どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ414

2009-04-01 22:53:30 | 剥離人
 フライトデッキから伸びるφ75のサクションホースは、ドックの岸壁に設置されている水処理装置に向かうホースと繋がっていた。

「おーい、縁切ったかぁ!」
 幸四郎が岸壁の職人に声を掛ける。
「切りましたぁ、ロープも繋ぎましたよぉ!」
 岸壁のホースがレバーロック(ジョイント金具)で接続されている部分で分断され、介添ロープ(吊荷が風で振り回されないように支持するロープ)を結び付けられる。
「おーし、みんなで引くべぇ!」
 幸四郎が声を掛け、二十人近い職人が50m近いサクションホースを引っ張り始める。
「そーれぇ、そーれぇ、そーれぇ!」
 フライトデッキ(飛行甲板)から空中にぶら下がっているサクションホースの重量は軽く100kgを超えるが、それでも職人二十人で引っ張るとその重いホースがズリズリとデッキ上に引き上がって来る。
「そーれぇ、そーれぇ、そーれぇ、そーれぇ!」
 どんどんホースが引き上がって行く。私とハル、そして須藤と堂本も、S社の職人と一緒になってホースを引っ張る。
「そーれぇ、そーれぇ、そーれぇ、そーれぇええ、そーれぇええええ!」
 甲板の上の職人たちが一気にホースを引き上げに掛かる。
「そーれっ!そーれっ!そうりゃぁあああ!」
「スジャぁああああああ!」
 サクションホースが甲板の上を暴走し出した。
「おーい、ストップ、ストップ、ストップぅ!」
 キャットウォーク(乗組員用の狭い作業通路)の中に居た幸四郎が叫ぶ。
「うはははは!」
「どははは!」
「あはははは!」
「がはははは!」
 職人たちは笑い出し、幸四郎は苦笑いをしている。
「お前らわざとやってんべぇ」
 幸四郎の言葉に、職人たちはケラケラと笑い返す。
「だって引けって言ったじゃないですか」
「いいから早く船尾の方に移動すんべぇ!」
 全員で『長崎龍踊り』の様にサクションホースを移動させ、船尾側の岸壁にホースを降ろし、無事に作業を終了させる。
「よーし、これで終わりだ」
 幸四郎はホッとした表情を浮かべた。

「ハルさん、『人力リキリキ』って結構早いですねぇ」
 私は汚れた両手を作業着でゴシゴシとこすりながらハルに言った。
「そりゃぁ早いさ!S社は何でも人力でやっちゃうからね」
 ハルは私に、自分の両手をニギニギして見せる。
「うはははは、なるほどね!でもあのデッカイのは、さすがにフォークリフトですよね」
「ああ、あれ?」
 我々の目線の先には、船の部品である巨大な鋼材が転がっている。
「あれはフォークでしょ」
 ハルが当然の様に言う。
「あれも『人力リキリキ!』って言い出したりしてね」
「うひゃひゃひゃひゃ、無理でしょう、どう見ても…」
「まあ、2トンはありますもんね」
「だよねぇ」

 だがこの鋼材を移動させなければ、我々は仕事に取り掛かることが出来ないのだ。


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