『
物語ポーランドの歴史』でその存在を知ってamazonで購入しましたが、先日、書店で平積みになっているのを目撃しましたから、中高生の夏休み読書感想文の対象作品になっているのかもしれません。何と言っても「
高校生直木賞」受賞作ですから。
白系ロシア人の父と日本人の母を持つ棚倉慎がワルシャワの大使館に赴任するところから始まるこの物語、のっけからナチスの対ユダヤ人政策と日本が立たされている外交上の微妙なポジションが語られます。さらには
シベリアのポーランド孤児救出に極東青年会との結びつきなど、『物語ポーランドの歴史』のおさらいをしながら主人公とともにワルシャワの情景を楽しみつつ、日波関係の歴史に思いを馳せることになります。
しかし運命の日、1939年9月1日を避けることはできません。
主人公をハーフにすることでことあるごとに「日本人とは何か」というアイデンティティ上の問題を提起し、それに何度も国家を消滅させられたポーランド人の思いを交錯させることで、読む者に多くのことを考えさせます。例えば、ポーランド人は愛国心を持ってそのたびに立ち上がってきたわけですが、果たして日本が同じ目に遭った時、日本人は愛国心を持って抵抗することができるだろうか? 主人公は次のように考えます。
「国を愛する心は、上から植えつけられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない」
サミュエル・ジョンソンが言う通り「愛国主義は不埒なやつらの最後の隠れ家」であり、大戦中も、そしい現在も怪しい愛国主義が上から横から押しつけられています。
「今、僕の国では、いまだかつてないほどに、武士道や大和魂という言葉が使われているよ。でもね。覚えておくといい。濫用される時は必ず、言葉は正しい使い方をされていない。みな、意味をわかっていないんだ。だから簡単に間違ってしまう」
借り物の思想だから最後まで責任を取れない、というわけです。
第二次世界大戦では、ドイツと同じ枢軸国の日本はポーランドと戦争状態に入ります。ワルシャワの大使館員が東欧へ避難する中、主人公はいかなる形で正義を、あるいは「国を愛する心」を貫こうとするのか。自分の思想に責任を取ろうとするのか。高校生直木賞に本作が選ばれた理由「『桜の国』は読んでもらえるかどうかさえ自信がない。でも、自分が薦めて、読んでもらえて、その誰かの胸に残ってくれた時、本当に嬉しいのは『桜の国』」に合点がいく作品です。
参照先:
歯ごたえのある小説『また、桜の国で』が“高校生直木賞”に決定するまで(文春オンライン: 2017年5月22日付)
今、知りましたが本作、
オーディオドラマ化されたのですね。配信も始まったばかり。書店で平積みされていたのはこのせいか。
『
また、桜の国で』
個人的満足度:
★★★★