通好み江戸生活帳

長屋住まいの江戸下町お気軽生活

豆腐小僧の巻

2005年09月30日 | Weblog
昨日の宵のから降り始めた雨が、今日も続いてらあ。
折角、両国にでも遊びに行こうと思っていたが、こんな日は
長屋でゆっくり一日を過ごすとするか。
なんでえ、達吉も、今日は長屋にいるのか。
こんな日にゃ、しょうがねえよなあ。
茶でも飲んでいくか?
おお、なんでえ、その紙は?瓦版か?
なんでえなんでえ、薄気味悪りい豆腐売りの小僧の絵だな。
こんな長げえ舌出しながら豆腐売る奴はいねえよな。
しかも、担いでいる豆腐をよく見て見ろよ。紅葉の印があるじゃねえか。
こりゃきっと、豆腐小僧っていう化け物だな。
まあ、そんなに恐がるんじゃねえよ。これにゃちゃんと仕掛けがあるんでえ。
こりゃ、豆腐屋が仕掛けた洒落だよ。
この紅葉の印を「紅葉」と「買うよう」に掛けてるんだよ。
なんだか、豆腐を食いたくなっちまったぜ。
生憎、手持ちの豆腐なねえから、替わりに茶でも飲んできな。


お留守居役の巻

2005年09月29日 | Weblog
 どうもあの旦那は、気難しいんでやりにくいんだよな。
今日は、清右衛門の旦那のお屋敷の庭手入れに行って来たんだが、
旦那は、お留守居役っていうお侍で、お国と幕府との連絡や他の藩の同じ
お留守居役と連絡を取るのが仕事らしいんだ。江戸の見聞もお国に知らせる
ようで、世間の動きも気になるらしいんだよ。まあ、こっちみてえに
長屋に住んでる町人の話なんかは、関係ねえと思うんだがよ、
時々世間の噂や、瓦版に載っていること、他の庭手入れにいっている
お屋敷の事まで、事細かに聞かれるんだよ。その聞き方の細かいことと言っちゃ
閉口するぜ。きっと悪気はねえとは思うんだが、お留守居役ってのを
長くやってると、細かく聞くのが癖になっちまうんだろうな。
軽くあしらう訳にもいかねえしなあ。困ったもんだぜ。
そう思うと、まだ昼八ツ時だってのに、急用とかでお屋敷から追い出され
ちまったこともあるしな。
でもよ、この旦那は、金持ちだぜ。他の庭手入れに比べて三日分の
銭を出してくれるんだよ。
 懐も暖かくなったし、明日はちょいと遊びに行ってくるかな。


秋の虫の巻

2005年09月27日 | Weblog
今年になって初めて、虫売りの屋台が長屋に来たぜ。
早速、徳吉が珍しそうに眺めてらあ。いつになっても子供は虫が好きだね。
ありゃ、母親にねだって鈴虫買ってもらったのか。良かったな。
ついこの間までは、わざわざ買わなくても、この長屋にも
秋になりゃ自然と鈴虫やら松虫やら秋の虫の鳴き声が聞こえたんだがよ。
最近はめっきり聞こえなくなっちまったなあ。屋台の主に聞いてみると
飛鳥山のあたりから捕ってきてるんだと。
人が増えて江戸の町が大きくなってくりゃ仕方ねえよな。虫も住みにくい町に
なっちまったってことかな。
子供に混じって、鈴虫を一かご買っちまったぜ。
秋の夜長に虫の声ってのは、気持ちよく寝れそうだな。

消えずの行灯の巻

2005年09月26日 | Weblog
 今日は、近江屋の庭手入れに行って来たぜ。手入れも終わって帰り際に
手代の光衛兵が、話しかけてきたぜ。この前そばの食い方を教えてやったんで、
あれからそばを食っちゃあ、ずずーっとすする江戸っ子の食い方を楽しんでるそうだ。
あまりに嬉しいんで丁稚にも教えてやったんだと。なんだか嬉しいねえ。
 そうそう、おめえは手代なんで、あまり夜中に近江屋を抜け出して、そばを
食いに出歩くこたあねえと思うが、念のため、教えてやらあ。
 本所の七不思議の一つに消えずの行灯ってのがあるんだよ。
夜中に灯りがついた二八そばの屋台があるんだ。屋台はあるんだが、近づいても
誰もいねえんだ。しばらく待っても誰もいねえんで、こりゃ灯りをつけたまま
店を閉めちまったんだと思って、諦めて帰ろうとするだろ。
そん時にゃ、屋台の灯りを消したら、いけねえぜ。もし灯りを消して帰ると
良くねえことが起こるって話よ。
なんだか、薄気味悪い話だぜ。まあ、ここは本所から離れてるし、
本当に消えずの行灯を見た奴の話は聞いたことがねえから、そんなに心配は
いらねえと思うがよ。もし、夜中にそばを食いに行くときゃ、ちったあ
気をつけな。


長屋に咲いた恋の花の巻 その弐

2005年09月25日 | Weblog
 おっ。向こう隣の源が来たぜ。惚れたお糸の尻をつねってきたか?
なに、お糸がいる水茶屋には毎日通って饅頭食ってるんだが、尻はつねってねえのか。
初めに水茶屋行ったのが、十五夜の夜だから、もう半月も毎日通ってんのか。
ご苦労なこったねえ。惚れてりゃさっさと尻をつねりなって。恥ずかしくて出来ねえか。
小心者だね、おめえは。それじゃ、死ぬまで毎日饅頭食いにいくつもりなのかよ。
なに、尻は恥ずかしいんで、文を渡すことにしたのか。そりゃいいね。
で、大家から恋文の指南書を借りてきたのか。なにも大家から借りなくても
いいようなもんだがな。まあ、いいや。いい文言あったのか?
そうか。おめえは字が読めなかったんだな。大家に選んでもらおうとしたが、、
それくらい自分で考えろって窘められて帰ってきたのか。
それで、読み書き習い始めたのか。読み書き習うのは、結構なことだが、
なんとも気の長え話だな。あんまり気が長えとお糸の熱も冷めちまうぜ。
向かいの徳助に、文を書いてもらったらいいんじゃねえか?
あいつなら、読み書きも出来るし、気がいい野郎だからきっと
おめえの味方になってくれそうだぜ。

菊の手入れの巻

2005年09月24日 | Weblog
ついに恐れていたことが、起こっちまった。佐々木の旦那が、菊を買って来て
お屋敷の玄関に置いてあるんだ。旦那はついこの間、薬師堂縁日の植木市で
盆栽二鉢買ってきて、楽しんでいたんだがなあ。今度は菊かあ。
どうも、旦那の話によると、旗本殿様のお仲間で巣鴨の菊花壇を見に行ったんだと。
そこであまりに見事な菊の花を見て、どうしても手に入れたくなっちまったらしい。
その日は、なんとか気持ちを抑えて、お屋敷に帰ってきたんだが、そのうちに
だんだん手に入れたい気持ちが高まってきて収まらなかったんだと。
それで、後日今度は、染井の菊花壇を見にいって、巣鴨のと見比べて、結局巣鴨の
菊を買ってきたそうだ。
まあ、ここまでは、恐れるこたあねえんだが、手入れの方法をあれこれ
聞いてくるんじゃねえかと恐れてるんだよ。いくらこっちが庭仕事をしてる
からって、なんでも知ってる訳じゃねえからな。盆栽のときゃ、松だったんで
なんとか勝手が分かってたんだが、菊は勝手が違うからな。
 下手な事言って、枯らしてしまったらてえへんだぜ。
菊職人の顔見知りがいるから、旦那に何か聞かれる前に、菊の手入れを
聞いて置いた方がいいな。

二八そばの巻

2005年09月23日 | Weblog
 石川屋の庭手入れの帰りに、日本橋あたりで近江屋の光衛兵と
すれ違ったんだ。所用を済ました帰りで、腹も減っているんで
二人でそばを食いに行ったんだよ。そばといえば、二八そばに
決まってるぜ。
嗚呼、なんていいそばつゆの香りじゃねえか。 しかし、
いくらつゆがうめえからって、そんなにそばをどっぷり
つゆに浸けるんじゃねえよ。おめえは、野暮な野郎だね。
いいか、そばってのは、箸で摘んだ下の方をちょっと
つゆに濡らすくれえでいいんだよ。そうしねえと、そばの味が
分からねえじゃねえか。それを、一気に吸い込むだよ。
そうそう、ずずーっとそばをすするいい音がするだろ。
これが江戸っ子のそばの食い方よ。
 そうか、おめえは、近江の国から来たんで江戸の食い方を
よく知らねえんだな。よし、分かった。心配いらねえぜ。
一肌脱いで、おめえを粋な江戸っ子にしてやらあ。


公事宿の巻

2005年09月22日 | Weblog
今日は石川屋の庭の手入れに行って来たぜ。ここは、公事宿っていって
江戸の外の国で起こった悪事を奉行所が吟味するとき、その関係者を
お白州に上げるの度に何度も国から呼ぶんじゃなくて、裁きが終わるまで
この公事宿って宿にずっと泊めて置くんだ。だから、あまりいい雰囲気じゃ
ねえよな。奉行所には関わりたくねえから、こっちも、ここの庭手入れ
だけは、おとなしく手入れしてるんだ。日中も佐野屋みてえな普通の宿と違って
宿泊人はあまり外に出ねえなあ。まあ、お白州の事が気になって江戸市中を
のこのこ見物してる気持ちにゃなれねえんだろうな。
それで、結構前から、ここに泊まってる爺さんがいるんだよ。
向こうから話しかけてきたんで、しょうがねえからつき合ってやったんだが、
どうもこの爺さんも、初めは不安だったんだが、一回お白州に呼ばれると
次回までは当分呼ばれないってことが分かってきたそうだ。そうすると、段々
気持ちが暇になってくるそうだ。結局、時々江戸見物してるってことだ。
なんでえ、やっぱり江戸見物してるじゃねえか。
しかしこの爺さん、金勘定はしっかりやってるといってたな。
なんと宿賃や飯は全部自分持ちだそうだ。
なんでえ、奉行所は呼び出しといて、金は出さねえのかよ。
おっと、お奉行のことには、あまり出しゃばらねえのがいいな。
何しろ、関わらねえのが一番だからよ。


 

歯痛取りのまじないの巻

2005年09月21日 | Weblog
 長屋の徳吉が、べそかいて泣いてやがる。
なに、歯が痛えのか。そりゃ可哀想にな。あんまり痛きゃ抜いちまいな。
お前はまだ子供だから、抜いた後にゃ、新しい歯が生えてくるから
心配いらねえよ。え、抜くのは嫌か。そうか。それじゃ、歯の痛みをとる
まじないを教えてやるよ。少し大きめの紙もってきな。それを二つに折り、
四つに折り、三十二になるまで折るんだぜ。折ったらな、金槌で何回か叩け。
それから表に「蟲」っていう字を書くんだ。お前は子供だから、
読めなくてもいいぞ。蟲と書けばいいんだ。最後に柱の割れ目に挟み込め。
柱はお前の家の柱ならどれでもいいんだぞ。
これでまじないは終わりだ。しばらく家で休んでりゃ治るからな。
安心しなって。

大八車の巻

2005年09月20日 | Weblog
ちょいと気にはしてたんだが、霊南坂の伊勢屋の店先ってのは
いつも大八車が何台も止まってやがる。問屋ってのは一気に
仕入れるから、しょうがねえんだけどな。どうも、邪魔
なんだよなあ。駕籠も通りにくそうだし、飛脚だって人に
ぶつかっちゃよろしくないんで、歩いて通ってるんだよ。
もっとあぶねえのは、急に大八車を動かそうとするんだよ。
まあ、大人は気が向くからいいようなもんだが、子供は
そうはいかねえからな。注意してくれよ。
 そんな話を、近江屋の光衛兵に話してみると、
近江屋も大八車は、いくつか使ってるそうだ。
近江屋は近江屋で大八車には結構気を使ってるんだとよ。
大八車を動かす時は、宰領っていう見張りを付けてるんだと。
こりゃ結構な事だね。実は、これには裏があって、奉行所のお達しで
もし大八車で事故を起こしたら、引っ張っていた奴は厳罰で、
流罪になるそうだ。さらに引かれてしまった人が命を落としたら、
死罪になるそうだ。これだけでも相当厳しいが、さらに
大八車の主人もお縄になるってことだ。
これじゃ、どうりで気を使う訳だよ。
 しかし、これで近江屋は、大八車で怪我人や死人が一人も出ていないって
ことだ。結構なことだ。流石だぜ。光衛兵、近江屋。