小学校の低学年のころ、一時、日野市の郊外にある木の家に住んでいた。借家である。土ぼこりの舞う冬の季節には、家の中にいても、顔にほこりのベールがかかってしまい、家族みんなで苦笑しあったりしていた。すき間風大歓迎の構造だったのだ。
同じ敷地内に、数ヶ月に一回しか帰ってこない大家さんの「古民家」が立っていた。実際どこかから移築したらしい。さぞかし苦労したことだろう。土間があり囲炉裏があり、何と茶室まであった。
ときどきその茶室の中で、不埒にも横になって居眠りをしていたような記憶がある。中二階には、大きな古いトランクがあり、誰のものか知らないが、不気味な人形がしまってあったりした。近所の女の子と暗闇の中をまさぐって少年探偵団をまじめにやった。大家さんの家の庭の端には井戸も掘ってあり、夏はすいかをひたして食べた。
たまに大家さんが帰ってくると、まず困ったのは風呂に入れなくなることである。もちろん遊びなれた広い部屋に入るわけにもいかない。早く神田のお宅に戻ってくれないかなと祈ったものだ。
その後もずっと木の家だった。すき間風こそなくなったが、ちゃんと柱と廊下と縁側があった。杉並の家の庭には、桃の木もあり、暇を見つけてはよじ登ったことを覚えている。夏休みの草むしりはかなり大変だった。根っ子ごと抜いてみると、土の中にはこんなにもごっそりと生き物がいるのだと驚きもした。
そういう育ちのせいか、瀟洒なコンクリートのレストランに入ったり、たまにそういった質の家に招かれたりすると、落ち着かない気分になることがある。気取ったふりをしながらも、どこかに少しでも木があって欲しいと願ったりする。
おそらくヨーロッパの石造りの家は性に合わない。まずそういった家や屋敷とは無縁だと思うが。
さて、今の住まいは何と小さなマンションである。よくよく考えてみると困ったものである。心なごむような仕掛けは一つもない。何とかしなければならない。
先日、できもしないのに、思い切って「古民家」を提案してみたところ、一家の大反対にあった。こうなったら、資金はさておき、空想ながらも別のプランを練ってみる必要がありそうだ。もちろん木は欠かせない。
同じ敷地内に、数ヶ月に一回しか帰ってこない大家さんの「古民家」が立っていた。実際どこかから移築したらしい。さぞかし苦労したことだろう。土間があり囲炉裏があり、何と茶室まであった。
ときどきその茶室の中で、不埒にも横になって居眠りをしていたような記憶がある。中二階には、大きな古いトランクがあり、誰のものか知らないが、不気味な人形がしまってあったりした。近所の女の子と暗闇の中をまさぐって少年探偵団をまじめにやった。大家さんの家の庭の端には井戸も掘ってあり、夏はすいかをひたして食べた。
たまに大家さんが帰ってくると、まず困ったのは風呂に入れなくなることである。もちろん遊びなれた広い部屋に入るわけにもいかない。早く神田のお宅に戻ってくれないかなと祈ったものだ。
その後もずっと木の家だった。すき間風こそなくなったが、ちゃんと柱と廊下と縁側があった。杉並の家の庭には、桃の木もあり、暇を見つけてはよじ登ったことを覚えている。夏休みの草むしりはかなり大変だった。根っ子ごと抜いてみると、土の中にはこんなにもごっそりと生き物がいるのだと驚きもした。
そういう育ちのせいか、瀟洒なコンクリートのレストランに入ったり、たまにそういった質の家に招かれたりすると、落ち着かない気分になることがある。気取ったふりをしながらも、どこかに少しでも木があって欲しいと願ったりする。
おそらくヨーロッパの石造りの家は性に合わない。まずそういった家や屋敷とは無縁だと思うが。
さて、今の住まいは何と小さなマンションである。よくよく考えてみると困ったものである。心なごむような仕掛けは一つもない。何とかしなければならない。
先日、できもしないのに、思い切って「古民家」を提案してみたところ、一家の大反対にあった。こうなったら、資金はさておき、空想ながらも別のプランを練ってみる必要がありそうだ。もちろん木は欠かせない。