毛布団に隠れてしまった。
「どういう事?」
智は寝袋にくるまり、「ったく、直樹ってヤツは。瞬兄が甘やかすからだよ!」
ぶつぶつ文句を言いだした。
瞬が直樹を可愛がるのは半端ではない。
幼い直樹をここまで未成年だった瞬が育てあげるとは… …。
モデルのバイトも生活費や進学費用の為に始めた事。
智はそれをよく判っていた。
「… …」
羽毛布団にくるまってるため、今、直樹がどんな顔をしているか判らない。
「寝よ。」
智は目を閉じた。
夢を見た。
2人の男女が不思議な服を着ている。
(練習疲れかな… …)
夢の中で呟く、智。(あれ、女性の方、確か十二単とか言ってたっけ。)
まるで、目の前に立っている様な2人。
(この間試験に出た烏帽子帽とかいうヤツだったな、男性の方は。)
眠たいんですけど。
智は2人に『言った』。
女性の方がくすくすと笑うのが見えた。
それから。
男性が、切れ長の涼しげな目元で微笑み、何かを言った。
(聞こえませんー。)
十二単の女性も急に眉間に皺を寄せて何かを訴えていた。
(聞こえないよー。)
何度も口にする女性。
(アンシン?)
女性は首を振った。まるで智の言葉が判るかのように。
でも、ここは夢の中。
艶やかな女性は腰まである長い髪を揺らし、何度も智に『何か』を伝えようとしている。
『… …ジン』
(ジシン?)
女性は首を振って、もう一度ゆっくりと言った。
『雷神。』
(雷神?)
ガバッ
智は飛び起きた。
額には汗が滲んでいる。
「どうした、智。」
ベッドの上から直樹が声をかける。
「… …」
智は無言で肩で息をしている。
「おい、母さん呼ぼうか?」
素早くベッドを降りた直樹は智の隣に腰を降ろした。
「… …いや。」
智は首を振った。「変な夢を見ただけ。」
「そう。」
「そう。」
『雷神。』
あの、十二単の女性の口の形は確かにそう形作られていた。
そして。
聞こえた---雷神と。
何処かで---学校の授業とかではなく、聞いた事がある。
智はその言葉に恐怖を覚えて仕方なかった。
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「うあーっ!!」
貢はSWAP(警視庁特殊行動部隊)の一室で、飛び起きた。
先ほど日本に着き、浅井 啓刑事と共に仮眠をとっていたところだった。
「どうした、貢!」
啓も飛び起き、隣の彼を見つめた。
「… …俺なんだ… …。」
貢は薄でのシャツにも関わらず、全身が汗でいっぱいだった。「俺が---全てを終わらせたんだ。それが始まりだったんだ。」
「記憶を」
彼の肩を抱き、啓は切れ長の目を細め、「思い出したのか?」
こっくり、と貢は頷いた。
「話せるか?」
「… …うん。」
貢の全身が熱い。
それに気付いた啓は、
「話は後だ。SCUへ行こう。」
「大丈夫、啓!」
貢は頭を激しく振った。
「だけど」
「今じゃなきゃ駄目なんだよ、啓!BABYRON計画が行われる前じゃないと。」
彼は啓の白いシャツの袖を掴み、
「俺は---俺と拓未兄さんは、偶然、米国総領事館を勤める父さんと渡米してたんだ。母さんはもうとっくに他界してたから。」
「ああ。」
「そこで、イラクのZATOに拉致されたんだ。」
貢は両手を握りしめている。
その両手にも汗が滲んでいる。
「俺の『力』は米国でも極秘だった。だけど、何処からか情報が漏れて---もしかして、2000年の9月の同時テロの時かもしれないけど---そこらへんはよく覚えてないけど、そのどさくさの中で俺と兄さんはイラクに拉致されたんだ。」
「そうだったのか… …。」
「そして、湾岸戦争。」
貢は目を閉じた。「俺たちは---少なくとも兄さんは身代金と引き換えに帰国出来るはずだった。だけど、戦争が始まった。イラクのZATOは俺たちに目を付けて、俺の『力』で米軍を叩くつもりだった。」
「『つもり』?」
啓は尋ねた。「どういう事?」
「俺はまだ子供で兄さんほど情報を知っていなかった。湾岸戦争が起こった時、拓未兄さんはタリバンに連れ去られようとしていた。それを止めようとして、俺は『力』を使ってしまった。」
「… …。」
「そうなんだよ、啓。」
汗まみれの顔を、貢は啓に向けた。「俺の兄さんを守ろうとした『力』がイラクの全ての自然界にある核物質を反応させて、一夜にしてイラクを焼き尽くしてしまったんだ。」
「貢… …」
「後は、啓に救われるまで自分の事も兄さんの事も忘れていた。」
「… …仕方ないよ、それは。」
啓は静かに言った。「米国軍の攻撃じゃなくて、貢の力がイラクを焼き尽くしたって言いたいんだろ?」
「そう… …」
「『力』を使い過ぎて、お前は記憶を失ってしまったんだ。」
「うん。」
貢はこっくりと頷いた。
「だけど」
啓は尋ねた。「どうして、今になって---BABYRON計画が始まる前に伝えなければいけなかったんだ?」
「全てはあの時から」
貢はじっと啓の瞳を見つめ、「コード・ネーム『BABYRON』は始まっていたんだ。俺の力に気付いたイラクは米国への攻撃の力に使おうと計画を立てたんだ。俺が日本に啓と帰国して、いつかは俺の記憶が戻るきっかけとなる拓未や父さんの存在に気付かせて、今度は日本経由で米国を叩きつぶすつもりなんだ。」
「それって」
啓は言った。「『9.11』の再来?」
「… …」
その質問に、貢は何も言えなかった。
その頃。
日本の〇〇県にある原子力施設で、緊急停止を告げるブザーが鳴り響いていた。
「どうしたんだ!?」
駆け付けた施設長が中央指令室で、部下に尋ねた。
「はい。」
部下たちは動きまわり、この施設を制御している巨大なコンピューターを端末を使って調べていた。
そして、言った。
「核納容器が臨界点に達してます!」
「何だと!?」
「施設長!」
ホット・ラインが2カ所から入った。
一カ所は首相官邸から。
もう一カ所は他の件にある原子力発電所だった。
部下は、
「他の原子力発電所でも、核納容器が臨界点に達して水素爆発を起こす寸前との事です!」
「制御室は何をしてるんだ!」
施設長は指示を飛ばした。「海水を注入させろ!それとどの核納器が原因か早く調べるんだ!」
「施設長、〇〇総理からです!」
もう一本のホット・ラインを部下が施設長に繋いだ。
『一体、どういう事なのかね!?すぐにそちらへ行く!』
「いえ、ここだけじゃないんです!日本の4機の原子力発電所全部がコンピューター制御が出来ず、臨界点に達しているんです!」
『とにかく、早く半径50km圏内の市民を非難させるんだ!SWAP(警視庁特殊行動部隊)も各地へ送りこむ!』
「判りました。」
首相官邸に政府要人が集まった。
そして、首相は呟いた。
「BABYRON計画が発動した。」
その意味を誰もが思い知ったのはこの時だった。
その14時間前。
インドの中西部にある都市 ニューデリーにある、とある中東大使館に拓未はいた。
「で、日本(バベル)の様子はどうだね?」
その中東首相は広い緑が広がる窓を背に、目の前に立つ拓未に尋ねた。
黒い顎髭と同じく黒のターバンが印象的だ。
白のスーツ姿の拓未は、
「予定通りです。」
流暢なイスラム語で答えた。「インドにもタリバン(イスラム原理主義者)の使徒が大勢います。数式にもプログラミングにも強い。」
そして、続けた。
「日本の原子力発電所の制御を解除するプログラム---46億8000万通りの組み合わせを解くのにそう時間はかからないでしょう。」
「情報によると、日本海で訓練航行を行っているジョージ・ワシントンがいるそうだ。」
「気付いた所で遅いでしょう。」
「大丈夫かね?」
「計画はもう実行されてます、アッラー。」
無表情に拓未は言った。
そして、日本。
SWAP(警視庁特殊行動部隊)がある東京の一角で、
「点滴なんていい!啓、俺も連れていって!」
数人の隊員に両腕を取られながら、貢は前を歩く浅井 啓刑事に言った。
「お前は」
それは、啓の『感』だった。「最後のチェスの駒だ。そこを動くな。」
いつもの、のほほんとした表情はない。
その表情は、湾岸戦争に参戦した時のSWAP(警視庁特殊行動部隊)のものだった。
「啓っ!」
「絶対に貢をSCU(集中治療室)から出すなよ。」
今までにない冷たい声で、後ろに向かって啓は告げた。
「啓っ!!」
貢の声が追いかけて来る。
啓は後ろ髪をひかれる思いだったが、
(今、貢が暴走したら)
素早く階段を降り、外へと出る。
高台にあるその場所からは、都会のネオンの星々が見下ろせる。
(貢は『5機目の』原子力発電所になるだろう。)
心の中でそう呟く。
ネオンを見渡しながら、啓は必至に思考を巡らした。
左手の親指を軽く噛み、
(キーワードは『バベル』だった。)
そう。
始めて、貢と会った時の記憶を失った彼の台詞。
(そして、今回の『BABYRON』計画---)
残りの大理石の階段を啓はそのままゆっくりと降りた。(まだ、何かキーワードがある気がする。)
切れ長の目を細める。
例の政府要人警護の時に銃を放った人間。
未だに捕まっていないが、
(貢は『BABYRON』と携帯でゲームをしていた。)
あの事件を思い出す。
(それなら『BABYRON』か『バベル』がキーワード?)
階段を降り切った所で、ふと、啓は旧約聖書を思い出した。
「神は人々をバラバラにした。言語も別々にした。」
目を細める。「バラバラ?」
啓は呟いた。
「バラバラにされたのは、貢の---拓未と拓也だ。」
タリバンによって、幼い頃、中東の総領事館をやっていた父の元から引き離された兄弟。
「次に拓未が狙うとしたら?」
自問自答を繰り返す。
と。
啓は、階段の下に止まってるSWAP(警視庁特殊行動部隊)のパトカーに目を付けた。
「あのー」
いつもの、のほほんとした表情で、「この東京を支えている原子力発電所は今は何処?」
「はい。」
グレーの制服姿の彼は啓に向かって敬礼をし、「〇〇県の〇〇原子力発電所です。」
「ちなみに、お宅、何処の出身?」
「はい!福岡です。」
啓の質問に素直に答えた警官は、そのまま、不思議そうな表情を浮かべた。「それがどうかしましたか?」
「東京ってお宅にとってどういう場所?」
「そうですね… …憧れの場所というか、地方の人なら一度は東京に来たいと思うでしょう。」
「バラバラ。」
「は?」
「ちょっと、この車借りるよん。」
鼻歌交じりにそう言うと、啓は彼の車に乗り込んだ。「たぶん、この車は返せないと思うからもう報告書提出しといて。」
「あ。あの---」
グワンッ
車は急発進した。
啓は制限速度を超えて、首都高に入った。
もちろん、ランプは一応付けておいた。
「そう、東京もバラバラだ。」
運転をしながら、彼の視線は厳しかった。「誰もが集まる都市---まるで、メソポタミアに伝わるバベルの塔のように日本人はこの『東京』を創った。日本一の経済都市になるように---いや、世界一だな。」
啓は確信した。
この東京を動かしている原子力発電所に、拓未は姿を現わすだろう。
そして、この東京には貢が---拓也がいる。
引き裂かれたものが、互いに相惹きあうように。
何故、このタイミングに?
何故、東京(ここ)で?
全ては、仕組まれたものだった。
「そう。仕組まれていたんだ---俺と貢と拓未との巡り合わせ。」
啓は呟いた。
「この『BABYRON』計画を止めるキーワードも俺たちの『何か』にあるはずだ。」
そして。
彼は〇〇県〇〇原子力発電所目がけて、車を走らせた。
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貢はSWAP(警視庁特殊行動部隊)の一室で、飛び起きた。
先ほど日本に着き、浅井 啓刑事と共に仮眠をとっていたところだった。
「どうした、貢!」
啓も飛び起き、隣の彼を見つめた。
「… …俺なんだ… …。」
貢は薄でのシャツにも関わらず、全身が汗でいっぱいだった。「俺が---全てを終わらせたんだ。それが始まりだったんだ。」
「記憶を」
彼の肩を抱き、啓は切れ長の目を細め、「思い出したのか?」
こっくり、と貢は頷いた。
「話せるか?」
「… …うん。」
貢の全身が熱い。
それに気付いた啓は、
「話は後だ。SCUへ行こう。」
「大丈夫、啓!」
貢は頭を激しく振った。
「だけど」
「今じゃなきゃ駄目なんだよ、啓!BABYRON計画が行われる前じゃないと。」
彼は啓の白いシャツの袖を掴み、
「俺は---俺と拓未兄さんは、偶然、米国総領事館を勤める父さんと渡米してたんだ。母さんはもうとっくに他界してたから。」
「ああ。」
「そこで、イラクのZATOに拉致されたんだ。」
貢は両手を握りしめている。
その両手にも汗が滲んでいる。
「俺の『力』は米国でも極秘だった。だけど、何処からか情報が漏れて---もしかして、2000年の9月の同時テロの時かもしれないけど---そこらへんはよく覚えてないけど、そのどさくさの中で俺と兄さんはイラクに拉致されたんだ。」
「そうだったのか… …。」
「そして、湾岸戦争。」
貢は目を閉じた。「俺たちは---少なくとも兄さんは身代金と引き換えに帰国出来るはずだった。だけど、戦争が始まった。イラクのZATOは俺たちに目を付けて、俺の『力』で米軍を叩くつもりだった。」
「『つもり』?」
啓は尋ねた。「どういう事?」
「俺はまだ子供で兄さんほど情報を知っていなかった。湾岸戦争が起こった時、拓未兄さんはタリバンに連れ去られようとしていた。それを止めようとして、俺は『力』を使ってしまった。」
「… …。」
「そうなんだよ、啓。」
汗まみれの顔を、貢は啓に向けた。「俺の兄さんを守ろうとした『力』がイラクの全ての自然界にある核物質を反応させて、一夜にしてイラクを焼き尽くしてしまったんだ。」
「貢… …」
「後は、啓に救われるまで自分の事も兄さんの事も忘れていた。」
「… …仕方ないよ、それは。」
啓は静かに言った。「米国軍の攻撃じゃなくて、貢の力がイラクを焼き尽くしたって言いたいんだろ?」
「そう… …」
「『力』を使い過ぎて、お前は記憶を失ってしまったんだ。」
「うん。」
貢はこっくりと頷いた。
「だけど」
啓は尋ねた。「どうして、今になって---BABYRON計画が始まる前に伝えなければいけなかったんだ?」
「全てはあの時から」
貢はじっと啓の瞳を見つめ、「コード・ネーム『BABYRON』は始まっていたんだ。俺の力に気付いたイラクは米国への攻撃の力に使おうと計画を立てたんだ。俺が日本に啓と帰国して、いつかは俺の記憶が戻るきっかけとなる拓未や父さんの存在に気付かせて、今度は日本経由で米国を叩きつぶすつもりなんだ。」
「それって」
啓は言った。「『9.11』の再来?」
「… …」
その質問に、貢は何も言えなかった。
その頃。
日本の〇〇県にある原子力施設で、緊急停止を告げるブザーが鳴り響いていた。
「どうしたんだ!?」
駆け付けた施設長が中央指令室で、部下に尋ねた。
「はい。」
部下たちは動きまわり、この施設を制御している巨大なコンピューターを端末を使って調べていた。
そして、言った。
「核納容器が臨界点に達してます!」
「何だと!?」
「施設長!」
ホット・ラインが2カ所から入った。
一カ所は首相官邸から。
もう一カ所は他の件にある原子力発電所だった。
部下は、
「他の原子力発電所でも、核納容器が臨界点に達して水素爆発を起こす寸前との事です!」
「制御室は何をしてるんだ!」
施設長は指示を飛ばした。「海水を注入させろ!それとどの核納器が原因か早く調べるんだ!」
「施設長、〇〇総理からです!」
もう一本のホット・ラインを部下が施設長に繋いだ。
『一体、どういう事なのかね!?すぐにそちらへ行く!』
「いえ、ここだけじゃないんです!日本の4機の原子力発電所全部がコンピューター制御が出来ず、臨界点に達しているんです!」
『とにかく、早く半径50km圏内の市民を非難させるんだ!SWAP(警視庁特殊行動部隊)も各地へ送りこむ!』
「判りました。」
首相官邸に政府要人が集まった。
そして、首相は呟いた。
「BABYRON計画が発動した。」
その意味を誰もが思い知ったのはこの時だった。
その14時間前。
インドの中西部にある都市 ニューデリーにある、とある中東大使館に拓未はいた。
「で、日本(バベル)の様子はどうだね?」
その中東首相は広い緑が広がる窓を背に、目の前に立つ拓未に尋ねた。
黒い顎髭と同じく黒のターバンが印象的だ。
白のスーツ姿の拓未は、
「予定通りです。」
流暢なイスラム語で答えた。「インドにもタリバン(イスラム原理主義者)の使徒が大勢います。数式にもプログラミングにも強い。」
そして、続けた。
「日本の原子力発電所の制御を解除するプログラム---46億8000万通りの組み合わせを解くのにそう時間はかからないでしょう。」
「情報によると、日本海で訓練航行を行っているジョージ・ワシントンがいるそうだ。」
「気付いた所で遅いでしょう。」
「大丈夫かね?」
「計画はもう実行されてます、アッラー。」
無表情に拓未は言った。
そして、日本。
SWAP(警視庁特殊行動部隊)がある東京の一角で、
「点滴なんていい!啓、俺も連れていって!」
数人の隊員に両腕を取られながら、貢は前を歩く浅井 啓刑事に言った。
「お前は」
それは、啓の『感』だった。「最後のチェスの駒だ。そこを動くな。」
いつもの、のほほんとした表情はない。
その表情は、湾岸戦争に参戦した時のSWAP(警視庁特殊行動部隊)のものだった。
「啓っ!」
「絶対に貢をSCU(集中治療室)から出すなよ。」
今までにない冷たい声で、後ろに向かって啓は告げた。
「啓っ!!」
貢の声が追いかけて来る。
啓は後ろ髪をひかれる思いだったが、
(今、貢が暴走したら)
素早く階段を降り、外へと出る。
高台にあるその場所からは、都会のネオンの星々が見下ろせる。
(貢は『5機目の』原子力発電所になるだろう。)
心の中でそう呟く。
ネオンを見渡しながら、啓は必至に思考を巡らした。
左手の親指を軽く噛み、
(キーワードは『バベル』だった。)
そう。
始めて、貢と会った時の記憶を失った彼の台詞。
(そして、今回の『BABYRON』計画---)
残りの大理石の階段を啓はそのままゆっくりと降りた。(まだ、何かキーワードがある気がする。)
切れ長の目を細める。
例の政府要人警護の時に銃を放った人間。
未だに捕まっていないが、
(貢は『BABYRON』と携帯でゲームをしていた。)
あの事件を思い出す。
(それなら『BABYRON』か『バベル』がキーワード?)
階段を降り切った所で、ふと、啓は旧約聖書を思い出した。
「神は人々をバラバラにした。言語も別々にした。」
目を細める。「バラバラ?」
啓は呟いた。
「バラバラにされたのは、貢の---拓未と拓也だ。」
タリバンによって、幼い頃、中東の総領事館をやっていた父の元から引き離された兄弟。
「次に拓未が狙うとしたら?」
自問自答を繰り返す。
と。
啓は、階段の下に止まってるSWAP(警視庁特殊行動部隊)のパトカーに目を付けた。
「あのー」
いつもの、のほほんとした表情で、「この東京を支えている原子力発電所は今は何処?」
「はい。」
グレーの制服姿の彼は啓に向かって敬礼をし、「〇〇県の〇〇原子力発電所です。」
「ちなみに、お宅、何処の出身?」
「はい!福岡です。」
啓の質問に素直に答えた警官は、そのまま、不思議そうな表情を浮かべた。「それがどうかしましたか?」
「東京ってお宅にとってどういう場所?」
「そうですね… …憧れの場所というか、地方の人なら一度は東京に来たいと思うでしょう。」
「バラバラ。」
「は?」
「ちょっと、この車借りるよん。」
鼻歌交じりにそう言うと、啓は彼の車に乗り込んだ。「たぶん、この車は返せないと思うからもう報告書提出しといて。」
「あ。あの---」
グワンッ
車は急発進した。
啓は制限速度を超えて、首都高に入った。
もちろん、ランプは一応付けておいた。
「そう、東京もバラバラだ。」
運転をしながら、彼の視線は厳しかった。「誰もが集まる都市---まるで、メソポタミアに伝わるバベルの塔のように日本人はこの『東京』を創った。日本一の経済都市になるように---いや、世界一だな。」
啓は確信した。
この東京を動かしている原子力発電所に、拓未は姿を現わすだろう。
そして、この東京には貢が---拓也がいる。
引き裂かれたものが、互いに相惹きあうように。
何故、このタイミングに?
何故、東京(ここ)で?
全ては、仕組まれたものだった。
「そう。仕組まれていたんだ---俺と貢と拓未との巡り合わせ。」
啓は呟いた。
「この『BABYRON』計画を止めるキーワードも俺たちの『何か』にあるはずだ。」
そして。
彼は〇〇県〇〇原子力発電所目がけて、車を走らせた。
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王は目を開けた。
昼間近の陽光が眩しい。
「大丈夫ですか、王。」
側近が机から顔を上げた彼に問いかけた。
「いや、何でもない。」
「少し眠られていたようですね。」
もう一人の側近が言った。「先週から眠剤に入れているベゲタミンやセロクエルが利き始めたのでは?」
「・・・ ・・・。」
その台詞に王は無言だった。
自分は確かに夢を見た。
モンターラの森の湖の女神の夢を・・・ ・・・
「・・・ ・・・」
王はそのまま席を立ち、窓際へと向かった。
昼の賑わいを見せるその城下は夜のそれとはまったく違っていた。
あの、花売りの少女。
今はこの城のメイドとなった王と同じく眠りを知らない女性。
そんな彼女たちとは違う、街の風景。
「光があるから闇がある。」
王はぽつり、と呟いた。「光はその闇を隠すかのように光輝いている。」
「どうかされたのですか?王。」
「私はこの国の光と闇を見て来た。」
振り返り、王は側近たちに答えた。「夜は魔女の契約通りこの国の本当の姿を見て、昼は太陽の光に隠された人々の生活を政務をこなしながら見て来た。」
「国王---」
側近は口を噤んだ。
あまりにも眩しい陽光が王の背後から忍び込んで来たからだ。
「私はモンターラの森の湖の主が持つ剣を抜く事は出来ないだろう。」
ヴェルデヴォリナ国王は断言した。「何故なら私のこの王の座は私の母によって『作られた』ものだからだ。」
「薬の加減がおかしいのですか?国王。」
薬師が目を細めた。
「違うのだよ。」
王は静かに首を振った。「私は魔女との契約で眠りを奪われた。昼は昼の政務をこなしてこの国の民の暮らしを良いものにし、夜は闇の中で仕事をする貧しい人々の姿を見て来た。」
王は初めて、側近にそのことを告げた。
「もう3年にもなる。」
「魔女とは・・・ ・・・」
側近はその言葉にざわついた。「魔女に呪いをかけられたのですか?」
「呪いではない、『契約』だ。」
王はそう答え、「いつかこの国の民全ての者が---夜に仕事をする貧しい者も昼に汗をかきながらレア・アースを採掘する者も、貿易で利益を得ている者も、果物やシルクを売って生活する全ての民が皆平等に暮らせるようにと。」
そして、続ける。「だが、私は今気付いたのだ。私は仮の国王に過ぎない。真の国王はこの国の何処かにいる。その者ならモンターラの森の主が持つ、何の欲も無い者だけが抜く事が出来る剣を受け取る事が出来るのだろう。」
「それは前国王の嫡子、ヴィアラ殿下の事ですか?」
「ですが、ヴィアラ様は貴方の母君が隣国の王としてこの国から出された方ですよ。」
「ヴィアラの国もこの国よりは山奥にあるが、彼はちゃんと政務をこなしている。」
「ヴェルデヴォリナ様。」
側近の一人が目を細めた。「一度、魔女払いの儀式を受けてみては?」
「これは夢ではない、現実なのだよ、みんな。」
王は苦笑して答えた。「確かに、ヴィアラは母の命に素直に従い、隣国に拠を移した。ヴィアラとてその時は何か考えがあったに違いない。モンターラの湖の剣を抜けるのは彼かもしれない。」
「と、言う事は?」
「・・・ ・・・」
王は何も答えず目を伏せた。
自分の今の地位が欲と言う名の母が我が子可愛さ故に据えたもの。
だから、王は自分はあの剣を抜くことは出来ないと思ったのだ。
「国王。」
年配の側近が口を開いた。「貴方様は一度もヴィアラ殿下と会った事はない。ヴィアラ殿下は前国王の計らいで、遠い---そう、モンターラの湖の向こうに幼き時より拠を移されていた。」
「知ってる。」
「一度、お会いになっては如何ですか?隣国とは表面上友好を保っていますが---確かに、この国の貿易からなる規模の国ではありませんが---この国の事に勿論関心を持たれている。」
「そう・・・ ・・・」
王は左の親指の爪をかんで、少し思案しているようであった。
それから、
「隣国となれば尚更友好を保たなければならない。」
「では、モンターラの森にある剣をぬけるのはヴィアラ殿下?」
側近がどよめいた。
在位してから3年間、政務を司ってきた側近たちに、今、王は『真実』を告げたのだ。
もし、ヴィアラの方が剣を抜く事が出来たなら、この国の真の国王は・・・ ・・・
静寂だけが執務室に訪れた。
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昼間近の陽光が眩しい。
「大丈夫ですか、王。」
側近が机から顔を上げた彼に問いかけた。
「いや、何でもない。」
「少し眠られていたようですね。」
もう一人の側近が言った。「先週から眠剤に入れているベゲタミンやセロクエルが利き始めたのでは?」
「・・・ ・・・。」
その台詞に王は無言だった。
自分は確かに夢を見た。
モンターラの森の湖の女神の夢を・・・ ・・・
「・・・ ・・・」
王はそのまま席を立ち、窓際へと向かった。
昼の賑わいを見せるその城下は夜のそれとはまったく違っていた。
あの、花売りの少女。
今はこの城のメイドとなった王と同じく眠りを知らない女性。
そんな彼女たちとは違う、街の風景。
「光があるから闇がある。」
王はぽつり、と呟いた。「光はその闇を隠すかのように光輝いている。」
「どうかされたのですか?王。」
「私はこの国の光と闇を見て来た。」
振り返り、王は側近たちに答えた。「夜は魔女の契約通りこの国の本当の姿を見て、昼は太陽の光に隠された人々の生活を政務をこなしながら見て来た。」
「国王---」
側近は口を噤んだ。
あまりにも眩しい陽光が王の背後から忍び込んで来たからだ。
「私はモンターラの森の湖の主が持つ剣を抜く事は出来ないだろう。」
ヴェルデヴォリナ国王は断言した。「何故なら私のこの王の座は私の母によって『作られた』ものだからだ。」
「薬の加減がおかしいのですか?国王。」
薬師が目を細めた。
「違うのだよ。」
王は静かに首を振った。「私は魔女との契約で眠りを奪われた。昼は昼の政務をこなしてこの国の民の暮らしを良いものにし、夜は闇の中で仕事をする貧しい人々の姿を見て来た。」
王は初めて、側近にそのことを告げた。
「もう3年にもなる。」
「魔女とは・・・ ・・・」
側近はその言葉にざわついた。「魔女に呪いをかけられたのですか?」
「呪いではない、『契約』だ。」
王はそう答え、「いつかこの国の民全ての者が---夜に仕事をする貧しい者も昼に汗をかきながらレア・アースを採掘する者も、貿易で利益を得ている者も、果物やシルクを売って生活する全ての民が皆平等に暮らせるようにと。」
そして、続ける。「だが、私は今気付いたのだ。私は仮の国王に過ぎない。真の国王はこの国の何処かにいる。その者ならモンターラの森の主が持つ、何の欲も無い者だけが抜く事が出来る剣を受け取る事が出来るのだろう。」
「それは前国王の嫡子、ヴィアラ殿下の事ですか?」
「ですが、ヴィアラ様は貴方の母君が隣国の王としてこの国から出された方ですよ。」
「ヴィアラの国もこの国よりは山奥にあるが、彼はちゃんと政務をこなしている。」
「ヴェルデヴォリナ様。」
側近の一人が目を細めた。「一度、魔女払いの儀式を受けてみては?」
「これは夢ではない、現実なのだよ、みんな。」
王は苦笑して答えた。「確かに、ヴィアラは母の命に素直に従い、隣国に拠を移した。ヴィアラとてその時は何か考えがあったに違いない。モンターラの湖の剣を抜けるのは彼かもしれない。」
「と、言う事は?」
「・・・ ・・・」
王は何も答えず目を伏せた。
自分の今の地位が欲と言う名の母が我が子可愛さ故に据えたもの。
だから、王は自分はあの剣を抜くことは出来ないと思ったのだ。
「国王。」
年配の側近が口を開いた。「貴方様は一度もヴィアラ殿下と会った事はない。ヴィアラ殿下は前国王の計らいで、遠い---そう、モンターラの湖の向こうに幼き時より拠を移されていた。」
「知ってる。」
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「そう・・・ ・・・」
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それから、
「隣国となれば尚更友好を保たなければならない。」
「では、モンターラの森にある剣をぬけるのはヴィアラ殿下?」
側近がどよめいた。
在位してから3年間、政務を司ってきた側近たちに、今、王は『真実』を告げたのだ。
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