宮城谷昌光「草原の風」上中下巻

中国史好きを公言するのも恥ずかしいほど、
光武帝についての知識は少ない。
言ってみれば高校の教科書レベルで、
キーワードは「劉秀」「新の王莽」「赤眉」「後漢」
…そんだけだった笑笑笑

	草原の風(上) (中公文庫)
	クリエーター情報なし
	中央公論新社

	草原の風(中) (中公文庫)
	クリエーター情報なし
	中央公論新社

	草原の風(下) (中公文庫)
	クリエーター情報なし
	中央公論新社

去年、司馬遼太郎で漢楚の戦いをおさらいし
さらに今年にかけて三国志演義を読み直した。

こうなってくると、勢い、その間の時代に対して興味がわく。
劉秀という人物については、名将であるというような評価もちらちら目にしてて気になっていた。
そんな時、宮城谷さんのこの小説の存在を知って、ゆっくり3カ月くらいかけて読了。


前漢帝室の末裔とは言え田舎の普通の勤勉な青年だった劉秀が
どのように成長し、どんな出会いをし、乱世の英雄となっていったかがわかりやすく描かれる。
変にひねったりしてないので、時系列的なものも含めストレートで読みやすい。

ただ、これは批判ではなく純粋な感想なんだけど
あまりに劉秀が「出来過ぎ」な人物に書かれ過ぎてね？っていう。
じっさい後漢書とか読んでないので留保付きだけど、
いずれにせよもっと陰のある部分が書かれてればもっと深みを感じられたのにな、なんて。

謹厳実直で人望熱く、勝ち戦でも略奪禁止。
即位後は奴婢解放なんてことも実施してる。
そんな劉秀は、たぶん中国歴代でもかなり上位に来る名君ぶり。

まあ、非の打ちどころを探したいのが人の性（さが）か。いや、そんなの俺だけか？
息子を突き落して敗走する劉邦や、私怨に命を懸ける劉備の生き様の方が
好きっちゃあ好きだ。
強いのに不器用でかつ憎めない項羽も含め。
あくまでも小説世界での感想だけど。

※のちの妻、陰麗華に対する偏愛と拘りぶりは、ロリコン人間臭くて大好きだけど笑


↓ホンモノ？はさすがにおっさんイメージ。小説中の爽やか系とはちょっと違う印象





ところで、上の方で「英雄」と書いたが
この小説の劉秀は、ほぼ戦争で負けなしの将軍なのに
あんまり勇将っぽい感じはしない。
むしろ飄々としていて、大事なところは有能な部下を上手く使い、任せる。

やっぱり理想的だなあ。

でもひねくれ者の俺は、
こんな人格者の劉秀が開いた後漢王朝が
ほんの数代あとには宦官外戚が跋扈する紊乱の時代に突入し、
反乱と混乱のなかで例の三国時代に至るという史実に対し、深く思い嘆く。


歴史は繰り返すんだよなあ。皮肉なほどに。
特に中国史は。