どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ253

2008-08-02 01:49:27 | 剥離人
 重いステンレス製の円筒形のパーツを外し、ダイナミックシールを組み入れてある部品を取り出した私は、驚愕の声を上げた。

「おお、おお?おおおおおー!?」
 一番プランジャーのダイナミックシールはまだ良い。問題は二番、三番プランジャーのダイナミックシールだ。
「キーちゃん、この二番プランジャーのシール、磨耗が始まってない?」
 佐野が二番のシールを指で抜き取った。
「佐野さん、そんなのまだマシですよ。この三番のシールは…」
 私はラジオペンチを右手に持つと、ベアリングハウジング(円筒形のステンレス部品)からダイナミックシールを抜き取った。
「じゃーん!指輪ぁああああ!」
「おおっ!!って言うか、それは同じ部品なのか!?」
 佐野は爆笑しながら、完全に円筒形の形状を失ったダイナミックシールを指差している。
「これ、本当に凄いですよね、200時間持つはずのシールが、わずか十数時間で『指輪』ですよ。しかも、一部分が完全に欠損して、三日月形状になっていますからね」
 佐野はまだ笑いながら、私からそのシールを受け取ると、じっくりと観察する。
「はははは、キーちゃん、これ、冗談じゃなくて洒落にならないよ」
「うひひひひ、二日に一回プランジャーをバラしていたら、仕事になりませんよ、本当に」

 二人でハスキーの前でヘラヘラと笑っていると、突然K建設の所長、鴻野が現れた。
「おい、どうなってるんだ!?本当にそんなことで工期は大丈夫なのか?」
 一回目のトラブルはともかく、さすがに二回目の工事中止状態には、堪忍袋の緒が切れたらしい。
「困るんだよ、いったいこの機械はいつ直るんだ?」
 私は所長の表情を読み取り、半分は気合入れだと判断した。
「大丈夫です、必ず今日中に復旧させます。明日以降は新しい供給水を10トン入れますので、問題は解決します」
「いいか、工期はきっちりと守ってもらうからな」
「分かりました」
 所長は憮然とした表情で、ノシノシと土手を歩いて引き上げて行った。
「佐野さん、こんな感じでどうですかね?」
「うん、いいんじゃないの?怖い顔をするのも所長の仕事だからね」
 私は笑いながら、コンテナの部品棚から新品のダイナミックシールとフードグリス(食品に接触する機械に使用されるグリス)を取り出し、シールの組み付けに入った。

 私の顔は、笑ってはいるが、肉体的な疲労と、精神的なプレッシャーは増大していた。


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