Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

トム・クルーズのMY脳Ritalin・レポート

2005-11-01 07:30:09 | 人間行動学:精神医学・心理学・行動科学
アメリカに居る気持ちでこの記事を書いてみたい。有名人の言動が一般市民の医療観に影響を及ぼす事がある。特に相手がハリウッド有名人ならなおさらだ。日本的にはイケメン俳優とでも言うのだろうか、トム・クルーズはRitalinを始めとする薬物に否定的であるどころか、生物学的精神医学全般に対して一種の嫌悪感と偏見すら持っているようである。少しトム・クルーズの「MY脳Ritalin・レポート」(マイノリティー・レポートより・・・笑)を聞いてみようではないか。彼のTVでの精神医学と薬物療法に対する発言が物議をかもしているからである。

トム・クルーズが新興宗教「サイエントロジー」の熱心な信者である事は言うまでも無いが、彼はその信念体系に従い、精神医学における薬物療法に対してかなり否定的である。理由は色々とあるが、一因として私の武器の一つでもある「NEUROFEEDBACK療法」(NFB)と関係があるようだ。この治療法ではてんかん・注意障害・学習障害・脳卒中/虚血性脳障害・IQの向上・自信(自己確信)向上・TBI(脳外傷)による後遺症に適応があるとされているが、器質性の脳の障害による認知等の脳高次機能の障害にどこまで有効なのか正直言って私には実は判らない。

但しリラクゼーションを目的として現在でも行動医学・心身医学・臨床心理学などで広く使われている。もともとはBIOFEEDBACK療法の一分科として存在していた。器質面でも、脳の可塑性を考慮したシナプス形成・再形成を促すトレーニングとして有効なのかも知れない。精神療法の一環としてNFBは有効であるのは間違いが無い。

広義の認知行動療法の一部としてうまく使えば、このいわば"脳のトレーニング"は運動器のトレーニング(運動療法)と同じように、非観血・非侵襲的な治療法として医療に充分役立つことが期待されている。ところが薬物を使わない治療法の有効性だけに着目をすると、トム・クルーズのようなものの見方が出てくる。Ritalinはケミカルだからダメで、NFBはいわば「自然療法」だからよいという論点である。

これは言い過ぎではなかろうか。まず一点目として例えばNFBの統合失調症への適応は疑わしい。禁忌とすら書いてある場合がある。産後うつへの適応はどうであろうか。これは調べておく事にしよう。ともかくケミカルなアプローチを全て否定しても始まらない。統合失調症などには向精神薬の方が良いのでは?とトムに聞いてみたくなる。二点目としては、トム・クルーズは治療法としてNFBを受けたのではないであろうと言う事。「サイエントロジー」に詳しくは無いのだが、アメリカで世話になった音楽療法・波動療法の分野ではエキスパートとして知られたカイロプラクターがサイエントロジー潜入レポートを教えてくれたが、彼によると「あれはNLP(神経言語学的プログラム)を応用した洗脳のプロセスだと思う。」とのこと。

価値中立的であるはずの「治療」を超えて"特定の思想信条を植えつける"事を意図して脳波コントロール並びに被暗示性を高めた上でのサブリミナル効果を狙ったのであれば、施術者がセラピストであれば医療倫理を問われ、ふつう資格は剥奪される。トムの場合は"入信者"であるから問題にはならないのであろうが。逆に言えば"薬物治療などに否定的"な、"特定の思想信条"を"NFB類似行為を通して植えつけられた"彼にとっては、薬物療法は全て悪に見えるのであろう。NFBそのものの治療法としての効果に対する評価が彼のような有名人の発言によって歪められたくはないと思う次第である。

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トム・クルーズの問題発言が物議をかもす  Tom Cruise
 トム・クルーズは5月(著者注:2005年)に「アクセス・ハリウッド」に出演した際、出産後にうつ病になり、抗うつ剤を服用したブルック・シールズを批判していたが、「トゥデイ・ショー」でその件について触れられると、「彼女は精神医学の歴史を知らない。君と同じようにね、マット」と有名司会者マット・ラウアーに言い放った。トム・クルーズの信仰する団体によると、精神医学やセラピーといったものはすべてエセ科学であり、化学的不均衡などはそもそも存在せず、抗うつ剤を服用するなどもっての他だという。「乱用は良くないが、抗うつ剤が治療に役に立つ場合もあるのでは?」とマット・ラウアーが問いかけると、「マット、マット、マット」と苛立ったように遮り、「君はうわべだけしか分かっていない」と言い放った。
 この発言に対し、ブルック・シールズが反撃に出た。「鬱病の治療に薬を服用するのは間違いだと言ったり、ビタミン剤を摂取して運動をしろなどと提案したりするのは、出産後の鬱病や、出産そのものに関する知識がまったく欠けていることを表しています」とニューヨーク・タイムズ紙に寄稿。「クルーズ氏のでたらめな発言で唯一良いことがあるとすれば、シリアスな病気にもっと多くの人が注目してくれるようになることでしょう」と締めくくった。また、ニュージャージーの現役州知事も、「トム・クルーズは、私の演技に関する知識程度にしか、出産後の鬱に関する知識を持ち合わせていない」とコメント。彼の妻は、いまも鬱に悩まされているという。「彼は演技のみに集中し、助けを必要としている女性に関してはコメントすべきではない」と発言した。

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