ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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At This Time/Burt Bacharach

2006-04-17 23:12:04 | 音楽
晴れ。

Burt Bacharachというとコケティッシュなのに切ないという相反するイメージがある。
バカラック・ワールドとでも言うべき独特の転調と吸い込まれるような流麗なメロディライン。
一聴しただけでそれと分かる、類まれなる作曲センス。

今再び彼の新譜を聞くことが出来るとは思わなかった。御歳78歳である。
数年前にElvis Costeroとコラボレーションしたときも相当に驚いたが、
こうして新譜が手許に届けられることになったのもひとつの奇跡であろう。
彼のワン・アンド・オンリーなスタイルは健在で、年齢を考えればこの創作意欲と衰えない作曲センスには脱帽である。
「In Our Time」や「Dreams」の美しいメロディラインは往年のバカラック・メロディそのものである。

今の彼にはHal Davidというロマンティックな作詞家はいない。
28年ぶりのこのソロアルバムでは自らの長いキャリアの中で初めて作詞まで手がけた。
その背景には9.11というアメリカ人にとって拭い去ることのできない出来事がある。
先に書いたDonald Fagenもそうだが、
あれから5年を経て9.11を何かの形で残しておこうとするアーティストが増えてきているのではないだろうか。
ベトナムの時にちょっと状況が似ている気がしないでもない。
Burt Bacharachが再び創作を開始したのもあの忌まわしい出来事の記憶が大きく作用してのことではないだろうか。

Elvis Costeroが振り絞るように歌う「Who Are These People?」では
「僕らを囲むこの愚かしい混乱状態はひどくなっていくばかりで
あまりにも多くの人たちが死ぬ必要もないのに死んでいく」
とペシミスティックな情感を投げかける。
そこにはラブ・ソングの大家としてのバカラックはいない。
静かに「今このとき」の世界を憂えるばかりなのだ。

タイトルを『At This Time』としたのは、そうした現状に対する強いアンチテーゼもあるだろうが
音楽を通して自らを今の世に問うた彼自身の矜持の表れでもあるような気がする。


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1 コメント

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Unknown (maytum)
2006-04-21 21:39:56
TBさせていただきました。

このアルバム、次の世代に何を残せるか?考えさせられるアルバムです。
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