炉端での話題

折々に反応し揺れる思いを語りたい

エントロピーとは(1)

2009-01-31 11:19:06 | Weblog
エントロピーとは、熱学(一般には熱力学とも言われているが力学とは関係ない熱のこともあるので、ここでは熱学とする)に関し、1865年、ドイツの科学者クラジュウス(Rudolf Clausius)が、1850年頃から研究していた熱とエネルギーの関係を示すために用語として提示したものである。日本では幕末の混沌としていた頃である。
エントロピーについては、筆者も学生の頃、物理か化学でならったような覚えがあるが、できのいい方ではなかったし、勉強も興味があること以外には深入りしなかったので、どのような内容かすっかり忘れていた。
最近、ある知人からエントロピーのことを書いた本「エントロピーの科学」を紹介され、様々な質問が投げかけられた。知人のいうことには、1991年8月の初版で、いまでも結構売れているという。
この本の初めの方に、「お風呂もだめ、 コーヒーもだめ」という項目がある。
要約すると「100℃の500リットルのお湯と0℃の500リットルの水がある。これを混合して1000リットルのお湯にすると50℃になり、お風呂には暑すぎて使えない。かといってコーヒーをいれるためには50℃では低すぎてだめである。
これは混合する前のお湯と水のそれぞれ500リットルのエントロピーは小さく、混合した後の1000リットルのお湯のエントロピーが増大しているからである」
と書かれている。ここでは要約したが、いま少し詳しく述べている。
このようなエントロピーの説明、前にもどこかで読んだ記憶があり、「おかしなお話しだな」と思ったものである。今回は避けて通れない知人の依頼もあり、調べてみた。
学生の頃、エントロピーのことは、正直言ってよくわからなかった。どうやらインターネットでもよく解らないという若い方の投書も散見される。
「お風呂もだめ、 コーヒーもだめ」の説明としてエントロピーが使われているが、これでおわかりだろうか。著者にはわからなかった。
クラジュウスの原典に遡って調べた。少しばかり記号を使うことをお許し頂きたい。
熱のもととなるエネルギーをQとする。単位は国際単位系(略称SI)ではジュールJである。このエネルギーは、熱エネルギーはもとより運動エネルギーでも、光エネルギーでも熱に代わり得るもの、あるいは代わり得ないものでよい。
温度はTとし、絶対温度の単位ケルビンKをもちいる。絶対温度0度は、-273.15℃としている。
エントロピーとは、このQとTを用いて
S=Q/T
と表すことにしようとクラジュウスは提案した。つまりエントロピーの記号Sは、エネルギーを温度で割ったものにすぎない。まことに簡単な定義である。
150年も前の提案である。それが、いまなお科学的と称する話題になっている。
このクラジュウスの原典にもどって「お風呂もだめ、 コーヒーもだめ」がはたして正しいかどうか考えてみる。
いまS=Q/Tを元にエントロピーを計算してみよう。
熱エネルギーすなわち熱量は、物質の量×比熱×絶対温度である。100℃のお湯と0℃の水の比熱は、厳密には若干異なるが、同じと仮定してもよい。
また水の量は500リットルに比熱を乗じた値をVとする。このようにすると計算が省略でき、説明も簡単になる。温度は絶対温度で表すことにする。0℃は絶対温度では273度、100℃は373度である。
100℃の500リットルの湯のエントロピーは S100=V×373/373=V
0℃の500リットルの水のエントロピーは S0=V×273/273=V
混合したあとは 1000リットルの水は 50℃になるから、そのエントロピーはS50=2×V×323/323=2×V
混合する前の水とお湯を合わせたエントロピーは S100+S0=V+V
混合した後の1000リットルのお湯、エントロピーは S50=2×V
となりエントロピーは等しく、何も変化していない。
もとより、ここでは外部からのエネルギーの授受がないし、自然放熱も考えていないから、エントロピーも変化しないのは当然である。あきらかに「エントロピーの科学」の説明は誤りである。
三歩譲って仮にエントロピーが変化したものとしよう。クラジュウスの熱エントロピーの定義は純粋に物理的なもので、温度による物質の持つ効果、コーヒーを入れるのに適した温度とか風呂に適した温度など、ヒトの感覚とは全く関係がない。温度によって「お風呂もだめ、コーヒーもだめ」というのは、熱エントロピーのことを曲解させることにもなる。
エントロピーをこのような話題で説明することは、熱学のエントロピーを正しく学ぼうとする若い学徒を困惑させ、エントロピーの理解を妨げる。
炉端から苦言を述べる。
(応)

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