美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

香月泰男のシベリアシリーズ(針生一郎と戦後美術 1/31~3/22 宮城県美術館)

2015-03-23 10:34:54 | レビュー/感想
シベリアの大地に追いやられ人間性を剥ぎ取られて、丸太のように無造作に埋められた者たちが唯一見たものは、圧倒的な星の瞬きであっただろう。創世記のアブラハムがふり仰いだ星空は、神の約束のしるしであったが、無残な大量の死に対置して、画家香月泰夫が出会った星空は、透明な無言の美に満ちた不条理の表象であった。戦後、彼がシベリアシリーズという絵を描き続け、ヨブのように問い続ける必要があったのはそれ故であったのだろう。

しかし、むき出しの現実に出会う者は常に少数者であった。多くのものは同時代を生きただけでまるで特権を得たかのように、実は解放された自己のイデオロギーをにぎやかにエネルギッシュに語ったに過ぎない。「針生一郎と戦後美術」を見て、ほとほと疲れる感じになったのも、結局はポリティカルな体裁を取りつつ、色や形になって噴出した情念のるつぼのような作品ばかりを見せられたからであろう。

対照的に、この情念を脱色したかのように、厚みのあるマチエールを失い浮遊しているのが現在の画家の絵だ。いずれも時代の表層的空気から出てきた絵だ。しかし、個性を競い合った一連の戦後美術の中で、ほとんど香月泰男の作品だけが、その中で特異なまでの静けさに満ち、かえって独創的に感じたのは、戦争という重い主題を据えたからではなく、過酷な体験を通して究極の外部性という重力を魂の奥底に刻み込まれたからであろう。

ブログ主の運営するギャラリーshopはこちらです





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。