帰りの便は、3/9のコペンハーゲン発デュッセルドルフ行きから始まった
デュッセルドルフでは、空港歩きをする暇もなく、次のフライトが迫っていた
アブダビ行きの飛行機に飛び乗り、自分の席を探して飛行機の中を後ろへ進む
ようやく見つけた自分の席
ぼくの隣はぼくからフェロモンを溢れ出させる、顔も体も完璧な美女
タックスマンである彼女に、じゃあ、君は市民から嫌われているんだね、というと大きな口を開けて笑った
1ヶ月の休みを取ってオーストラリアへ旅行に行くというタックスマンの彼女を見て、ドイツと日本の労働環境の違いを実感した
もう少しばかり世界を歩き回りたい(遊びまわっていたいので、もう少しばかりパートを続けようかな
一人旅が好きだという彼女とは、話があったけれど、盛り上がったりはしなかった
「日本人は写真を撮りすぎるって、本当?
彼女は笑った。「わたしたちはあまり撮らないわ。心に刻み込むの
「でも、どんなに楽しい思い出も、10年後に思い出そうと思ったら難しいだろ?
「どんな旅も楽しい思い出で溢れてるけど、あんたたちが撮る写真の枚数ほどじゃないわ
ぼくは笑った
彼女に訊いた
人付き合いの喜びってなんなのかな、会話の楽しみって何? 人はどうして会話をする? 情報を仕入れるため以外で。
「わたしとの会話はつまらない?
「楽しいよ。ただ、子供の頃から1人で本とか映画とか音楽とか絵とか冒険とかを楽しんでたから、いまいちわからないんだ。人とつながるっていう感覚。人と会話をするときは情報を仕入れたり要求を伝えたり。初めて旅をしたのは、去年のことで、それ以来、人との関わりが好きになったんだけど、やっぱり、いまいちよくわからないんだ。君とか、普通の人は、人とのコミュニケーションを楽しむって言うことを、何も考えずに、自然体でやってるだろ? それとも、考えすぎなのかな。みんなそう言うんだ
「わたしもそう思うわ
「そう
「わたしの場合は、冗談を言い合って、笑って、意見を伝え合って、ああ、この人はこういうことに対してこういうことを思うんだなぁ、っていう発見をしたりして、そういうことが、楽しみかな。あとは、あなたのいうように、知識とか情報の共有も目的の一つね。幸せを感じた時を振り返って見たら、あなたもそうなんじゃないかしら?
「もしも映画を見たくなったら、見てもいいよ?
「その時はそう言うから、気にしないでいいわ
その一言と薄い微笑みが、なんだか、ぼくの気持ちを軽くした。
アブダビに着き、13日前に入ったスモーキングルームでデンマーク産のタバコ、キングを楽しみながら、ネットのニュースを見て驚いた
ぼくがデュッセルドルフを離れた数時間後に、市内でテロが起こったらしい
やっぱりぼくは、神様に守られているのかもしれない
日本に帰ってきたのは、10日の午後のこと