一般的な塗料やライニングと比較すると、遥かに剥離スピードが遅いコンクリートだったが、それでも『塵も積もれば山となる』で、それなりに面積がまとまって来ていた。
「そろそろ一度検査を受けて、作業完了エリアとして確定させません?」
私はSSプラント工事の川久保に提案をした。
「そうなんだよね、そろそろ左官の方も始めないと、間に合わなくなるからね」
「じゃあ、所長に提案しましょうよ」
すぐに二人で、所長の葛西に提案する。
「そうだな、うん。でも、ちょっと待って、役所の検査の前に、僕が軽くチェックをするからね」
「はぁ…」
今更何を?とも思ったが、ここは葛西の好きなようにやってもらい、サクサクと仕事を進めるのが得策だと、私は思った。
その日の午後、葛西が現場に入り、私と川久保はフェノールフタレイン溶液(コンクリートの健全性をチェックする溶液)のスプレーを持ち、彼の後に従った。
「ちょっとこの辺りを…」
葛西に言われた場所にタガネ(非常に硬い楔形の金属棒)の先端を押し当て、ハンマーで叩き込む。
「ゴツッ!」
鈍い音を立てて、ハツラられたコンクリートの表面から、骨材(砕石)が剥がれ落ちる。
「シュッ!シュっ!」
川久保が、フェノールフタレイン溶液を、骨材が剥がれ落ちた場所に噴き掛ける。
「・・・」
「・・・」
「・・・出ませんねぇ」
アルカリ性を保っている健全なコンクリートなら、すぐに赤紫色に変色する筈なのだが、一向に変化が起きない。
「じゃあ、こっちは?」
再度、別の骨材を、タガネとハンマーで剥がして落とす。
「シュッ!シュっ!」
フェノールフタレイン溶液をスプレーすると、今度は骨材があった場所が、鮮やかな赤紫色に変化した。
「出ましたね!」
「ここは出るんやな」
葛西は自分なりに納得し、次々とチェックを進めて行く。
「よしっ、じゃ、撃ち直す部分は、スプレーで印を付けるからな!」
三十分後、葛西はそう言うと、私が用意した赤のスプレー缶を手にして、おもむろにコンクリートに線を引き始めた。
「シュぅー、シュー、シュぅううううー!」
私と川久保は、じっと葛西を観察する。
「シュぅうううう、シュぅうううう、シュわぁあああああ!」
葛西は真剣にコンクリートと向かい合っている。
「シュぅうううう、シュパぁあああああ、シュパぁあああああああ!!」
だんだん私と川久保の顔が引き攣る。
「シュぅうううううううう、シュぅううううううう、シュパッ、シュシャぁああああああああああああ!」
ついに葛西は満足そうな顔で、赤のスプレー缶を私に返却した。
「あの…」
「この赤線の部分は、まだハツリが浅いから、撃ち直しておいてね」
「…これ、全部ですか?」
「そうだよぉ、こんなんじゃまだまだ検査に通らないだろう!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私と川久保は絶句した。
「木田さん、もうちょっとしっかりとやって貰わないと、仕事が終わらないよ!?」
葛西はそう言い放つと、現場から消えて行った。
「川久保さん、どう見てもハツった面積の八割が撃ち直しなんですけど…」
「う、うん…」
川久保は呆然としている。
「俺、無理やり検査を通そうとする所長はたくさん見て来ましたけど、自分で検査前に八割も駄目出ししちゃう人って、初めて会いましたよ」
「…これ、全部撃ち直すんだよね?」
「ええ、所長のご要望ですからね」
「左官はまだ入れないよね?」
「入れる訳ないじゃないですか…」
「これ、工期は間に合うのかな?」
「…知りませんよ、所長に聞いて下さいよ」
「・・・」
「・・・」
冷え込んできた現場の中で、私と川久保はじっとコンクリート面を見つめていたのだった。
「そろそろ一度検査を受けて、作業完了エリアとして確定させません?」
私はSSプラント工事の川久保に提案をした。
「そうなんだよね、そろそろ左官の方も始めないと、間に合わなくなるからね」
「じゃあ、所長に提案しましょうよ」
すぐに二人で、所長の葛西に提案する。
「そうだな、うん。でも、ちょっと待って、役所の検査の前に、僕が軽くチェックをするからね」
「はぁ…」
今更何を?とも思ったが、ここは葛西の好きなようにやってもらい、サクサクと仕事を進めるのが得策だと、私は思った。
その日の午後、葛西が現場に入り、私と川久保はフェノールフタレイン溶液(コンクリートの健全性をチェックする溶液)のスプレーを持ち、彼の後に従った。
「ちょっとこの辺りを…」
葛西に言われた場所にタガネ(非常に硬い楔形の金属棒)の先端を押し当て、ハンマーで叩き込む。
「ゴツッ!」
鈍い音を立てて、ハツラられたコンクリートの表面から、骨材(砕石)が剥がれ落ちる。
「シュッ!シュっ!」
川久保が、フェノールフタレイン溶液を、骨材が剥がれ落ちた場所に噴き掛ける。
「・・・」
「・・・」
「・・・出ませんねぇ」
アルカリ性を保っている健全なコンクリートなら、すぐに赤紫色に変色する筈なのだが、一向に変化が起きない。
「じゃあ、こっちは?」
再度、別の骨材を、タガネとハンマーで剥がして落とす。
「シュッ!シュっ!」
フェノールフタレイン溶液をスプレーすると、今度は骨材があった場所が、鮮やかな赤紫色に変化した。
「出ましたね!」
「ここは出るんやな」
葛西は自分なりに納得し、次々とチェックを進めて行く。
「よしっ、じゃ、撃ち直す部分は、スプレーで印を付けるからな!」
三十分後、葛西はそう言うと、私が用意した赤のスプレー缶を手にして、おもむろにコンクリートに線を引き始めた。
「シュぅー、シュー、シュぅううううー!」
私と川久保は、じっと葛西を観察する。
「シュぅうううう、シュぅうううう、シュわぁあああああ!」
葛西は真剣にコンクリートと向かい合っている。
「シュぅうううう、シュパぁあああああ、シュパぁあああああああ!!」
だんだん私と川久保の顔が引き攣る。
「シュぅうううううううう、シュぅううううううう、シュパッ、シュシャぁああああああああああああ!」
ついに葛西は満足そうな顔で、赤のスプレー缶を私に返却した。
「あの…」
「この赤線の部分は、まだハツリが浅いから、撃ち直しておいてね」
「…これ、全部ですか?」
「そうだよぉ、こんなんじゃまだまだ検査に通らないだろう!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私と川久保は絶句した。
「木田さん、もうちょっとしっかりとやって貰わないと、仕事が終わらないよ!?」
葛西はそう言い放つと、現場から消えて行った。
「川久保さん、どう見てもハツった面積の八割が撃ち直しなんですけど…」
「う、うん…」
川久保は呆然としている。
「俺、無理やり検査を通そうとする所長はたくさん見て来ましたけど、自分で検査前に八割も駄目出ししちゃう人って、初めて会いましたよ」
「…これ、全部撃ち直すんだよね?」
「ええ、所長のご要望ですからね」
「左官はまだ入れないよね?」
「入れる訳ないじゃないですか…」
「これ、工期は間に合うのかな?」
「…知りませんよ、所長に聞いて下さいよ」
「・・・」
「・・・」
冷え込んできた現場の中で、私と川久保はじっとコンクリート面を見つめていたのだった。
この所長、マジで泣かせてくれますよぉ!(爆)