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西洋美術関連ブログ 思索の断片
―Thoughts, Chiefly Vague

世紀末 祈りの理想郷 ~ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ~

2014-02-09 11:46:43 | 番組(日曜美術館)


2014年2月9日放送 日曜美術館(NHK Eテレ)
世紀末 祈りの理想郷 ~ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ~
[出演] 島田雅彦氏(作家)
[VTR出演] 原田マハ氏(小説家)、姜尚中氏(政治学者)、エメ・プライス氏(美術史家)

以前に「美の巨人たち」(テレビ東京)でシャヴァンヌが特集されたとき、その放送回をみた感想をこのブログに綴った。(→2014年2月1日の記事
今回は今朝NHK(Eテレ)で放送された同画家の特集回について。

シャヴァンヌがいまでは(少なくとも日本では)「忘れ去られた画家」であることは前掲のブログ記事で触れた。
その事実と関係があってかどうかは知らないが、少し探したところでは、なかなか参考文献が見当たらない。

ゴンブリッチの名著『美術の物語』(ファイドン、2011)でも言及はみられない。
昨日のブログ記事でも触れた高階秀爾氏監修の決定版『西洋美術史』(美術出版社、2002)で、図像が一点(《眠るパリの街を見おろす聖ジュヌヴィエーヴ》、p.148)と記述が数行(p.149)あるくらいである。

また番組内でも紹介されていたが、原田マハ氏の小説『楽園のカンヴァス』でも物語の導入部分でシャヴァンヌ作品への言及がある。(→ 《幻想》[大原美術館(岡山)蔵])

もう一点付け加えるならば、イタリアの現代作家タブッキの最近の訳書『夢のなかの夢』では、カバー表紙にシャヴァンヌの《》の一部があしらわれている。
タブッキの作品の感想については、また時間のあるときに書こうかと思う。

タブッキの『夢のなかの夢』を訳者の和田忠彦氏は「批評的断片」(p.144)と捉えているが、(昨日のブログ記事同様)断片的に放送回の感想を書いていこうと思う。

・姜尚中氏のシャヴァンヌ評:〈孤独の影〉というよりは、〈薄明の静けさ〉。
的を射ていると思う。

・〈癒し〉の効果。
普仏戦争敗北を受けて描かれた一連の作品群。
言われてみれば、〈ヒーリング・ミュージック〉のような優しい調べが聞こえてくる気がする。

・ゴッホが共鳴したシャヴァンヌ作品の精神性。
内面を見つめ、掘り下げる〉という姿勢に惹かれたと推測される。

・先ほどの原田氏への言及のところで触れたシャヴァンヌの《幻想》。
この作品にみられるような〈青がかった〉色調が、ピカソの「青の時代」に少なからぬ影響を与えた。

・普仏戦争からの復興を目指して、という〈ピュア〉なところから制作に打ち込んでいった。

・蜃気楼のようだ。

・写実は〈ああ似ている〉で終わろうとも、抽象は想像力をかきたてる。

・シャヴァンヌは独学者であった。
レオナルドの例を挙げるまでもなく、独学こそが道を切り開くというのはひとつの真理である。

・伝統から革新へという道筋。

・シャヴァンヌ作品における〈秩序と配置〉。
シャヴァンヌに影響を受けたスーラが、同じくインスピレーション源としたいわゆる「エルギン・マーブルズ」の本質は、同二点にあった。

・〈静謐さと永遠性〉。
まさにキーツが「ギリシア古甕のオード」で謳い上げた主題に通じる。

Heard melodies are sweet, but those unheard
Are sweeter; therefore, ye soft pipes, play on;
Not to the sensual ear, but, more endear'd,
Pipe to the spirit ditties of no tone:
('Ode on a Grecian Urn', ll.11-14)

聞こえる調べは甘美だが、聞こえぬ調べ
なお甘美である。故に優しき笛の音よ、その調べを響かせ続けよ。
感覚としての耳ではなく、精神のうちに
いとしい旋律なき調べを届けるのだ。

・島田雅彦氏はシャヴァンヌ作品を「化石」と評した。
化石は一度埋もれる。
そして発見後、価値がいや増す。

・日本の震災の話も出たが、壊滅的な状況に陥ったとき、人が求める道はしばしば原点回帰であったりする。
シャヴァンヌの場合は、それが「祈り」(受け入れること)として作品に表象された。
言ってみれば、「壁画」も「祈り」も、それぞれ芸術と生活の〈原点〉に他ならない。

・《貧しき漁夫》。
同時代の印象派(例えばルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》)の華やかさとは好対照である。

まだシャヴァンヌ展を訪れていないこともあって全体像が見えておらず、ゆえにとりとめのないまとめになった。

最後になるが、芸術新潮2014年2月号(この号自体の感想はまた後日になろうか)ではシャヴァンヌの特集記事が数ページにわたって掲載されている。

そのなかでも語られているように、シャヴァンヌの作品には「物語的な背景はない」(p.109)。
またシャヴァンヌの絵は、よく言われるように、画面構成としての〈奥行き〉がない。

こうした二軸によって表象される〈平面性〉はどこに向かうか。

物語(絵画)のうちではない。
観る者の〈内面〉である。

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