ヒトは夢を見る。
夢を見ないという方に出合ったことがあるが、夢を見たことを忘れているに過ぎないという説が有力である。
ネコも夢を見るのだろうか。複数のネコ好きの知人は「ネコも夢を見る」と断言する。なぜ断言できるか聞くと「ネコが寝言をいうから」と答える。私はネコがにゃんと寝言をいうのか聞いたこともないから、確信をもてない。
そこでインターネットで調べてみると、あることあること。
愛犬・愛猫の寝言とか、中には寝ながらシッポをゆする動画まである。さらに調べると温体動物は、総じて夢を見るという。
なぜ夢を見るのであろうか。古来フロイドを始め多くの心理学者もその理由を学理的に探索している。フロイドは欲望に関する深層心理の具現化が夢であるといっているそうであるが、動物の夢もそうだろうか。
つい最近、翻訳出版されたリンデン原著「つぎはぎだらけの脳と心」という本を読む機会があった。これは著名な神経生理学者が書いた本であるだけに、最近の脳科学の成果が正確に盛り込まれている。日本で芸能界の申し子のように「アハ体験」などをおもしろおかしく演出しながらテレビ番組に登場する自称脳科学者とは違うようである。
リンデンはその著書のなかで夢のことも書いている。フロイドなど古典的な夢に関する説とか最近の夢の研究を引用しながら自説を展開しているのは興味深い。
睡眠とは
睡眠には眼球さえ動かないノンレム睡眠とレム睡眠があることについては「脳神経細胞の新生とは」の中でも少しばかり述べた。
さらに「快眠寝具研究室」のサイトも参考になる。
どのような理由によって睡眠が必要なのか、まだ謎が多いとされているが、ノンレム睡眠においては、幼児とか青春期に脳内から成長ホルモンが盛んに湧出することがわかっている。このノンレム睡眠時に、成人さらには老人になっても脳内の海馬などで脳神経細胞が新生していると考えてもよさそうである。
リンデンの訳書には、一夜漬けで試験勉強して一時的にしか蓄えられないワーキング記憶の中に詰め込み、寝てしまうと忘れそうなので徹夜のまま受験しても良い点数はとれないという意味のことが睡眠について書かれた内容の中にある。
知人の心理学教育者は、リンデンが言うまでもなく前々から、学生には試験前に、たとえ夜更かしして勉強しても睡眠をとった方がいい成績が残せると忠告しているという。どうやら徹夜で頭脳の回転が鈍化していることだけが原因ではなさそうである。
ワーキング記憶は7±2程度の事象しか憶えられないという。これを長期記憶に移動させれば記憶内容は増加できる。睡眠をとることはワーキング記憶を長期記憶に移動させることにどのような関わり合いがあるのだろうか。
リンデンの著書の中でハーバード大学医学部のスティックゴールドが明快な仮説を立てているという。ここで簡略化して孫引きする。スティックゴールドは「睡眠の機能として、もともとバラバラで結びつきの弱い記憶、感情を伴った記憶同士をつなぎあわせ、まとめ上げていく、そのような記憶の再活性化とか記憶の関連づけといえるような記憶の定着と統合化がある」という。
ワーキング記憶の内容は、何度か繰り返し憶え込み、さらに反芻することで長期記憶に移植できことは誰しも経験しているであろう。スティックゴールドの仮説をさらに敷延してみる。試験勉強において、たとえ脈絡のない事柄でもワーキング記憶から少しでも長期記憶に移動させる努力をしたのちに睡眠をとれば、寝ている間に記憶内容の関連付けとか統合化が進む。
試験を受けるとき試してみてはいかがであろうか。
アハ体験が寝ている間にできあがると考えてもいい。いくら考えても解らなかったことが一晩ぐっすりと眠った後に、アッ・ソウカといきなり解ったという経験を持った方もおありではないか。アハとは英語では”A HA“であり、特有の抑揚のついた発声をする。日本語に翻訳するとアッ・ソウカであるから、アハ体験はアッ・ソウカ体験と翻訳すべきであろう。これは余談である。
夢を見ることとは
リンデンは、夢を見ることの生理科学的な根拠は、まだわかっていないとまず断っている。
しかしながら様々な客観的な観測が行われているので、その内にわかるようになるかも知れないともいっている。リンデンはフロイドの夢の内容、性に関する深層心理からさまざまな意味づけをすることには批判的である。夢見内容の意味解釈は、ほとんど根拠のない夢判断と同じであると一蹴する。むしろ夢を見るという生理的な側面を明らかにすべきであるという。
リンデンは、スティックゴールドの睡眠効果の仮説からさらに踏み込み、「夢を見ることで記憶の定着と統合化が促進される」という仮説をたてている。楽しい夢、嬉しくなる夢よりも、怖い夢とか、追いつめられて困難に直面する夢が統計的に多いという。ヒトは困難な事態に直面したときに、強い記憶が残る。これは心的障害として知られているトラウマの原因でもある。
ヒトは危険な事態に直面したとき、そのことを優先的に記憶に残して、もし再びそのような事態が生じたとき、これに対処する防衛本能とするものと解釈できる。ワーキング記憶を通過することなく長期記憶に焼き付けることがトラウマといえよう。
トラウマを背景にするとリンデンの仮説、そうかも知れないと思う。しかしながら風邪などが原因で高熱に犯されたとき、困難きわまりない悪い夢を見ることがあるが、これはどのように解釈すればよいのであろうか。リンデン仮説によると、楽しい夢とか嬉しい夢は、記憶の定着とか統合化には、役に立たないことになる。
私は楽しい夢を見たい。苦しい事象は現実の世界だけでいいと思う。
思いついた仮説
夢に関する定かな学説はいまだにない。
有名な学者の提唱する夢に関する説は、すべて仮説であって検証されていない。あくまで仮説に過ぎないではないかと。仮説であるならば、私ごとき脳科学には未熟な者でも可能であろう。
思いついた仮説は「夢を見ることは、脳神経細胞の新生、あるいは老化したシナップス構成の再生構成が正常に行われたかどうかをテストする操作」である。
深い睡眠状態にあるノンレム睡眠時に老化したニューロンは新生するニューロンとおきかわり、ニューロン間の情報伝達を行うシナップスも新たなシナップス結合に置き換わる。シナップス結合が消滅して、再生されることは最近の研究で明らかにされている。ニューロンのシナップスによる接合構成によって記憶機能が生成されることも確かめられている。
つぎはぎだらけの脳としても、ニューロン構成が正常に動作するためには誤構成があってはならない。誤構成があった場合は、正しく再構成することが必要になる。まったく脈絡のない、しかも現実にはあり得ない夢とは、ニューロンの誤構成によるものかもしれない。これらの再生構成をチェックするための機能が夢を見ることであるという仮説である。
深い睡眠ではストーリィのない短い夢を見るとリンデンの著書に書かれている。深い睡眠では細かい部分のニューロン接続が更新され、夢は、更新部分のみのテストと考えてみる。睡眠が浅くなるレム睡眠では、ストーリィがある夢になり、さらには身体を動かすとか、腕・足なども動かし寝言をいう。ニューロン構成をグローバルにテストしていると解釈できる。
はてさてこの仮説はどのように検証すればよいだろうか。
夢を見させないと、ヒトはどのようになるか調べる方法がある。夢を見ているレム睡眠では、覚醒しているときと同じ脳波が出ることが観測され、これを逆説睡眠という。睡眠しているヒトの脳波を観測していて、明らかに夢を見ている逆説睡眠、その時に起こしたらどうなるか調べるのである。
知人の心理学教育者は、夢を見ている状態の被験者を起こし、いまどのような夢を見ていたか聞き取る睡眠の実験を行ったことがあるという。被験者は睡眠をよくとったにもかかわらず大変に疲れたと言ったそうである。実験目的は夢の内容であったために、どのように疲れたかということは調べていなかった。
今後の研究課題としてはいかがなものか。
心的障害の予防
海外旅行で時差ボケになやまされ、鬱状態になったことがある。原因は夜になってもよく眠れないことによるらしい。鬱病の初期症状はよく眠れないことによると聞いている。
失恋、失業などの原因で考え事の深みにはまり、睡眠不足から心的障害を引き起こす。熟睡することで、これまでに記述したようにニューロンの再生、再構成が行われ、これに伴い様々なホルモン物質が脳内で分泌される。免疫物質も分泌されるという。睡眠不足で、ホルモン物質のバランスが悪くなると様々な器官にも障害が発生する原因となり、さらに免疫物質が少なくなると病原菌を原因とする病気にかかりやすくなる。
悲しいこと、苦しいこと、悩むことに直面した時であっても睡眠を充分にとること、さらにつけ加えるとすれば、たくさんの夢を見ることが心的障害の予防になるであろう。
(脳)
夢を見ないという方に出合ったことがあるが、夢を見たことを忘れているに過ぎないという説が有力である。
ネコも夢を見るのだろうか。複数のネコ好きの知人は「ネコも夢を見る」と断言する。なぜ断言できるか聞くと「ネコが寝言をいうから」と答える。私はネコがにゃんと寝言をいうのか聞いたこともないから、確信をもてない。
そこでインターネットで調べてみると、あることあること。
愛犬・愛猫の寝言とか、中には寝ながらシッポをゆする動画まである。さらに調べると温体動物は、総じて夢を見るという。
なぜ夢を見るのであろうか。古来フロイドを始め多くの心理学者もその理由を学理的に探索している。フロイドは欲望に関する深層心理の具現化が夢であるといっているそうであるが、動物の夢もそうだろうか。
つい最近、翻訳出版されたリンデン原著「つぎはぎだらけの脳と心」という本を読む機会があった。これは著名な神経生理学者が書いた本であるだけに、最近の脳科学の成果が正確に盛り込まれている。日本で芸能界の申し子のように「アハ体験」などをおもしろおかしく演出しながらテレビ番組に登場する自称脳科学者とは違うようである。
リンデンはその著書のなかで夢のことも書いている。フロイドなど古典的な夢に関する説とか最近の夢の研究を引用しながら自説を展開しているのは興味深い。
睡眠とは
睡眠には眼球さえ動かないノンレム睡眠とレム睡眠があることについては「脳神経細胞の新生とは」の中でも少しばかり述べた。
さらに「快眠寝具研究室」のサイトも参考になる。
どのような理由によって睡眠が必要なのか、まだ謎が多いとされているが、ノンレム睡眠においては、幼児とか青春期に脳内から成長ホルモンが盛んに湧出することがわかっている。このノンレム睡眠時に、成人さらには老人になっても脳内の海馬などで脳神経細胞が新生していると考えてもよさそうである。
リンデンの訳書には、一夜漬けで試験勉強して一時的にしか蓄えられないワーキング記憶の中に詰め込み、寝てしまうと忘れそうなので徹夜のまま受験しても良い点数はとれないという意味のことが睡眠について書かれた内容の中にある。
知人の心理学教育者は、リンデンが言うまでもなく前々から、学生には試験前に、たとえ夜更かしして勉強しても睡眠をとった方がいい成績が残せると忠告しているという。どうやら徹夜で頭脳の回転が鈍化していることだけが原因ではなさそうである。
ワーキング記憶は7±2程度の事象しか憶えられないという。これを長期記憶に移動させれば記憶内容は増加できる。睡眠をとることはワーキング記憶を長期記憶に移動させることにどのような関わり合いがあるのだろうか。
リンデンの著書の中でハーバード大学医学部のスティックゴールドが明快な仮説を立てているという。ここで簡略化して孫引きする。スティックゴールドは「睡眠の機能として、もともとバラバラで結びつきの弱い記憶、感情を伴った記憶同士をつなぎあわせ、まとめ上げていく、そのような記憶の再活性化とか記憶の関連づけといえるような記憶の定着と統合化がある」という。
ワーキング記憶の内容は、何度か繰り返し憶え込み、さらに反芻することで長期記憶に移植できことは誰しも経験しているであろう。スティックゴールドの仮説をさらに敷延してみる。試験勉強において、たとえ脈絡のない事柄でもワーキング記憶から少しでも長期記憶に移動させる努力をしたのちに睡眠をとれば、寝ている間に記憶内容の関連付けとか統合化が進む。
試験を受けるとき試してみてはいかがであろうか。
アハ体験が寝ている間にできあがると考えてもいい。いくら考えても解らなかったことが一晩ぐっすりと眠った後に、アッ・ソウカといきなり解ったという経験を持った方もおありではないか。アハとは英語では”A HA“であり、特有の抑揚のついた発声をする。日本語に翻訳するとアッ・ソウカであるから、アハ体験はアッ・ソウカ体験と翻訳すべきであろう。これは余談である。
夢を見ることとは
リンデンは、夢を見ることの生理科学的な根拠は、まだわかっていないとまず断っている。
しかしながら様々な客観的な観測が行われているので、その内にわかるようになるかも知れないともいっている。リンデンはフロイドの夢の内容、性に関する深層心理からさまざまな意味づけをすることには批判的である。夢見内容の意味解釈は、ほとんど根拠のない夢判断と同じであると一蹴する。むしろ夢を見るという生理的な側面を明らかにすべきであるという。
リンデンは、スティックゴールドの睡眠効果の仮説からさらに踏み込み、「夢を見ることで記憶の定着と統合化が促進される」という仮説をたてている。楽しい夢、嬉しくなる夢よりも、怖い夢とか、追いつめられて困難に直面する夢が統計的に多いという。ヒトは困難な事態に直面したときに、強い記憶が残る。これは心的障害として知られているトラウマの原因でもある。
ヒトは危険な事態に直面したとき、そのことを優先的に記憶に残して、もし再びそのような事態が生じたとき、これに対処する防衛本能とするものと解釈できる。ワーキング記憶を通過することなく長期記憶に焼き付けることがトラウマといえよう。
トラウマを背景にするとリンデンの仮説、そうかも知れないと思う。しかしながら風邪などが原因で高熱に犯されたとき、困難きわまりない悪い夢を見ることがあるが、これはどのように解釈すればよいのであろうか。リンデン仮説によると、楽しい夢とか嬉しい夢は、記憶の定着とか統合化には、役に立たないことになる。
私は楽しい夢を見たい。苦しい事象は現実の世界だけでいいと思う。
思いついた仮説
夢に関する定かな学説はいまだにない。
有名な学者の提唱する夢に関する説は、すべて仮説であって検証されていない。あくまで仮説に過ぎないではないかと。仮説であるならば、私ごとき脳科学には未熟な者でも可能であろう。
思いついた仮説は「夢を見ることは、脳神経細胞の新生、あるいは老化したシナップス構成の再生構成が正常に行われたかどうかをテストする操作」である。
深い睡眠状態にあるノンレム睡眠時に老化したニューロンは新生するニューロンとおきかわり、ニューロン間の情報伝達を行うシナップスも新たなシナップス結合に置き換わる。シナップス結合が消滅して、再生されることは最近の研究で明らかにされている。ニューロンのシナップスによる接合構成によって記憶機能が生成されることも確かめられている。
つぎはぎだらけの脳としても、ニューロン構成が正常に動作するためには誤構成があってはならない。誤構成があった場合は、正しく再構成することが必要になる。まったく脈絡のない、しかも現実にはあり得ない夢とは、ニューロンの誤構成によるものかもしれない。これらの再生構成をチェックするための機能が夢を見ることであるという仮説である。
深い睡眠ではストーリィのない短い夢を見るとリンデンの著書に書かれている。深い睡眠では細かい部分のニューロン接続が更新され、夢は、更新部分のみのテストと考えてみる。睡眠が浅くなるレム睡眠では、ストーリィがある夢になり、さらには身体を動かすとか、腕・足なども動かし寝言をいう。ニューロン構成をグローバルにテストしていると解釈できる。
はてさてこの仮説はどのように検証すればよいだろうか。
夢を見させないと、ヒトはどのようになるか調べる方法がある。夢を見ているレム睡眠では、覚醒しているときと同じ脳波が出ることが観測され、これを逆説睡眠という。睡眠しているヒトの脳波を観測していて、明らかに夢を見ている逆説睡眠、その時に起こしたらどうなるか調べるのである。
知人の心理学教育者は、夢を見ている状態の被験者を起こし、いまどのような夢を見ていたか聞き取る睡眠の実験を行ったことがあるという。被験者は睡眠をよくとったにもかかわらず大変に疲れたと言ったそうである。実験目的は夢の内容であったために、どのように疲れたかということは調べていなかった。
今後の研究課題としてはいかがなものか。
心的障害の予防
海外旅行で時差ボケになやまされ、鬱状態になったことがある。原因は夜になってもよく眠れないことによるらしい。鬱病の初期症状はよく眠れないことによると聞いている。
失恋、失業などの原因で考え事の深みにはまり、睡眠不足から心的障害を引き起こす。熟睡することで、これまでに記述したようにニューロンの再生、再構成が行われ、これに伴い様々なホルモン物質が脳内で分泌される。免疫物質も分泌されるという。睡眠不足で、ホルモン物質のバランスが悪くなると様々な器官にも障害が発生する原因となり、さらに免疫物質が少なくなると病原菌を原因とする病気にかかりやすくなる。
悲しいこと、苦しいこと、悩むことに直面した時であっても睡眠を充分にとること、さらにつけ加えるとすれば、たくさんの夢を見ることが心的障害の予防になるであろう。
(脳)