秋霖

雨の日が続きますね。
一雨ごとに気温が下がってゆくようです。
そんな雨の朝、大きく立派な実をいくつかつけた柘榴の木を見つけました。
けれど悲しい哉、他人様のお宅の庭。
立派な石塀越しに見える柘榴の実を、指をくわえて眺めながら通る毎日。
なんとかひとつ分けていただけないものか、いっそ勇気を出して訪ねてみようか。
毎朝塀越しの柘榴を見つめて考えました。
日を追うごとに実は大きくなり、ついに弾けて赤い粒が顔を覗かせた頃、意を決して門の前に立ちました。
しかし何と言う？
お宅の柘榴の実をひとつ分けていただけませんでしょうか、と言うのか。
見ず知らずの女がいきなりそんなことを言って訪ねて来たら、絶対に気味悪がられるよなぁ。
雨の中、門の前でしばらく突っ立って、いややっぱりやめておこうと踵を返しました。
そして今朝、久しぶりに傘をささずにお宅の横を通り過ぎながら石塀越しに見た柘榴の木には、実がひとつもついていませんでした。
大きな溜息をつきながら、駅に向かったのでありました。