どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ208

2008-06-11 04:37:00 | 剥離人
 小磯とハルが作業を始めると、私は佐野の10トントラックに乗り込んだ。

 助手席からF社の大澤に電話を入れる。
「大澤さん、今から佐野さんとそっちに行くからね」
「了解です」
 高速道路を使えば、F社のテクニカルセンターまでは五十分ほどだ。
「久しぶりだね、こっちのサティアンに行くのは」
 佐野はF社の東海地区テクニカルセンターを『Nサティアン』、関東地区テクニカルセンターを『Yサティアン』と呼んでいた。
「佐野さん、その某宗教団体の施設名で呼んでいると、周りの人たちから大きな誤解を受けませんか?」
 佐野は、10トン車の角度が浅いハンドルを握りながら笑った。
「そうなんだよな、F社の人達からは『頼むから止めてくれ』って言われるんだけど、ウチの会社はみんなでそう呼んでいるから、すっかり馴染んじゃってね」
「大体、どうしてそういう呼び方になったんですか?」
 私は佐野に、その呼び名の由来を聞いた。
「いや、関東のテクセンの建物の外観が、某宗教団体の建物に似てたからさ。なんとなく誰かが呼び出したんだよ」
「いや、似てたって…。そもそも某宗教団体のサティアン自体が、単なる工場ですからね、そりゃあ工場なら大概の建物が『似てる』でしょう」
 佐野はカラカラと笑い、言い訳をした。
「でも、もう関東のテクセンじゃすっかり馴染んじゃって、『この荷物もサティアンで良いんだよね!』とか言っても、普通に『ハイ、お願いします』とか返事をするんだよな」
「うはははは、それはもう完全に諦めちゃってるんですね、F社の人は」

 馬鹿な話をしている内に、私と佐野はF社に到着した。
「どーも!」
 外の喫煙所でタバコを吸っていた技術担当の三浦と、久しぶりに顔を合わせる。
 私と三浦とは、N県S市のB軍基地内で、恐ろしいほど険悪な関係になっていたのだが、いつの間にか関係は改善され、今では笑って話をする間柄になっていた。
「何、今日は珍しい組合せで来るんだね」
 私と佐野の取り合わせのことらしい。
「今日は御宅のサクションホースを全部強奪しに来ましたぁ!」
 私はそう言うと、駐車場に置かれているコンテナの上で、とぐろを巻いているオレンジ色のサクションホースを指差した。
「ああ、あれ?いいよぉ、持って行ってよ。ずーっと邪魔だったんだよ、あれ」
 三浦は嬉しそうな顔で言った。
「いや、ウチも助かりますよ。だって単純に計算しても、220メートル分のサクションホースが必要ですからね。今ウチにあるのは、全部で120メートル分ですからね。中古でも激安で売って貰えれば大助かりですよ」
 三浦は目を見開いた。
「え、ウチ、お金取るんだ?」
「そりゃ取りますよ、三浦さん、いくらなんでも無料って訳には…」
 私と三浦のやり取りを聞いていた大澤が、いつの間にか話に割って入って来た。
「あ、大澤さん、ホース貰ってくね。請求書は送っておいてね」
「何、いくらで売るの?」
 三浦はウチへの販売価格が気になる様だった。
「全部で十万円ですよ」
 大澤が答えた。
「ふーん、サクションホースのφ125っていくらだっけ?」
「新品だと20メートル一本で約十万円ですよ」
 私が答えた。
「あれ?そんなにしたっけ?」
「ええ、結構高いんですよ」
「ウチのサクションって何本あるの?」
「φ125が八本、φ100が一本、φ75が一本ですよ」
 大澤が答えた。
「それにホースには、すでにレバーロックが付いていますからね。レバーロックのオスメスだけでも、二万円はしますよ。だから、全部新品で買うと、約120万円ですね。これで十万円なら超お買い得ですかね?」
「うわっ、大澤、安すぎるよ」
 三浦は大袈裟に、大澤の肩を揺すった。
「あははは、さっきまで『持ってけ!』って雰囲気だったじゃないですか」
「いや、木田さん、あと十万円頂戴、で、みんなで呑みに行こうよ」
「それはナイスアイデアですね!」
 私と三浦は意気投合した。
「会計処理は大澤さんが担当かい?」
 佐野も悪乗りする。
「行きたい気持ちは私も一緒ですけど、勘弁してくださいよ。そうじゃなくても最近は経費にうるさいんですから」
 大澤は苦笑いをした。
「その代わりって訳じゃ無いですけど、この前木田さんに頼まれていた件、オッケーですから」

 この日、大澤はサクションホースの激安販売以外にも、中古の超高圧ホース五本を、無償で私に貸し出してくれたのだった。


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4 コメント

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サティアンて (カミヤミ)
2008-06-12 10:41:08
木田さんが、その昔、修行してた(と疑われた)場所では?(((^^;)
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してました(笑) (どんぴ)
2008-06-13 01:51:28
 それはどこの修行場のことでしょうか?性風俗サティアンのことですか?
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ちなみに (カミヤミ)
2008-06-14 10:39:25
我々が、双葉黒部屋を運営してた春合宿の場所は、富士宮の近くでしたね。某宗教団体の教祖が逮捕された日の高速道路の対向車線が、全部警察車両だった記憶があります。ちなみに、その時、わたくし、訳あって車の中で号泣してました。
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おー、忘れてた (どんぴ)
2008-06-14 10:43:30
 カミヤミさんの記憶力、凄いですね。さすがダン鬼!
 あの頃の双葉黒部屋は、本当に若い男の『負のエネルギー』が充満していた気がしますね(笑)
 ところで、カミヤミさんは、どうして車の中で号泣したんでしたっけ?
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