W運輸機工との食券制フィリピンパブでの打ち上げから四日後、私はいつものように、R社K工場に出勤した。
「おはよーっす!」
事務所の一階、ビリヤード台が置いてある休憩所のドアを開けると、すでに小磯とハルが来ていた。
「おはよー」
「木田君、おはよう」
私はビリヤード台の前の折り畳み椅子に座ると、大きなあくびを一つした。
「いやぁ、昨日は呑んだねぇ」
小磯がタバコを吹かしながら、やや呑み疲れた顔で笑う。
「小磯さん、呑むのはイイんですけど、これは何ですかねぇ?」
私は作業着の袖口のマジックテープを剥がすと、左腕を小磯の前に突き出した。
「な、何?」
「良く見てくださいよ、この紫色の部分」
「?」
「ほらぁ、この細長い跡、昨夜は僕に何をしましたか!」
「…何かしたっけ?」
小磯はキョトンとしている。
テレビの前のテーブルに足を上げていたハルが、私の腕を覗きに来る。
「うひょひょひょ、凄いね木田さん、どうしちゃったの?」
「ハル、お前がやったんじゃ無いのか?」
小磯はハルのせいにしようとする。
昨夜、私と小磯とハル、F社の大澤と三浦、東正産業の新谷と鬼頭化工の真鍋は、N市内の居酒屋で呑んでいた。
今回の工事に関しては、彼らに随分と無理を聞き入れてもらったので、そのお礼を兼ねての打ち上げ会で、私の行きつけの居酒屋でしっかりと飲み食いをして、二軒目はまたしてもフィリピンパブに行く予定だった。
しかし、新谷と鍋屋は、年齢的にも深夜までフィリピンパブで呑むのは気乗りしない様だったので、フィリピンパブには、残りのメンバーだけで行く事になったのだった。
「でも木田さん、どうしてあんなことになっちゃったの?」
「どうしてって、どうしてだっけ?」
ハルの質問に、私は首を捻った。
「ぐふふふふ、それは多分、木田君が店の女の子に、『服を脱げぇ!』とか叫んでいたからだよ」
小磯が笑いながら、昨夜の事を思い出す。
「あー、そう言えば、レイ子にそんなことを叫んでた気がするなぁ…」
私の行きつけのフィリピンパブは、その夜、暖房がガンガンに効いていた。店内に入った我々の血管は、地方のガラガラの高速道路よろしく、赤血球とアルコールを体内の隅々にまで、凄いスピードで走らせていた。
「んー、理由は思い出せないけど、確かにレイ子に叫んでたよなぁ」
徐々に私の怪しい記憶が組み立てられ始める。
「でもさ、それがどういう経緯で、俺が服を脱ぐ事になったんだっけ?」
「がはははは!」
「うひょひょひょひょ!」
小磯とハルが大笑いをする。
「それはねぇ…」
ハルが何かを思い出したらしい。
「小磯さんが、『木田君を脱がしちゃおうぜ!』って、俺に言ったからだと思うよぉ」
ハルがあっさりと白状した。
「あ、お前、そんなにすぐにバラすなよ!」
小磯がびっくりとした顔で、私から視線を逸らす。
「でもさぁ、あの時、気が付いたら店内の絨毯の上で、二人だけじゃなくて、大澤さんとか、三浦さんにも襲われていた気がするんだけど…」
「うひょひょひょ、あとから合流したF社の人も居たよぉ」
「えーと、米村さんだよね、ちょっと頭が薄い人」
「そうそう、その人も木田さんを襲ってたよ」
ハルが得意気に解説する。
「がはははは!って事は、木田君は全部で五人の男に襲われたんだ。そりゃあ抵抗出来ないよね」
小磯は人事の様に言う。
「小磯さん、あのねぇ、その五人の中でも俺の左腕を押さえていた人が、一番力が入っていたんですけど…」
「がはははは、ええ?それって俺?」
「そうですよ!五人がかりで俺の衣服を剥ぎ取った時に、小磯さんが俺の左腕を握ってたの!この四本の細長い跡は、小磯さんの指の跡!」
「まーたぁ、ちょっと見せてごらん」
小磯はそういうと、私の腕に残る紫色の跡に、自分の手を当てて見た。
「ほらぁ、ピッタリでしょ!これは小磯さんが右手で俺の腕を握った跡なの!」
「うひょひょひょひょ!そうだよぉ。だって俺は木田さんの右腕を押さえてたからね!小磯さんは左腕だったよね」
ハルの素直な言葉に、小磯は苦笑いをすると、私に謝罪の言葉を述べた。
「がはははは、悪い悪い、どうやらアルコールが入っていたから、力の加減が出来なかったみたいだよ。申し訳ない」
「な、なんか1ミリも謝罪の言葉に聞こえないんですけど…。でも、小磯さん、どういう力で握ると、腕に指の跡が残るんですか?普通はあり得ませんよ。これ、女の人だったら、腕の骨にひびが入りますよ」
「がはははは!がっははははは!」
小磯はやはり反省していないので、爆笑している。
「それにあの店、俺の行きつけの店なんですけど…」
「がはははは!がははははは!」
「うひょひょひょひょ、そーだよねぇ、なんたって木田さん、完全な全裸だったもんね。しかも自分で灰皿で股間を隠して、店内を走り回ってたよ」
「…うん、それは憶えてるなぁ。はぁー、しばらく店に行けないなぁ…」
昼過ぎ、レイ子から携帯電話に着信が入った。
「モシモーシ、レイコダよぉー、んっんー、ダイジョブデスカ?」
「何が?」
「昨日ワ、アナタお店でハダカダッタよぉー、風邪引イテ無いデスカ?」
「引いてないよ、もう裸の話はイイの!」
「がはははは!がっははははは!」
「うひょひょひょひょ!」
私の後ろで、小磯とハルが、声を殺さずに爆笑している。
「んっんー、今夜ワお店ニ来マスかぁ?」
「…行きません」
私は、しばらくその店に行くのを止めようと思った。
「おはよーっす!」
事務所の一階、ビリヤード台が置いてある休憩所のドアを開けると、すでに小磯とハルが来ていた。
「おはよー」
「木田君、おはよう」
私はビリヤード台の前の折り畳み椅子に座ると、大きなあくびを一つした。
「いやぁ、昨日は呑んだねぇ」
小磯がタバコを吹かしながら、やや呑み疲れた顔で笑う。
「小磯さん、呑むのはイイんですけど、これは何ですかねぇ?」
私は作業着の袖口のマジックテープを剥がすと、左腕を小磯の前に突き出した。
「な、何?」
「良く見てくださいよ、この紫色の部分」
「?」
「ほらぁ、この細長い跡、昨夜は僕に何をしましたか!」
「…何かしたっけ?」
小磯はキョトンとしている。
テレビの前のテーブルに足を上げていたハルが、私の腕を覗きに来る。
「うひょひょひょ、凄いね木田さん、どうしちゃったの?」
「ハル、お前がやったんじゃ無いのか?」
小磯はハルのせいにしようとする。
昨夜、私と小磯とハル、F社の大澤と三浦、東正産業の新谷と鬼頭化工の真鍋は、N市内の居酒屋で呑んでいた。
今回の工事に関しては、彼らに随分と無理を聞き入れてもらったので、そのお礼を兼ねての打ち上げ会で、私の行きつけの居酒屋でしっかりと飲み食いをして、二軒目はまたしてもフィリピンパブに行く予定だった。
しかし、新谷と鍋屋は、年齢的にも深夜までフィリピンパブで呑むのは気乗りしない様だったので、フィリピンパブには、残りのメンバーだけで行く事になったのだった。
「でも木田さん、どうしてあんなことになっちゃったの?」
「どうしてって、どうしてだっけ?」
ハルの質問に、私は首を捻った。
「ぐふふふふ、それは多分、木田君が店の女の子に、『服を脱げぇ!』とか叫んでいたからだよ」
小磯が笑いながら、昨夜の事を思い出す。
「あー、そう言えば、レイ子にそんなことを叫んでた気がするなぁ…」
私の行きつけのフィリピンパブは、その夜、暖房がガンガンに効いていた。店内に入った我々の血管は、地方のガラガラの高速道路よろしく、赤血球とアルコールを体内の隅々にまで、凄いスピードで走らせていた。
「んー、理由は思い出せないけど、確かにレイ子に叫んでたよなぁ」
徐々に私の怪しい記憶が組み立てられ始める。
「でもさ、それがどういう経緯で、俺が服を脱ぐ事になったんだっけ?」
「がはははは!」
「うひょひょひょひょ!」
小磯とハルが大笑いをする。
「それはねぇ…」
ハルが何かを思い出したらしい。
「小磯さんが、『木田君を脱がしちゃおうぜ!』って、俺に言ったからだと思うよぉ」
ハルがあっさりと白状した。
「あ、お前、そんなにすぐにバラすなよ!」
小磯がびっくりとした顔で、私から視線を逸らす。
「でもさぁ、あの時、気が付いたら店内の絨毯の上で、二人だけじゃなくて、大澤さんとか、三浦さんにも襲われていた気がするんだけど…」
「うひょひょひょ、あとから合流したF社の人も居たよぉ」
「えーと、米村さんだよね、ちょっと頭が薄い人」
「そうそう、その人も木田さんを襲ってたよ」
ハルが得意気に解説する。
「がはははは!って事は、木田君は全部で五人の男に襲われたんだ。そりゃあ抵抗出来ないよね」
小磯は人事の様に言う。
「小磯さん、あのねぇ、その五人の中でも俺の左腕を押さえていた人が、一番力が入っていたんですけど…」
「がはははは、ええ?それって俺?」
「そうですよ!五人がかりで俺の衣服を剥ぎ取った時に、小磯さんが俺の左腕を握ってたの!この四本の細長い跡は、小磯さんの指の跡!」
「まーたぁ、ちょっと見せてごらん」
小磯はそういうと、私の腕に残る紫色の跡に、自分の手を当てて見た。
「ほらぁ、ピッタリでしょ!これは小磯さんが右手で俺の腕を握った跡なの!」
「うひょひょひょひょ!そうだよぉ。だって俺は木田さんの右腕を押さえてたからね!小磯さんは左腕だったよね」
ハルの素直な言葉に、小磯は苦笑いをすると、私に謝罪の言葉を述べた。
「がはははは、悪い悪い、どうやらアルコールが入っていたから、力の加減が出来なかったみたいだよ。申し訳ない」
「な、なんか1ミリも謝罪の言葉に聞こえないんですけど…。でも、小磯さん、どういう力で握ると、腕に指の跡が残るんですか?普通はあり得ませんよ。これ、女の人だったら、腕の骨にひびが入りますよ」
「がはははは!がっははははは!」
小磯はやはり反省していないので、爆笑している。
「それにあの店、俺の行きつけの店なんですけど…」
「がはははは!がははははは!」
「うひょひょひょひょ、そーだよねぇ、なんたって木田さん、完全な全裸だったもんね。しかも自分で灰皿で股間を隠して、店内を走り回ってたよ」
「…うん、それは憶えてるなぁ。はぁー、しばらく店に行けないなぁ…」
昼過ぎ、レイ子から携帯電話に着信が入った。
「モシモーシ、レイコダよぉー、んっんー、ダイジョブデスカ?」
「何が?」
「昨日ワ、アナタお店でハダカダッタよぉー、風邪引イテ無いデスカ?」
「引いてないよ、もう裸の話はイイの!」
「がはははは!がっははははは!」
「うひょひょひょひょ!」
私の後ろで、小磯とハルが、声を殺さずに爆笑している。
「んっんー、今夜ワお店ニ来マスかぁ?」
「…行きません」
私は、しばらくその店に行くのを止めようと思った。
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