通好み江戸生活帳

長屋住まいの江戸下町お気軽生活

たくさんな人の巻

2005年10月31日 | Weblog
 おう、光衛兵じゃねえか!今日は末日だから集金で店の外に出てると
思ったんだが、当たったね。おめえに面白れえものを見せてやるよ。
これは、見立番付といって江戸の世間の評判を相撲番付のかたちを真似して
つくったものよ。この番付は、たくさんな人って番付だ。
え、分からねえ?番付が上になるほど、それだけたくさんの人が居るってことよ。
まあ読みゃ分かるって。
 大関、金持ちのけちん坊。
どうだ、こういう奴が江戸にゃ多いってことよ。おめえの所の主人を考えてみな。
きっと銭は沢山持ってるんだろう。でもよ、銭を出す事にゃ渋いだろ。
うちの長屋の大家だってよ、銭は持ってるんだろうけど、けちだぜ。
家賃なんか、毎月取り立てにくるんだぜ。あ、こりゃ当たり前だって?
そうか。
 関脇 娘の芝居好き
こりゃ、毎日商いをして、遊びをしねえおめえには、ちょいと分かりにくい
かもしれねえが、最近の芝居の人気ってのは、そりゃすげえもんだぜ。しかも、
見に行くのが若けえ娘が多いってから、世の中変わって来たもんだよ。
大家の娘のお玉なんか、大家になんだかんだと言い訳しちゃ、芝居に行く銭を
大家から貰ってるらしいぜ。娘をもった親ってのは大変だよな。
 小結 嫁いびりの婆さん
こいつぁちょいと気の毒だし、笑えねえなあ。まあ、その分井戸端じゃ、婆さんの
悪口に花が咲くってもんかな。
 前頭 成上がり物の義理知らず
こいつは、おめえのちょいと気に掛けときな。商いで大きな富を得ると世間じゃ
色々言われるからよ。普段以上に義理人情が大切なんでえ。
どうだ、ちょいとは江戸の世間が分かるだろう。
この見立番付、おめえにやるから、持って帰って、店の連中と楽しみなって。


池尻村の娘の巻

2005年10月29日 | Weblog
 全く気味の悪い話だぜ。湯屋の二階で池尻村の娘ってのが話の種になってらあ。
その話ってのが、ある旗本の殿様のお屋敷で、池尻村からある娘を雇い入れたん
だと。しばらくたって、その家におかしな事があったんどとよ。
天井の上からものすごい大きな音がしたり、行灯が舞い上がり茶碗が隣の部屋に
移動したんだと。
天井の音はしばらく続いたので、主人は不審に思い天井裏を調べてみたが何の
不審もないんだよ。
数日経って、この話を聞いた老人がどこからともなく訪ねてきて、池尻の娘を
雇っているかどうか聞いてきたってんだ。居ると答えると、すぐ暇を出して池
尻村に帰せといったので、不審に思いつつもその娘に暇をだしたんだと。
それ以来、おかしな事が起きなくなったそうだ。
何とも気味が悪い話だねえ。まあ、本当かどうかは分からねえが、こんな話が
江戸中に広まっちゃ池尻村の娘が可哀想だぜ。肝っ玉が小せえ旦那衆は、こん
な話を信じて池尻村の娘を雇わなくなっちまうからな。
おいおい、熊六。おめえがおろおろするこたあねえよ。これは御武家様の屋敷
の話だぜ。長屋に住んでる野郎は、娘を雇い入れるなんてこたあ、しねえだろ
う。おめえも肝っ玉が小せえなあ。

辻斬りの巻

2005年10月27日 | Weblog
 てえへんだ!てえへんだ!辻斬りだっ!
場所は、近江屋の表通りの斜向かいの道ばたでえ。
今朝、近江屋の丁稚が表に水をまきに出たところ、斜向かいの道端で男が倒れて
いるのを見つけたんだとよ。近寄ってよく見てみりゃ、背中からばっさり切られた
町奴風の若けえ男が血みどろで倒れてらあ。
それを見ちまった丁稚は、腰を抜かして歩けねえ。はいつくばって手代の光衛兵
の所に行き、辻斬りがあったことを話すとその場で卒倒しやがった。それを聞い
た光衛兵も慌ててその死体を見に行くと確かに町奴らしい若者が背中をばっさり
切られて死んでいる。
 さすがに光衛兵は腰を抜かすことはなかったが、大いに驚き、すぐに主人を起
こし、事の次第を話すと、その足で八丁堀の旦那まで走って知らせたってことよ。
 たまたま、近江屋の庭手入れに行ったんだが、もう店の周りは、野次馬でいっぱ
いよ。まあ、その野次馬から何があったかを聞いたんだがね。
こんな騒ぎがあったんじゃ、今日は庭手入れどころじぇねえな。
光衛兵は、さっきから姿が見えねえし、肝心の死体は、むしろが掛けてあり、
見るこたあ出来ねえ。
まあ、じろじろ見るもんじゃねえよな。同心の旦那と近江屋の主が何か話してい
るが、可哀想なのが、死体を見つけた丁稚でえ。同心の旦那がいろいろ丁稚に聞
いているようだが、丁稚のほうは、心が抜けたようにぼうっとしやがって、満足
に話もできねえようだぜ。
 しかしなあ、下手人は誰だか分からねえが、お侍様が切ったとしても、辻斬り
は御法度のはずだぜ。
昔は、許されたらしいが、今はお縄にならあ。でもなあ、切ったのはお侍様だと
すると後ろから切るってのは、解せないね。お侍様なら、前から切り込むはずだぜ。
まあ、そのうち岡っ引きが、この辺をうろうろして、探りを入れにかかって来るだ
ろうな。
岡っ引きとは、あまり関わりたくねえなあ。下手人を捜すのはいいが、関係ねえ
奴までしょっ引くことがあるからなあ。
今日はひとまず、長屋に戻るとするか。
落ち着いたら、光衛兵にでも話を聞くことにするぜ。


旗本奴の巻

2005年10月26日 | Weblog
 全く迷惑な話だぜ。最近の旗本奴の行儀の悪さにも程があるってもんよ。
この前は、駿河町の水茶屋で店に因縁つけて大暴れしたって話だしよ、
つい先日は、近江屋にも、入ってきて暴れそうになったんだよ。
その時は、主人が出てきて、何とか追い出そうといろいろ取り繕ったんだが、
つまらねえことに因縁をつけてきたんだよ。それで、あまりにうるせえんで
近江屋のお客の御武家様の名前を挙げて、もしこの店で暴れたら、
てえへんな事になるぜってすごんだらしいんだよ。
そしたら、さっさと引き上げたって言うからたちが悪いぜ。
 あいつら、全く困ったもんよ。
この話は、お侍様の間でも知れているらしくて、旗本殿様の佐々木の旦那の
庭手入れに行ったときも、どんなに暴れているか聞かれたぜ。
まあ、旦那のいうことにゃ、旗本奴っていう奴らは、元々は旦那と同じ
旗本殿様の身分なんだが、主の次男や三男が旗本奴になるってことらしいぜ。
お侍ってのは長男が家を継いで、次男三男は家を継げねえらしいんだよ。
お城のほうでも出世も出来ねえらしいし、仕事らしい仕事もないんで
銭にも苦労してるって話よ。それで、うっぷん晴らしに徒党を組んで暴れてるって
話よ。旦那は、同じ旗本殿様なんで、少しは気持ちが分かるらしいぜ。
でもよ、だからって、暴れるこたあねえじゃねえねえか。
銭がねえのは、町人だって同じことよ。佐々木の旦那だって、旗本殿様だけど
内職して銭を工面してるじぇねえか。
 まあ、こういう奴らには、つき合わねえのが一番だし、もし遠目にでも
見つけたら、さっさと湯屋に逃げ込んじまうのが一番だね。


桜餅の巻

2005年10月22日 | Weblog
 向島の近くで近江屋の光衛兵に、あったんでえ。集金の帰りか。
末日じゃねえのに集金とは珍しいな。
近くに珍しい菓子を売ってる店があるんでえ。ついて来な。
 ここだぜ、山本屋って店だ。ここでは、餅に塩漬けした桜の葉を巻いてるんだよ。
ここらへんは、桜並木なんで、春のうちに桜の葉を集めて一気に塩漬けにして
保存しておくんだ。餅に巻くってところが、珍しいじゃねえか。
一つ食ってみな。ほうら、桜の葉の香りがするだろう。葉にしみた塩が餅の甘さを
引き立てて、なんともいえねえ旨味があらあ。桜の葉をかじる時の食感もなんとも
いえねえ感じだろ。
おいおい、そんなにうめえからって、慌てて食うんじゃねえよ。
餅は逃げやしねえから、もっとゆっくり食いなって。
いくら江戸っ子だってよ、餅は喉につかえるといけねえから、そうそう慌てて食う
もんじゃねえんだよ。
 あれあれ、桜餅の次は大福餅か。おめえ、さては甘党か?
まあ、いいやな。おめえは、普段は近江屋の中で、出された飯しか食えねえからな。
こういう時にでも、好きなものを食って行きなよ。

奇石収集の巻

2005年10月21日 | Weblog
 珍しい人がいるもんだねえ。湯屋の二階で世間話をしていたんだが、
柳橋に珍しい石を集めている隠居がいるってんだ。
珍しいってのは、石が犬の形に見えるとか、貝の形に似ているとか
あるいは、怪しい光を放つとか、刀のように鋭いなど
普段あまり見ねえような石の事だそうだ。
しかしねえ、石は石だろ。河原にいきゃいろいろ見つけられそうなもんだが、
いままで気にしなかったねえ。何しろ石を集めようとか、珍しいのを
見つけようなんて思わねえからねえ。物は考えようだねえ。感心したね。
 こういう人が増えてくると、河原で拾った石でも、売れりゃ商売に
なるんじゃねえかと思ったんだが、なんともう、こういう人達同士で
交換や売り買いをしてるらしいんだよ。
奇石会とか、弄石社とかっていう名前で集まってるらしいんだと。
なんとも江戸はいろんな人がいるねえ。


食い合わせの巻

2005年10月20日 | Weblog
 やっぱりあの旦那は、気難しいね。今日は、留守居役の清右衛門の旦那のお屋敷の
庭手入れをしてきたが、帰り際に旦那が出てきて、食い物の話をはじめたんだよ。
どうも、長生きする飯の食い方ってのを、どこからか聞いてきたようでそれを誰かに
しゃべりたくてしょうがねえらしいんだ。
まあ、話を聞くだけなら、てえした事はねえんだがよ、やれ昨日はどんな飯を
食ったか申してみよ、とか一昨日はどうだとか、聞かれるんだよ。
相手がお侍の旦那なんで、適当にはぐらかす訳にもいかねえから、なんとか思い出して
答えると、それに関して、やれ、肉はふやけてなかったかどうかとか、
色はいかがだったかとか、事細かく聞かれるんだよなあ。これには閉口したぜ。
こちらの返答に、一通り、旦那がうんちくをしゃべりきると、
しまいにゃ、
一,銀杏と鰻
二,びわと熱い麺類
三,緑豆とかやの実
四,魚の鮨と麦のなめ味噌
の食い合わせは禁忌とし、よく守るように、と言って奥に引っ込んじまった。
 ぶっきらぼうは毎度の事なんで、悪気は無いのは分かってるんんだが、どうもねえ。
食い合わせを禁じる道理がよく分からねえなあ。
まあ、きっと長生き出来る有り難いことなんだろうから、憶えておくとしようかね。

大家の飼い猫の巻

2005年10月19日 | Weblog
 大家が飼っている猫が、時々長屋にも来るんだよ。
鼠を退治してくれるんで、有り難えもんだよな。
この長屋にも結構鼠がいるからなあ。
夜中に屋根裏でばたばたうるせえから、退治してくれりゃ嬉しいもんよ。
でもな、この猫、鼠だけじゃなくて、人の飯も食っちまうから、
ちょいと始末が悪いぜ。
一昨日は、徳助の所で、魚を焼いていたんだが、ほんの少し油断した隙に、
焼き上がったのをくわえて逃げやがった。
大家の猫なんで、捕まえて懲らしめるわけにもいかねえしなあ。
せいぜい、頭に袋をかぶせて遊ぶ程度にしときな。
まあ、多少悪さをしても、猫がいるだけで結構なことだと考えないといけねえぜ
最近は、猫を買うにも値が張って、一両や二両するのもいるらしいからな。
 向かいの熊六は、猫を飼いたいんだが、そうそう大金もねえから、
猫の絵を飾ってらあ。


べっ甲の櫛の巻

2005年10月18日 | Weblog
八助の野郎、長唄の女師匠さんに相当熱を上げてらあ。
毎日、稽古してる声が長屋中に聞こえてるぜ。
 ところが、どうも熱が上がるのも度が過ぎるぜ。お師匠さんへ、
気の利いた物を付け届けたいって言ってるんだよ。
付け届けってのは、お侍同士の接待とか、商人がお屋敷へ
持っていくとか、そういう物だと思っていたがねえ。
お師匠さんへ、付け届けねえ。何?前の三味線のお師匠さんの
時は、高価な付け届けをした野郎が旦那になっちまったから、
今度は、先手を打っておめえがやっときたいのか。
で、付け届けといってもどんな物がいいんでえ。
え?お師匠さんは最近櫛を壊してしまったんで、新しい櫛を
付け届けしたいのか。しかし櫛っていっても、色々あらあ。
一番高級な奴か?一番は、べっ甲の櫛だが、こりゃ高けえぜ。
いつか聞いた話だが、旗本殿様の佐々木様の奥様の櫛は、二両
したそうだぜ。二両だぜ!!こりゃちょいと手が出ねえだろう。
大家の娘のお玉は、木の櫛だが、一分したらしいぜ。大家が
買い与えてやったらしいがな。一分でもてえへんな額だよなあ。
まあ野郎同士であれこれ勘ぐってるより、お玉に聞いて見りゃ
もっと分かるんじゃねえかな。流行物にも通じているしなあ。
 しかし、あまり熱を上げすぎるなよ。

巾着切りに用心の巻

2005年10月17日 | Weblog
 今日は、公事宿の石川屋の庭手入れに行って来たぜ。
この前の爺さん、こっちの顔を覚えててくれて、世間話に
花が咲いたぜ。どうも高輪に遊びに行った時に巾着切りが出たって
話なんだ。爺さんは、用心深く懐の奥の方に銭を忍ばせてるんで
やられるこたあなかったそうだが、同じ公事宿に泊まっている
宿泊人がごっそり懐から、盗まれたそうだ。なんだか、穏やかじゃないねえ。
 爺さん、巾着切りってのは、着ているもので大体分かるんでえ。
大体の野郎は、青梅縞の秩父絹裏の布子着てるんだが、江戸に来た
ばかりの爺さんじゃ青梅縞って言ってもちょいと、分からねえよなあ。
それじゃ、これなら分かるだろう。
黒琥珀の帯だ。晒木綿の手拭いを腰に挟んで、雪駄を履いてるんでえ。
どうだ、分かるだろう。そうそう、髷を巻く元結が一本一巻なんでえ。
こりゃかなり目立つから、頭を見れば分からあ。
 同じ公事宿の宿泊人にも教えてやって下せえな。
折角の江戸の見聞をつまらねえ事で終わっちまっちゃ、気の毒ってもんよ。
でも、銭は大事だぜ。少しだけ持ち歩いて残りは、この公事宿に預けて
置いた方がいいかも知れねえなあ。