私の研究日記(映画編)

ここは『智に働けば角が立つ』の姉妹ブログ。映画の感想や、その映画を通してあれこれ考えたことを紹介しております。

『イル・ポスティーノ』(DVD)

2008-08-19 18:41:33 | あ行
 Amazonのお薦めDVDの中に数年前から入っていて、ずっと気になっていた映画。7月の初めについに購入。その後、仕事が忙しく、そのまま放置していたら、とうとうお盆休みに入ってしまった。

 タイトルの『Il Postino』は日本語に訳すと郵便屋さん。

 第二次世界大戦が終わって間もない頃のイタリアを舞台とする物語である。チリの偉大な詩人パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)が祖国を追放され、ナポリの沖合いに浮かぶ小島に亡命してくる。パブロ・ネルーダの元には、毎日沢山の手紙が届くが、この臨時の郵便配達人として、島の貧しい青年マリオ(マッシモ・トロイージ)が採用される。ネルーダとの交流の中で、純朴なマリオは言葉の魅力にひきつけられていく。

 フィリップ・ノワレというと、『ニュー・シネマ・パラダイス』の「アルフレード」が思い浮かぶ。『イル・ポスティーノ』のネルーダ役もとても良いのだが、アルフレードの印象を拭いさることがどうしてもできなかった。ただ、後で、ネルーダの実物の写真がないか調べたところ、ウィキペディアで簡単に見つけることができた。この写真を見ると、フィリップ・ノワレ演じたネルーダとそっくり。アルフレードの印象が強かったとしても、ネルーダの役をフィリップ・ノワレ以上に演じることができる人はいない。


 さて、物語はイタリアのナポリ沖合いに浮かぶ小島を舞台に展開していく。この島は、調べたところ、プロチダ島という島のようだ。私が持つ世界地図帳には載っていなかったが、googleマップではかろうじて確認することができる。

 映画を見てまずはっとするのは、この島の美しさである。地中海らしく白く乾いた砂浜はもちろん美しいのだが、さびれた漁港の暗さや寂寥感もとても良い。特に、夕闇の中、漁師たちが漁港に戻ってくる場面は、まるで美しい絵画を見ているようであった。
 また、劇中曲の良さは、イタリア映画の定番であるが、この映画に使われている曲も味わい深く、聴いていて心地よい曲であった。音についても存分に楽しめる作品である。

 情熱的で洗練された詩人ネルーダに対し、主人公マリオは純朴そのものである。純朴なマリオに対し、ネルーダは言葉の美しさを説く。隠喩(メタファ)の説明を始めとして、ネルーダの話を聞きながら、なるほどなーと、見ているこちら側まで思わず納得してしまう。

 こうした、詩を通じたマリオとネルーダの友情が、ほのぼのとして、時にユーモアに笑える場面もあるが、最後は泣けた。映像と音楽、物語とも存分に楽しむことができる作品であった。

 ところで、仕事柄か、文章を書く時は、分かりやすい言葉を使うよう意識しているが、正直、美しさは二の次である。例えば、この映画のキーワードともなっている隠喩を、報告書に使うことは、ほとんどないだろう。

 この映画を見て思うのは、必ずしも分かりやすい言葉だけが、相手に意図を伝えるのに役立つわけではない、ということである。
 例えば、物語の中でマリオは、島一番の美人ベアトリーチェに自分の気持ちを伝えるため、ある時は詩を送り、ある時は詩を朗読し、ついには念願叶って、彼女と結婚することとなった。ここでは、詩が彼の気持ちを見事代弁したといえるだろう。
 もう一つ。この映画で最も感動したのは、チリに帰国したネルーダが数年後に再びプロチダ島を訪れる場面である。ここでネルーダは、死んだマリオが蓄音機(ある事件に巻き込まれ死んでしまう)に残しておいた音を聞く。マリオが、帰国したネルーダが島のことを思い出せるよう、プロチダ島の様々な音(波や風の音など)を録音しておいたのである。どんなに分かりやすい言葉も、この蓄音機から流れ出る音ほど、ネルーダに対に対するマリオの友情を説明することはできないであろう。

 人に何かを伝える時、言葉の美しさや、あるいは言葉以外の表現については、余り考えることはないが、こうしたことが、むしろ分かりやすい説明以上に、自分の意図を伝えることがあるのだということを、改めて考えさせられる作品であった。  

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