BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

火の鳥 その後 #5 母

2017-03-05 15:54:27 | ファンフィクション

 
  #5  母  


 健は閉じた瞼の向こうに光を感じ、辺りに満ちる芳しい香りに気がついた。
暖かい風が柔らかく頬を撫で、とても心地がよかった。
思い切って眼を開けてみた健は続いて身体を動かしかけ、もう長い間、自分の一部になってしまっている
慢性的な眩暈や激しい頭痛が急な身動きによって起こることを恐れて、また眼を閉じた。
予想に反していつもの痛みや眩暈は起こらず健は張り詰めていた息を吐き、今度はゆっくりと眼を開いてみて
自分が柔らかな草の上に横たわっていることに気がついた。
いつの間にかバードスタイルが解けている。健は驚いて左手首を見た。ブレスレットがない。
(外れたのか?)
「ここは何処だ?俺は…総裁Zと戦っていたのではないのか?」
思い切って長い脚と腕を伸ばし起き上がった健は、自分自身に言い聞かせるように声に出して呟いた。
辺りには見渡す限り薔薇の花があり、薔薇の花園では白、クリーム、ピンク、赤、オレンジ、黄色、ラベンダー、
深紅、あらゆる色の美しい薔薇が静かに芳香を漂わせ、花の香りを運んできた柔らかな風が零れんばかりに咲く
薔薇と彼の髪をまた揺すっていった。


「健…」
静けさの中で懐かしい声が呼び、健は振り向いた。
彼の後方、気品のある白薔薇が群生している先に大きな樫の木があり、大木が
伸ばす枝葉の下に小さな泉水が水を湛え、泉の中央に置かれた石造りの壷からあふれる水が
静かに流れ落ちていた。
その泉水の縁に白い服をつけたひとがこちらを向いて座っている。
長く裾を引くドレスを纏った女性はまるで翼を付けた天使が舞い上がろうと
するかのように優雅な仕草で立ち上がった。
すらりと背が高く長い髪を結い上げ、特徴的な美しい青い眼が健に微笑んだ。
健は息を呑み、小さく叫んだ。
「お母さん!」
立ち上がった母は微笑みながら、ほっそりした腕を彼に向って差し伸べた。
「ここへいらっしゃい、健。顔を見せてちょうだい」
優しい声に促された健は足元を確かめるように、母に向かって一歩、踏み出した。
「俺は…死んだのか?」

よろめくような足取りで歩み寄って来た彼を見上げる、青く澄んだ綺麗な瞳が潤んだ。
「健…大きくなって…こんなに大きくなって…」
母の声が震えほっそりした手が額に掛る髪をかき上げた。
「なんて立派になって――あの小さな健が世界を救うなんて」
茫然とする端整な顔を見つめながら母は微笑み、白い手で優しく頬を撫でた。
「世界を救った?俺が?」
声が掠れ、精神的な衝撃が健を貫いた。やがて襲ってくるであろう例の激しい痛みを
予感して、健はいつもするように苦痛を少しでも抑える為、固く眼を閉じて歯を喰い縛り、
母に苦痛を悟られないよう、頭の深部に奔る例の激しい痛みに耐えようとした。
と、拳の形にきつく握り締めた彼の指をほっそりした手が包み、激痛を紛らわせるために
その拳を押しつける額に柔らかな唇がそっと押し当てられた。
ふらついて倒れそうになった彼を抱き止め、全ての痛み、苦しみ、災いから我が子を
守ろうとする母の腕が健を引き寄せ、強く抱きしめた。
「健…」
白い頬が寄せられ健を抱きしめた懐かしい手が髪を撫で、戦慄く背中を静かに宥める。
心の底に長く沈んでいた寂しさ、恋しさを溶かすように母の温もりが優しく健を包んだ。
「お母さん…」


やがて、再び噴水の縁に腰を降ろした母に並んだ健は引き寄せられるまま、その胸に凭れかかった。
「健、長い間、独りで…」
いたわりを込めた声が潤み、白い指が彼の頬をつたう涙を拭いながら、嗚咽に震える
背をそっと撫でた。子供の時と同じように、優しい母に頬ずりされながら温かな胸に
抱かれていると、いつもいきなり襲って来る激しい頭痛や眩暈に対する不安や恐れと共に、
長く自分に付き纏っている痛みそのものがかき消すように去っていった。

ふと、濡れた睫毛が囲む大きな眼が母を見上げた。
「お母さん、お父さんも死んだんだ。お父さんはどこ?今度こそみんなで一緒にいられる?」
母は小さく頷いて微笑み、ほっそりした手でまた彼の髪にふれてその濡れた頬を静かに撫でた。
そして―― 母はゆっくりと首を横に振った。
「可愛い健、ここに居てはいけません」
「お母さん?」
健は母に向き直った。
母は静かに立ち上がった。
「健、まだ来る時ではありません」
「お母さん!」
跳ね起きた健は母を掴もうと手を伸ばした。
「いいえ、健、いけません」
寂しげに微笑みながらも母は優しく、だがきっぱりと健を遮った。
「いやだ!お母さん!もう、どこにも行かないで!」
健の頬を新たな涙が伝い、健を見つめる母の大きな青い眼にも涙があふれた。

「さあ、戻りなさい、健」
「お母さん!」
母を捉えようとした手は空を掴み、母の姿が遠ざかった。
「お母さん、行かないで!」
「健、またいつか…きっとね」
囁くような声を残し、母の姿は湧き出した霧の中に溶け込むように消えていった。
「お母さん!」
母を追いかけようと健は走り出たが、辺りを包むミルクのように濃い霧が白く輝きだし、
その眩しさに立ち竦んで健は眼を閉じた。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
更新しました。 (BIRD)
2017-03-05 16:01:15
今回からサブタイトルを入れます(^^;)

読みに来て下さった方、ありがとうございます。
感想をいただけたら舞いあがりますので、よろしくお願いいたします<m(__)m>
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お母さん (バナー)
2017-03-11 17:17:48
健を思うお母さんが、暖かく優しいですね。
返信する
バナーさんへ (BIRD)
2017-03-20 20:51:03
健ママはあまりにも情報が少ないので書き放題でありがたい存在なのですが、
#92話でジュンに問われた時の「優しかった」準拠です(^^;)
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