「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

希望の「青い鳥」―『希望のつくり方』

2010年12月12日 | Life
☆『希望のつくり方』(玄田有史・著、岩波新書)☆

  希望がない、と人はいう。希望がないという思いに、自分もまたしばしば駆られる。数年前に同じ著者・玄田さんによる編著書『希望学』(中公新書ラクレ)を読んだ。データに基づいた具体的な提言がなされていて、何がしかの希望を得たように思った。本書は『希望学』以降の研究成果を踏まえているが、データは背後に退き、玄田さん自身の言葉で希望についての思いが語られている。希望はどこかで得てくるものでもなく、誰かからもらうものでもない。だから「つくり方」なのだろう。読みながら頭の片隅に、童話の「青い鳥」を思い浮かべていた。
  そもそも希望とは何か。まず希望には四本の柱―「気持ち」、「何か」、「実現」、「行動」―があるという。それを踏まえて、希望とは「行動によって何かを実現しようとする気持ち」(Hope is a Wish for Something to Come True by Action)であるとしている。さらに希望は社会とも深く結び付いているのだが、自分一人ではなく他者との希望の共有の意味を込めて、Social Hope is a Wish for Something to Come True by Action Each Other であるともしている。すなわち「希望の社会化」である。
  たしかに失われた希望を語るとき、われわれは社会の閉塞感や政治の無策を問題にする。本書でも成果主義の行き過ぎや、急速な「高齢社会」(「高齢社会」とは全人口比で65歳以上が14%超えの社会、「高齢化社会」とは同7%超えの社会とのことで、この言葉のちがいを本書で初めて知った!)の出現などが指摘されている。しかし、具体的な政策の提言がなされているわけではない。希望の政策を甘い言葉で安易に語る政治家を戒め、最悪の絶望的な状況(戦争、飢餓、環境破壊などなど)を避けるのが政治の役割である、と理念を語るにとどまっている。その点では、物足りなさを感じる読者もいるだろう。
  やはり本書の眼目は、問題を政策よりも人間、社会を見据えながらも、社会そのものよりも個人に引きつけているところにあるのだろうと思う。希望を語るうえで、人間関係が重要なファクターであることはいうまでもない。人間関係は社会とつながっているが、だからといって政治の介入には限界があり、むしろ危険性が伴うように思う。そこで「ウィーク・タイズ(Weak Ties)」という考え方が紹介されている。「ゆるやかなつながり」すなわち「遠くにいてたまに会うくらいの関係にある人ほど、自分と異なる経験をし、自分と異なる価値観を持ち、自分と異なる情報を持つ」ことが多いため、それが希望の発見へとつながるのだという。意識はしなくても、思い当たる節は多い。意識的な「ウィーク・タイズ」の活用はさらなる希望をつくるかもしれない。
  言葉の問題にもふれていて、「頑張れ」は目標が定まっていて達成できそうな人には有効だが、反対の状況にある人には気をつけるべきだと書いているが、誠に的確な指摘だと思う。さらにもう一つ「大丈夫」の使い方にもふれている。「大丈夫?」と声をかけるのは、つらい状況にある人をさらにつらくする。むしろ「大丈夫!」とお互いに声をかけあうことが大切だと、玄田さんはいう。しかし気楽に「大丈夫」といいすぎるのも問題があり、自分の経験をもとにして「○○すれば大丈夫!」と言うようにすすめている。介護などつらい状況にあるとき、さすがに「頑張れ」という人は少なくなったが、たんに「大丈夫?」と聞く人はいまだに少なくない。何も声をかけてくれないよりはましだと思っているが、内心「大丈夫なはずがない」というのが正直な気持ちである。
  メーテルリンクの『青い鳥』のことをウェブで調べてみて、少し驚いた。原作の戯曲では家に帰って「青い鳥」を見つけるところで終わらず、さらに続きがあるという。結局、その「青い鳥」も逃げていってしまうのである。作家の五木寛之さんは『青い鳥のゆくえ』で、幸せを得るのは容易ではない、だから幸せはつくらなければならない、と解釈しているそうである。希望もまた簡単には手に入らない。だから、やはり希望もつくらなければならない。希望のつくり方も簡単ではないという思いだが、本書は「希望のつくり方」に希望を持たせてくれた、とはいえそうだ。
  最後に載っている希望をつくる8つのヒント―このうちの7つのヒントをときどき見直しながら、8つ目の「 」を埋めるべく、まずは前を向いて歩いて行こう。

  

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