どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ224

2008-06-28 02:15:28 | 剥離人
 水管橋の剥離テストが終わった翌日、私は佐野にメールを送っていた。

「おー、キーちゃん、面白そうなことをやってるね」
「あははは、笑えない面白さですけどね」
 佐野はメールを見ると、すぐに電話を掛けて来た。
「ところで佐野さん、この剥離面を見てどう思います?」
 私はデジカメで撮影した画像を、佐野へのメールに添付していた。
「いやぁ、四十年もの間、一度のメンテナンスも行わずに、塗膜が残っている事自体に驚いたけどね」 
「結構、錆こぶ(素地と塗膜の間で錆が発生し、塗膜が膨れ上がった状態)や塗膜の剥がれが起きてますけどね」
「剥がれや剥落は、管内上部がほとんどだよね?」
「ええ、天井部に多いですね」
「やっぱり塗膜がずっと水中にあると、あんまり酸素に触れないから、意外と持つんだろうなぁ」
 佐野はやはり、塗膜の存在に強い関心を示した。
 屋外の塗装を四十年放置すれば、塗膜どころか、素地事態がボロボロになり、無くなってしまう可能性さえある。

「で、佐野さん、気になるのは、管の素地の表面なんですけど…」
「ああ、この黒い部分と白い部分がある画像?」
「ええ、剥離した部分はみんなそうなってるんですよ」
「白い部分は?」
「若干凹んでます」
「孔食の一種だろうね。まあかなり面積が大きいけどね」
「正月明けに、塗料の密着強度をテストするんですよ。さすがにアンカーパターン(塗装用に鉄板表面を梨地に荒らした状態)が無いんで心配なんですけどね」
「いやぁ、孔食した鉄板表面って、結構ボコボコだからね。意外と塗料が良く喰い込んで、しっかりと密着強度が出ると思うよ」
「そうですか?密着強度さえしっかりと出れば、多分仕事になると思いますよ」
「そっか、まあ詳しい話はクリスマスイブの日に聞かせてよ」
「あはは、知らない人が聞いたら誤解しますよ、僕と佐野さんの関係を」
 私と佐野は、S高速道路が主催するデモ工事を見学しに行く事になっていた。
「しかし、なんでクリスマスイブなんだ?」
 私は佐野に答えた。
「きっと、彼女の居ない工事関係者へのやさしい配慮だと思いますよ」
 佐野は爆笑して、私との待ち合わせ時間を決めると、電話を切った。
  
 事務所の外のトイレに行くために階段を下りると、小磯とハルが休憩所で休んでいた。
「木田君、昨日の片付けは終わったからね」
 小磯がミニビリヤード台の上に灰皿を置き、タバコを噴かしている。
「ありがとうございます、これで今年は終わりですね。ハルさんは、K県に帰るの?」
「うん、そのつもりだよ」
「小磯さんは?」
 小磯はニヤリと笑った。
「たぶん、女の家かな」
「小磯さん、まだあの女と続いてたの?」
「がはははは、最近はマンネリだけどね」
「凄いね小磯さん。ところで、今でも情熱的なアレをしてるの?」
 私は小磯の彼女の、
「彼は凄いよ、教えてもらいなよ!」
 という言葉をしっかりと憶えていた。
「いやぁ…、実は最近飽きて来てさ…。求められると辛いんだよね」
「ぶはははは!」
 私とハルは爆笑し、小磯は苦笑いをした。
「いやぁ、小磯さん、良いクリスマスを!」
「がはははは、ありがと…」

 クリスマスイブ、私は予定通り佐野と一緒に、寒風吹き荒ぶ高速道路の高架の下で、『炭酸ガス(ドライアイス)ブラスト』等を見学した。 


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