BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

火の鳥 その後 #10 彼は何者

2017-04-16 21:55:03 | ファンフィクション


 #10  彼は何者?


 「若いのに偉いな。自分もかなりの怪我をしているというのにね」
ドクター・ガートナーがコーヒーの入ったマグカップを引き寄せて言った。
「怪我の状態はあと一週間くらいで完治しそうだよ。ほっそりしているけど、随分と鍛え上げられた身体の持ち主だね」
ドクター・オーウェンは手渡されたカップから立ち昇るコーヒーの芳香に頬を緩ませる。
「スポーツ選手か、何かの強化選手なのかな?」
「どうなんだろう?何しろ身元のわかるものや手がかりが何もないからね。それより回復してきた分、ベッドにいるのは
退屈らしくて本を読みたいと言われたよ」
「ああ、彼は読書家らしいね。ナース経由で僕も頼まれたけど、手持ちは医学書とスパイ小説ぐらいしかなくて
申し訳なかったな」
ドクター・ガートナーが笑った。

 「それが私の医学書を読んでいるんだよ、細胞学のね。内容に関する質問がとても的確なんだ」
ドクター・オーウェンが相好を崩す。
「ほう、それはすごいな」
ドクター・ガートナーは驚きの表情を浮かべた。
「焦げ茶の髪に見事なブルウアイズなんだが、なんとなく彼は東洋系を思わせるね。
物静かだけど大きな瞳に表情があって、実にいい眼をするんだよ」
なんだか息子の自慢話でもしているようで、言いながらドクター・オーウェンは小さく笑った。
「何者なんだろうな、彼は」
「今のところ身元のわかるものは何もないし、何か手がかりや切っ掛けでもあればいいんだがね」
結局いつもの言い方に落ち着いてしまい、ドクター二人は顔を見合わせて溜め息をついた。


                   * * *


 「ふーむ」
それから約三週間後、医務室でドクター・オーウェンは手元に片隅をクリップ止めにして纏めた、かなりの厚みがある
解答用紙を繰っては、何度目かの溜め息をついていた。
自分の名前も思い出せない青年の手がかりにでもなれば…と、リハビリのプログラムも終了して今週あたりからようやく
右腕を不自由なく動かせるようになった彼にかなり広範囲のテストを課してみたのだが―。
「一般教養、地理、歴史、文学、物理、高等数学、自然科学、国際法規全般、航空気象、航空工学、電子工学、医学、
薬学、語学、天文学ー」

 「なんだい?何かわかったのかい、パット?」
カルテの整理を終えたドクター・ガートナーがデスクの前から立って来て声をかけた。
「これは凄い。どの分野もパーフェクトじゃないか。彼はどこかハイレベルな大学の学生か研究員じゃないのかな?」
ドクター・オーウェンの持つ解答用紙を見ながら、驚きの声を上げたドクター・ガートナーに
「いや、他にも戦闘機に始まって航空機全般、航空史、空戦、武器、武器システム、戦史、戦略、作戦立案、作戦遂行等の
軍事関連の知識もパーフェクトなんだよ」
 ドクター・オーウェンから別の解答用紙を渡されたドクター・ガートナーはそれに目を走らせながら
「ふーむ」
同じように唸ってしまった。
「スコアも凄い上に綺麗な字を書くんだね。これほど大量の設問にこんな短時間で解答したのかい?」
解答用紙を繰りながら筆跡と記された解答時間に目を留めているドクター・ガートナーの声を聞いていたドクター・オーウェンは
ふと閃いた。
「そうだ!彼はどこかの軍か部隊にいたのかも知れないな」
「軍や部隊なら記録を調べればわかるぞ。この優秀さなら尚更ね」
ドクター・ガートナーも解答用紙の束から顔を上げて同意した。


                   * * *


 「いや、だめだったよ。調べた限りでは彼の記録はどこにもない。何しろこの戦いで記録どころかデータセンターが
サーバーごと焼失したり、ネットワークがあちこちで寸断されて、多くがシステムとして機能していないんだ」
がっかりした表情で首を振るドクター・オーウェンをドクター・ガートナーは見やった。
「いったい何者なんだろう?」
医師二人はもどかしそうに言い、顔を見合わせて溜め息をついた。