BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

火の鳥 その後 #12 さらに日が過ぎて

2018-11-29 22:37:08 | ファンフィクション


 #12  さらに日が過ぎて


 学校施設を転用したキャンプ内で最も広い場所を占める体育館は様々な物資の置き場になり、
壁にはキャンプ内でのルールや生活情報、キャンプが受信した世界各地の様子が掲示されていた。
怪我から回復した人々は次々とキャンプの運営を支える側に回り、キャンプはあの日から見違えるように
快適になり、整理整頓されて規則に沿った運営をなされていた。
反対側の壁には収容された人々が肉親や友人、知人の消息を問う手書きのメモが壁を埋め尽くすように
貼り出されている。共通ボードの今週の周知事項に目を通したミスJも少しでも手がかりを掴もうと
喰い入る様にメモを見詰める人々に混じって、貼り付けられたメモを端から一枚一枚、端から見て歩いたが
自分の名前もわからない有様ではそれも意味をなさず、やがて壁から離れた彼女は小さく溜め息をついた。

「ミスJ、今日はオフかい?」
すぐ傍から降って来た良く通る声に彼女は顔をあげた。
「ええ」
「俺もオフなんだ」
綺麗なブルーの瞳でにこりと笑ったKは続けて
「外に出て見ない?天気がいいよ」
頷いたミスJを伴って彼はキャンプの建物から外へ出た。


 「何もかも…無くなってしまったのね」
登った丘の上から広がる見渡す限りの荒涼とした風景に絶句したミスJは長い睫毛を伏せて、俯いた。
「すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
Kは申し訳なさそうに言う。
「あなたのせいじゃないわ」
山脈の向こうまで雲ひとつなく晴れ渡った空はどこまでも青く澄み、柔らかな風が
ふたりの髪を揺すっていく。
「お天気が良くて風がいい気持ちね。誘ってくださってありがとう」
長い髪が囲むハート型の顔の中で碧緑の瞳が輝いた。

 突然、羽ばたきの音がして鳥が一羽、2人の前を横切った。
広げた翼一杯に上昇気流を受けた鳥はぐんぐん高みに登って行く。
続いてもう一羽が翼を広げ、先の一羽を追うように舞い上がった。
二羽の鳥は上空で一緒になり、並んで空の彼方に飛び去った。
二羽が消えていった青い空をKはずっと見つめている。

「以前のあなたは空の仕事、たとえばパイロットとかだったんじゃないの?」
端整なその横顔に視線をあてながらミスJがポツリと言った。
「どうして?」
大きな青い瞳で見つめ返されるとなぜか胸の奥がドキンと鳴った。
「みんなそう言ってるわ。Kはいつも空ばかり見てるって。それに…」
「それに?」
「あなたの空色の眼」
「それじゃ、以前はトンボだったのかも」
ポカンとしたミスJは次の瞬間、くすくす笑いだした。
可愛らしいその笑い声は温かく、どこか懐かしいような響きだった。


 丘陵を歩きまわった帰りは行きとは異なるルートを辿った。だが、焼け残った木立に囲まれた帰り道は
途中からひどく窄まり、長い下り坂が続くようになった。やがて木立ちも途絶え、両側に荒い赤土の崖が
壁のように迫る狭い坂道は石が多くて歩きづらかったが、日没までに山を降りなければならない。
「足元に気をつけて」
急ぐ中でもKは足場を確保しながら背後のミスJに言う。
「わかったわ」
彼の踏んだ跡を辿り、坂道を用心深く下っていく間も彼女を護るように時折、背後に廻される手が頼もしく
うれしい。

曲がり道のすぐ先に開けた窪地が見通せて急峻な坂道もようやく終わりに近づいたかと、ほっとしかけた途端、
「あっ!」
背後のミスJが声を上げた。
(しまった!)
バランスを崩して前のめりになった彼女を振り向きざまに抱えて跳躍し、狭い山道の側面を強く蹴る。
赤土が抉られてバラバラと崩れ落ちた。空中で回転しながら身体を大きく捻って向きを変え、
前方の窪地に着地した。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。私、うっかり浮き石を踏んでしまって…ごめんなさい」
抱えていた腕を解くとミスJは赤くなって眼を逸らせた。

 窪地から先、ほぼ平らになって幅が拡がり砂地ながらしっかりしてきた道を、今度は彼女を
先に行かせた。なぜ人を抱えてさっきのような動きができたのか、自分でも信じられなかった。
いや、ミスJも同時に跳び上がり、山肌を蹴った自分の動きにぴたりとシンクロして回転し
同じ方向に身体を捻った。息も上がっていない。
ほっそりした後ろ姿を見せて、ミスJは軽やかな足取りで道を先に進んで行く。

(何者なんだろう?)   

お前に…

2018-09-29 21:16:06 | ファンフィクション



                 お前に…

「まあ、俺は確実に地獄行きだな」
「ん?」
「あれだけのことをやってきたからな」
「それは俺も同じさ、ジョー。それより案外地獄もいいかも知れんぜ」
「な、なんだと?」
「だってお前が居るじゃないか。それに多分親父もいるだろうしさ」
「じゃ、カッツェやギャラクターのヤツらもわんさか来てやがるってことか」
「そうなるな」
「じゃあ、地獄でも大暴れしようぜ、健」
「ああ、そうしよう」


(あの時は冗談と思って笑い飛ばしたさ)

 

                        *****



伸ばした手指にようやくギャラクター本部の冷たい金属の階段とは異なるものがふれた。
冷たい風にジョーは外へ出たことに気づいた。


『カッツェ様!ゴッドフェニックスが接近してきます!』

『なに!ミサイルで叩き落とせ!』


―フン、竜ならこの霧の中でもゴッドフェニックスを着陸させるさ。ジュンが
誘導のサポートをし甚平が手伝い…健の命令でな―


(あいつに本部の入り口を教えなければ…)
ジョーはすでに感覚の無い全身を引き摺りながら草の上を這った。

抉じ開けた瞼の前にミルクのような霧が流れ、辺りは白く朧に明るい。
(お前の翼の色だな、健。お前は闇を払う光だ。うんと先でその白い翼を広げて
真っ直ぐに天国へ行け!地獄へなんか来るな。来たら叩き出してやる!)


冷気が頬を撫で風が髪を揺らして何時の間にか途切れた意識を呼び戻す。
(…まだ俺は生きてるのかよ…)
ヒマラヤ山脈の最高峰、クロスカラコルムの夜はまだ明けていない。時折の風で霧が払われると
鈍色の空が少しのぞいてまた霧が視界を塞ぐ。
(もうお前と大暴れできそうにないや、あばよ、健。楽しかったぜ)
僅かに意識は戻ったもののとうに力の抜けた身体を草叢に投げ出しジョーは小さく息を吐いて
目を閉じた。



「ガッチャマンだ!」
「捕まえろっ!」
「捕まえろー!」
どのくらいの時間が経ったのか、大地を踏み鳴らす足音と呼び交わす敵の声に遠ざかる意識を
手繰り寄せたジョーは指に絡む草を握り締め、クロスカラコルムに舞い降りた白い翼を求めて
ぐいと顔を上げ、前を見た。


火の鳥 その後 #10 彼は何者

2017-04-16 21:55:03 | ファンフィクション


 #10  彼は何者?


 「若いのに偉いな。自分もかなりの怪我をしているというのにね」
ドクター・ガートナーがコーヒーの入ったマグカップを引き寄せて言った。
「怪我の状態はあと一週間くらいで完治しそうだよ。ほっそりしているけど、随分と鍛え上げられた身体の持ち主だね」
ドクター・オーウェンは手渡されたカップから立ち昇るコーヒーの芳香に頬を緩ませる。
「スポーツ選手か、何かの強化選手なのかな?」
「どうなんだろう?何しろ身元のわかるものや手がかりが何もないからね。それより回復してきた分、ベッドにいるのは
退屈らしくて本を読みたいと言われたよ」
「ああ、彼は読書家らしいね。ナース経由で僕も頼まれたけど、手持ちは医学書とスパイ小説ぐらいしかなくて
申し訳なかったな」
ドクター・ガートナーが笑った。

 「それが私の医学書を読んでいるんだよ、細胞学のね。内容に関する質問がとても的確なんだ」
ドクター・オーウェンが相好を崩す。
「ほう、それはすごいな」
ドクター・ガートナーは驚きの表情を浮かべた。
「焦げ茶の髪に見事なブルウアイズなんだが、なんとなく彼は東洋系を思わせるね。
物静かだけど大きな瞳に表情があって、実にいい眼をするんだよ」
なんだか息子の自慢話でもしているようで、言いながらドクター・オーウェンは小さく笑った。
「何者なんだろうな、彼は」
「今のところ身元のわかるものは何もないし、何か手がかりや切っ掛けでもあればいいんだがね」
結局いつもの言い方に落ち着いてしまい、ドクター二人は顔を見合わせて溜め息をついた。


                   * * *


 「ふーむ」
それから約三週間後、医務室でドクター・オーウェンは手元に片隅をクリップ止めにして纏めた、かなりの厚みがある
解答用紙を繰っては、何度目かの溜め息をついていた。
自分の名前も思い出せない青年の手がかりにでもなれば…と、リハビリのプログラムも終了して今週あたりからようやく
右腕を不自由なく動かせるようになった彼にかなり広範囲のテストを課してみたのだが―。
「一般教養、地理、歴史、文学、物理、高等数学、自然科学、国際法規全般、航空気象、航空工学、電子工学、医学、
薬学、語学、天文学ー」

 「なんだい?何かわかったのかい、パット?」
カルテの整理を終えたドクター・ガートナーがデスクの前から立って来て声をかけた。
「これは凄い。どの分野もパーフェクトじゃないか。彼はどこかハイレベルな大学の学生か研究員じゃないのかな?」
ドクター・オーウェンの持つ解答用紙を見ながら、驚きの声を上げたドクター・ガートナーに
「いや、他にも戦闘機に始まって航空機全般、航空史、空戦、武器、武器システム、戦史、戦略、作戦立案、作戦遂行等の
軍事関連の知識もパーフェクトなんだよ」
 ドクター・オーウェンから別の解答用紙を渡されたドクター・ガートナーはそれに目を走らせながら
「ふーむ」
同じように唸ってしまった。
「スコアも凄い上に綺麗な字を書くんだね。これほど大量の設問にこんな短時間で解答したのかい?」
解答用紙を繰りながら筆跡と記された解答時間に目を留めているドクター・ガートナーの声を聞いていたドクター・オーウェンは
ふと閃いた。
「そうだ!彼はどこかの軍か部隊にいたのかも知れないな」
「軍や部隊なら記録を調べればわかるぞ。この優秀さなら尚更ね」
ドクター・ガートナーも解答用紙の束から顔を上げて同意した。


                   * * *


 「いや、だめだったよ。調べた限りでは彼の記録はどこにもない。何しろこの戦いで記録どころかデータセンターが
サーバーごと焼失したり、ネットワークがあちこちで寸断されて、多くがシステムとして機能していないんだ」
がっかりした表情で首を振るドクター・オーウェンをドクター・ガートナーは見やった。
「いったい何者なんだろう?」
医師二人はもどかしそうに言い、顔を見合わせて溜め息をついた。

火の鳥 その後 # 8 記憶喪失

2017-03-20 20:57:32 | ファンフィクション
 #8  記憶喪失 


 「やあ、気がつきましたね。よかった」
がっしりした長身のドクター・エミリオ・ガートナーは、収容から一週間と三日を過ぎてようやく
意識を取り戻した女性の顔を注意深くのぞき込んだ。
「ここは病院ですよ、難民キャンプのね。あなたは助かったんですよ」
物憂げな瞳が訝しそうに彼を見上げる。
長い髪が囲むハート型の顔、白磁の肌、碧緑の瞳、珊瑚の唇。

(こりゃ美人だな)

思わず顔を綻ばせかけたドクターは形のいい眉を顰められ、慌てて表情を引き締めた。
「どこか痛みますか?ああ、そうだ、あなたの名前は?」
くだんの美人はドクターの内心を見透かした訳でもなく痛みにでもなく、彼の問いに対してその眉を顰めていた。
その様子に不安を覚えたドクター・ガートナーが名前に続いて、年齢は?家族は?住まいは?…と、
立て続けに発した問いにも困惑した表情の彼女は、長い髪を揺らして首を振るばかりだった。

 回診を終えてカルテを整理していたドクター・オーウェンは、第三捜索隊が別の場所で発見したという
生存者の女性がようやく意識を取り戻した、との知らせをナースから受けて医務室を飛び出して行った
ドクター・ガートナーが、足取りも重く戻って来たのを怪訝そうに迎えた。
「どうしたんだい?エム。意識が戻ったんじゃないのか?」
「それが…」
口ごもる相手にドクター・オーウェンは掛けていた回転椅子ごと向き直った。

「彼女も似たような状況だったんだろう。身に着けていた衣服や靴は焼け焦げや煤だらけで、
裂けたりもしていた。彼同様、火傷や重い傷がなかったのが奇跡だな」
ドクター・ガートナーは担当している患者のカルテを自分のデスクに戻しながら言った。
「こちらもベルトのバックルだけが頼りの『ミスJ』だ。発見場所は異なるが
二人とも炎の中を逃げ回った揚句に記憶喪失だなんて、怪我が軽かったとはいえ可哀想に」
ドクター・ガートナーの声が重く沈んだ。
「災に追われて山の中を逃げ回った記憶など、思い出したくもないだろうね」
痛ましそうに首を振るドクター・オーウェンに
「でも、国際科学技術庁の発表にあったように科学忍者隊のおかげで、遂にギャラクターは
滅び去り、ようやく地球に平和が来たんだ。これから復興が進んでいけば気持ちも落ち着いて、
いずれはブロックされた記憶も取り戻せるんじゃないかな?」
ドクター・ガートナーは強いて明るく言った。
「そうだね。まだ若い人たちだし、きっと元気になるよ」
これといった根拠はないものの、ドクター・オーウェンもドクター・ガートナーに合わせて、
自分自身の気持ちを引き立てるように応えた。

 ドクター達は男女ふたりの生存者の記憶喪失をPTSDと推測していた。
地球的規模の厄災ともいえる戦いが遂に終結した今、そういった症状を示す者は
珍しくはなかったから…。
キャンプの人々もドクター達も、世界中の誰もが心に傷を負っていた。

火の鳥 その後 #7 K

2017-03-20 20:54:41 | ファンフィクション
 #7  K


 翌日の午後、ドクター・パトリック・オーウェンとドクター・エミリオ・ガートナーは
パトロール隊が新たに捜索した丘陵地帯から相次いで救出された、男女二人の生存者について
話し合っていた。
「総裁Zが操っていた反物質小惑星の影響で急激なフェーン現象が起こり、火災が発生して
ここら一帯も森林火災の延焼が続きひどい被害を受けたね」
「ああ、街中が破壊されて道路は寸断されていたし、ライフラインが完全にやられてしまった後では
消火活動がほぼ不可能で、街そのものが炎に包まれて何もかも焼け落ちてしまった…」

 勤務していた病院や自身の家族、友人、仲間を亡くした街の惨状をそれぞれ思い出し、
二人のドクターはいっとき言葉を失って、苦いものを噛み締めた。
「彼もなんとか山の中に逃げたものの、結局は火災に追い詰められて逃げ場を失ってしまったんだろう。
発見場所の焼け様は実に酷かったと聞いているよ」
ドクター・オーウェンは報告書の内容を思い出しながら溜め息をついた。
「幸い夜半の豪雨が消火の役目を、火災の名残が体温維持の役目をそれぞれ果たしてくれたようだが、
そこで発見されたのは彼だけだったんだね?」
ドクター・ガートナーが訊ねる。
「そうだ。報告書によると他にも生存者がいないか、山に残った捜索隊は時間の許す限り辺りを回ったが、
かなりの広範囲を捜索したにもかかわらず、山では彼以外は発見できなかったそうだ」
ドクター・オーウェンも声を落とした。

「もともと独りで山の中にいたのか、一緒だった家族や仲間とはぐれて山の中でたった一人、助かったのか…」
「身に着けていた衣服も靴も焼け焦げてボロボロだったし、IDどころか腕時計すら着けていなくて
手がかりが何もない。まだ名前もわからないし、ベルトのバックルが『K』だったから
カルテも『Mr.K』だ。幸い火傷やひどい怪我は負っていないものの、ほんとうの回復には
まだまだ時間が必要だね」
ドクター・パトリック・オーウェンは意識が戻った時の患者とのやり取りを思い出しながら、溜め息をついた。