BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

火の鳥 その後 #11 日が過ぎて

2017-05-07 17:56:13 | ニュース

             #11  日が過ぎて


 「何かお探しですか?」
医務室の棚に貼られたラベルを端から順に見ていたKは背後から掛けられた声に振り向いた。
若いナースが微笑む。
「サッカーをしていた子供達の中で怪我をしたのが居るので、湿布タイプの消炎剤が欲しいんだ。
それから包帯とテープ、保護ネットも」
「わかったわ。待ってて」
たちまち彼女は医務室の奥から消炎剤の箱や包帯、リクエストした品々を抱えて来てくれた。
「これだけでいいの?怪我の様子は?ドクターが診ましょうか?」
「いや、打ち身と軽い捻挫なんだ。助かったよ、ありがとう、ミス…J?」

渡された品を受け取りながら、ネームプレートの表記に当惑した相手の青く大きな瞳に向かってナースはさらに微笑み
「『J』だけじゃびっくりするわよね。私、三ケ月前に助けられてここに収容されたの。でも、自分の名前も
覚えていなくて、その時着けていたベルトのバックルが『J』だったから、そう呼ばれているだけよ。
今月からここのお手伝いをしているけど私はナースじゃないわ、ドクター…K?」

 青い瞳にそう説明しながら『J』ひと文字のネームプレートを白衣の胸に付けたミスJは相手の白衣の胸元の
ネームプレート、『K』のひと文字に形のいい眉を寄せて、首を傾げた。
その怪訝な表情に慣れているKは小さく笑って
「俺も三月ほど前に助けられたけど何も覚えてなくてね。衣服は焼け焦げてボロボロ、所持品もなし。君と一緒で
ベルトのバックルが『K』だったから呼び名がK。それに俺はドクターじゃない。君と同じく手伝ってるだけさ」
ミスJの碧緑の瞳を囲む長い睫毛が不思議そうに瞬きした。
「何だか似てるわね」
「そうだね」
廊下を戻って来たドクター・ガートナーとドクター・オーウェンは医務室の声に顔を見合わせた。



 「なあ、パット、同じ日に見つかったこと、記憶喪失、似たようなバックル。発見された場所は違うが、
あの二人はきっと何か関係があるよ。もしかしたら恋人同士かも」
がっしりした体躯と厳つい外見によらず、イタリア人らしくロマンチストのドクター・ガートナーが、
無人になった医務室隣の医局で未だに身元の分からない二人の男女について勢い込んで憶測を述べ、微笑した。

「まあ、待ちたまえ。火災の中を逃げ回ったショックは大変なものだろうけど、それほど親しい相手を
まったく忘れてしまう、なんてことがあるのかい?発見場所だってジープで一時間以上もかかる別々の場所だったよ。
どちらも発見時は独りだったし、君が言うようにたとえ恋人同士だとしても、または友人だとしても、あんな
恐ろしい時には一緒にいたいと思うものじゃないかな?」
向かい合ったドクター・オーウェンの落ち着いた言い方に、ドクター・ガートナーはうーんと唸って天井を見上げ、
眉を寄せて黙り込んでしまった。その様子にドクター・オーウェンは話題を変えた。

「そう言えば、彼女にも例のテストを試してみたんだったね」
ドクター・ガートナーが顔を上げる。
「そうだ!そうなんだ!ミスJもえらくハイスコアで」
ドクター・ガートナーはたちまち元気になった。
「どちらもハイスコアだったが、火薬や爆発物、爆弾処理、危険物の分野を除けばKの方が圧倒的だったね」
ドクター・オーウェンは二人のテスト結果を思い出していた。

「あの知識の豊富さとそのカバー範囲、二人ともハイスコア、きっとどこかの軍か部隊所属だよ!」
ドクター・ガートナーは勢いよく続けた。
「でも問い合わせた限りでは二人ともどこの軍にも部隊にも記録がなかったじゃないか、国連軍にもね」
ドクター・オーウェンが静かに返した。
「じゃ、それよりもっと秘匿性の高い特殊な組織、スペシャルフォースの仲間…とか」
「エム、君の好きなイアン・フレミングやフレデリック・フォーサイスのスパイ小説じゃあるまいし。
もしそういった関係者だとしても、二人ともあまりに若過ぎるよ。まだ正確な年齢はわからないけれど、
どちらも二十歳そこそこか二十代前半、といったところだろう?まだ学生かも知れないし―」
「うーん…」
スパイ小説の設定から離れられないドクター・ガートナーにドクター・オーエンは苦笑した。

「今となっては例のテストが身元特定の手がかりに相応しかったかどうか…。それに奇跡的に大した外傷を
負ってはいなくても、記憶を失くすほどの何か強い衝撃を心に受けているようだし、彼らもこの戦いの被害者なんだ」
身元を明らかにしたくて、つい自説に奔りがちなドクター・ガートナーを、年長のドクター・オーウェンは静かに諌めた。
「悪かった、僕が先走り過ぎたな。でも互いに会話ができるようになってよかったよ」
「うん。二人ともやっと笑ったね。これが記憶を取り戻す一歩になればいいんだがね」
二人のドクターは心からそう願っていた。