教育のとびら

教育の未来を提言 since 2007
presented by 福島 毅

熟達論(為末大著)を読んで

2023-11-16 | 番組、記事、書籍コメント

『熟達論』(為末大著)を読んだ感想のシェアになります。

まず、どんな本かというと、アマゾンの解説ページから
ーーーここから引用
「走る哲学者」が半生をかけて考え抜き辿り着いた、人生を「極める」バイブル。
基礎の習得から無我の境地まで、人間の成長には5つの段階がある。では、壁を越え、先に進むために必要なものは何か。自分をどう扱えばいいのか。「走る哲学者」が半生をかけて考え抜き、様々なジャンルの達人たちとの対話を重ねて辿り着いた方法論が一冊に。経験と考察が融合した現代の「五輪書」誕生!
ーーーここまで

著者の為末大氏は、2001年世界陸上エドモントン大会・2005年世界陸上ヘルシンキ大会の男子400mハードルにおいて、世界陸上選手権の2大会で銅メダルを獲得。またオリンピックには、2000年シドニー・2004年アテネ・2008年北京と、3大会連続で出場した。陸上の練習で、どのようにしたら技術をあげられるかを考察する中で、人が熟達していく過程についてをさまざまな人にインタビューして著者なりの仮説をたて、それを紹介したのが本書になります。

さて、本書では、熟達の最高峰に至るステップを次の4つの段階としています。
それを章を分けて解説しています。
第1段階 遊 不規則さを身につける

第2段階 型 無意識でできるようになる

第3段階 観 部分、関係、構造がわかる

第4段階 心 中心をつかみ自在になる

第5段階 空 我を忘れる

まず、第1段階の「遊」。
これは文字通り、遊ぶことを意味する。子どもの頃を思い出すと、好きなことを好きなだけやって遊んだ経験を誰でも思い出すことができる。これから究めようと思う分野についても、まずは自分の感覚で思いきり遊んでみるということ。型にはまらずに、体や頭を使うことでその限界を知ったりいろいろな発見があったりする。この遊ぶという段階を最初に持ってくることが重要であることが本書には書かれてた。

次の第2段階が「型」。
型を知ってやることの是非はいろいろ議論されてきていますし、著者もそのことを意識してこの章を書いてる。型を使うべきか否か。しかし、結論として、過去から脈々と継承されている型には分析してみると合理的な部分も多いというのと、自己流で習得するには時間がかかるものも、型をうまく利用することで時間や学びの効率としては便利であるということ。もちろん、型に流派のようなものがある場合、どれが自分に合うのかというマッチングについては自分の体と相談しながらになるけれど、いずれにしても、型なしで自己流で成長させた場合にはあるポイントから先の成長には至らないというのが著者の主張。

第3段階の「観」。
型がみにつくと、最も基本的な行為は無意識にできるようになる。そこでそれを土台として、別のことに意識を向けることができるから、そこを観察していく。型の段階ではわからなかった構造的な理解が促進される段階。もちろん分けて理解することによって取りこぼされてしまうことがあるけれど、技能を修正していくには、切り分け検討しターゲットをしぼって修正していく必要があるというのがポイント。

第4段階の「心」。
これは、こころでなくて、しん。中心の心。端的に言えば、ここを押さえればうまくいくという勘所(核心部)が心(しん)であり、これをマスターするということ。心がマスターされていれば余計な運動や邪念は排除して最低限の集中で余計な力を入れることなく、パフォーマンスを発揮できるようになる。そうすると、自分をとりまく条件がかわtったとしても、中心をくずすことなく、適応が簡単になる。これは体温などを例にするとわかりやすいですね。恒常的に人間の普通の体温である36度くらいが保たれている状態ならば、多少の暑い・寒いに対しても人間は対応ができる。しかし低体温や高熱などになるとそもそもの中心が離れている状態なのでパフォーマンスは発揮できない。体温は意識せずとも恒常性を自動で保ってくれるが、技能取得では、この心にもっていくまでの状態(恒常的に保つ)こと自体に努力と工夫がいる。また思い切って違うことにチャレンジしても、どこかで自分らしさである中心に戻ってこれるし、違うと思ったら、っすぐにオリジナルの中心に戻すことができる。だから心を掴むことが大事。

第5段階の「空」。
私達は知らず知らずに当たり前や制限を受け入れてしまっており、まったくの自由というわけにはいかない。ある陸上記録が長年破られていない状況だと、選手は「〇〇秒台というのは無理」という先入観・壁を実は作ってしまっている。だから、ひとたびその記録が打ち破られると次々と記録をやぶる選手が続出するのもそのせいであるという例が本書で出てきますが、それがわかりやすい。この当たり前や見えない制限を撤廃するのが、自我がない夢中の世界に飛び込むこと。スポーツではZONEなどとも呼ばれる。この状態は人生で頻繁に起こるものごとではない。共通した性質として著者は①時間感覚の変容②感覚の細分化③自分主体でなくなる というものをあげている。再現性にはとぼしく、狙ってその状態になるわけではないが、この状態を一度体験すると、意識するという行為の遅さ、狭さを感じられ、今を生きることを身体が悟るという。

また、この本の説明のタッチがリズミカルでかつわかりやすく、例えている例なども秀逸であり、なるほどなーという感覚で、いままでなんとなく何気なく自分が自覚していたことがうまく言語化されているなぁという印象を持ちました。

また、本書のアンダーラインを引いたところを中心にもう一度熟読しながら、各段階でのパターンを精緻にさらに自分なりの言葉などを使って精緻に整理していってみたい気がしました。何かの分野に熟達していきたい方や、スポーツや芸術などのコーチ・指導者などを経験されている方にはおすすめの一冊です。

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