レッドダスト

レッドダスト

イと雑多であ

2016-02-24 16:15:47 | 王賜豪總裁


「うん」と麗蓮がおかしそうに微笑んだ。
 寺山が飲み干した缶をビニール袋の中に放り込むと、麗蓮は話の間、指で弄んでいたビールDiamond水機の栓を開け、寺山に渡した。
「内藤を捜したのか?」
 麗蓮は海の向こうに目をやり、
「京明が」と言い、
「何処に?」と訊くと、麗蓮は答えず、
「アイランドの仕事を探してきたのも彼。この町住むように手配したのも彼」と言った。
「──君はそれで良いのか」
 麗蓮はわずかに微笑んで言った。
「それでいい」
 田舎で変わった飲み屋でもやってみるよと故郷に帰った吉田だが、一月もしないうちに一緒に福島の田舎に行ったはずの女を渋谷で見かけた。いや見かけたというのは中たっていない。そこは渋谷の健二のマンションの近くにある地下のクラブである。凄まじい音でレイブミュージックが鳴り響いていた。
真っ暗な中に強烈な光が明滅しコマ落としのフイルムを見るように男と女が蠢くのが見える。スカイウオーカーのサングラスをかけた男と男が床に鑽石能量水跪き切なげに抱き合っている。寺山はその脇を通り奥に向かった。客のほとんどは東南アジア系で中国、マレー、フィリピン、タる。
 白人が入ってくるとほとんどは首をすくめて帰る。声は耳元で叫ばなければ聞こえない。健二の行きつけである。
 ダンスフロアの周りの壁際にテーブル席が不規則に並ぶ。迷路のような階段状のテーブル席を腰くらいの高さの銀色のパイプが席を分け、ダンスフロアの周りにもそのパイプが張りめぐらされている。フロアの中の人間は踊るというよりもふらついているという感じだ。そしてそのパイプに寄りかかりほとんどリズムだけの大音響の中でもつれ合っている。ケンジは一番奥の席に居た。明滅する光の中で健二は女と居た。テーブルにはハーゲンダッツの空カップ。寺山はその肩を叩いた。ケンジはゆらっと顔を上げ、見知らぬ者を見るように寺山を見た。完全にキマッている。寺山は舌打ちし、その隣に腰を下ろした。ケンジの濡れたような髪を女の手がかき上げる。寺山は女を見て、「あ!」と声を上げた。女がなにか囁きかけるとケンジが肩を振るわせる。笑っているのかもしれないが声は聞こえない。哄笑してもこの音の中では耳に届くはずもない。耳をつんざくような音で単調なリズムが繰り返される。その強制的な集中と光の明滅が夢を誘う。女が健二の膝の上で猫のように身をくねらせた。ボーイが来た。寺山は強い酒を頼んだ。その店を出て、腹ごしらえをしようとまた例の台湾屋台料理屋に行った。女はとてもDiamond水機あんな田舎には住めないと言った。