さめのくち

日常の記録。

『熱沙奇巌城―魔大陸の鷹シリーズ』

2017年08月30日 | 2017読書
ウンゲルン・フォン・シュテルンベルクが登場すると聞いて購入。ウンゲルンが出てくるのは冒頭だけ、小説の登場人物とは絡みませんでした。

仏教に改宗したロシアのドイツ系貴族で、内戦では白軍に参加。しかし1921年になると赤軍の優位は確実となり、ウンゲルンは東へ逃れます。当時、外蒙古は中華民国(北京政府)軍に支配されていましたが、自らはチンギス・ハーンの生まれ変わりだと信じるウンゲルンはこれを解放するため、5倍の数の敵に戦闘を挑みます──それで勝ってしまうんだから素晴らしい。

もっとも、ウンゲルンは相当に問題の多かった人のようで、捕虜は虐殺するは、気に入らない味方も容赦しないはで、『熱沙奇巌城』でもその悪逆非道ぶりが描かれています。そこはフィクションにあらず。

ウンゲルンはモンゴルを起点にアジアの力を結集してロシアに対して「十字軍」を行うつもりでしたが、



味方に裏切られ、赤軍に引き渡されたそうです。詳しくは下記のサイトで紹介されています。

参照先: ロシアの男爵の外モンゴル征服記(ロシアNOW: 2017年8月22日付)

小説はシリーズ第2弾。大正時代を舞台にした「冒険活劇」なのですが、物語よりも時代背景の描写に気を取られてしまいました。そのくらい設定がしっかりしており、また楽しめる内容になっております。

『熱沙奇巌城―魔大陸の鷹シリーズ』(赤城毅/祥伝社)
個人的満足度: ★★

驚きの鮮度98%!! 海外でも高評の『このせか』

2017年08月29日 | 2017読書

制作時のクラウドファンディングには出遅れてしまいましたが、監督を海外に送り出すプロジェクトには参加できました。

参照先: 映画『この世界の片隅に』の海外上映を盛り上げるため、片渕監督を現地に送り出したい(Makuake)

正直、このプロジェクトは微妙な内容なのですが、制作プロジェクトに投資したつもりで2人分10,800円コースを選択しました。予定では今年6月に報告会が開催されることになっていましたが、つい先ほどメールが届いて大阪では11月26日(同じ日夕方から名古屋でも開催)なのだそうです。前日は広島。強行軍です。

「アメリカでの評価はいまいちだったらしいよ」と家内に聞かされまして、確かにそういう声を集めた恣意的なまとめサイトもありましたが、どうしてどうしてRotten Tomatoesでは鮮度98%とたいへんフレッシュ。レビュー・カウントは50とまだまだ少ないですが、そのうちの腐ったトマトのレビューを全文読んでも、決して腐しているわけではありません。

参照先: ‘Corner of the World’ a coming-of-age story set in WWII(San Fransisco Cronicle: 2017年8月10日付)

ミックさんのレビュー、本作が描いている時代の認識とずれがある気がしますが(映画のほとんどは1944年以降の話)、かなとこ雲のシーンで原爆によるきのこ雲を連想してどきりとしたり、玉音放送を受けてのすずさんの反応を外国人ゆえに受け止められなかったりと、鋭い指摘が散見されます。

それはさておき、レビューの抜粋を読んでいるとまた泣けてきて、そのうち出るのではないかと勝手に思い込んでいる完全版(りんさんのエピソードを追加したもの)を待たずして、円盤を購入してしまいそうです。


フィクションだけど日波関係の歴史も学べる|『また、桜の国で』

2017年08月28日 | 2017読書
物語ポーランドの歴史』でその存在を知ってamazonで購入しましたが、先日、書店で平積みになっているのを目撃しましたから、中高生の夏休み読書感想文の対象作品になっているのかもしれません。何と言っても「高校生直木賞」受賞作ですから。

白系ロシア人の父と日本人の母を持つ棚倉慎がワルシャワの大使館に赴任するところから始まるこの物語、のっけからナチスの対ユダヤ人政策と日本が立たされている外交上の微妙なポジションが語られます。さらにはシベリアのポーランド孤児救出に極東青年会との結びつきなど、『物語ポーランドの歴史』のおさらいをしながら主人公とともにワルシャワの情景を楽しみつつ、日波関係の歴史に思いを馳せることになります。

しかし運命の日、1939年9月1日を避けることはできません。

主人公をハーフにすることでことあるごとに「日本人とは何か」というアイデンティティ上の問題を提起し、それに何度も国家を消滅させられたポーランド人の思いを交錯させることで、読む者に多くのことを考えさせます。例えば、ポーランド人は愛国心を持ってそのたびに立ち上がってきたわけですが、果たして日本が同じ目に遭った時、日本人は愛国心を持って抵抗することができるだろうか? 主人公は次のように考えます。

「国を愛する心は、上から植えつけられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない」

サミュエル・ジョンソンが言う通り「愛国主義は不埒なやつらの最後の隠れ家」であり、大戦中も、そしい現在も怪しい愛国主義が上から横から押しつけられています。

「今、僕の国では、いまだかつてないほどに、武士道や大和魂という言葉が使われているよ。でもね。覚えておくといい。濫用される時は必ず、言葉は正しい使い方をされていない。みな、意味をわかっていないんだ。だから簡単に間違ってしまう」

借り物の思想だから最後まで責任を取れない、というわけです。

第二次世界大戦では、ドイツと同じ枢軸国の日本はポーランドと戦争状態に入ります。ワルシャワの大使館員が東欧へ避難する中、主人公はいかなる形で正義を、あるいは「国を愛する心」を貫こうとするのか。自分の思想に責任を取ろうとするのか。高校生直木賞に本作が選ばれた理由「『桜の国』は読んでもらえるかどうかさえ自信がない。でも、自分が薦めて、読んでもらえて、その誰かの胸に残ってくれた時、本当に嬉しいのは『桜の国』」に合点がいく作品です。

参照先: 歯ごたえのある小説『また、桜の国で』が“高校生直木賞”に決定するまで(文春オンライン: 2017年5月22日付)

今、知りましたが本作、オーディオドラマ化されたのですね。配信も始まったばかり。書店で平積みされていたのはこのせいか。

また、桜の国で
個人的満足度: ★★★★

母衣問題で話題の『関ヶ原』を観た

2017年08月28日 | 2017映画
母衣問題については以下を参照。問題のレビューは削除されていました。

参照先: シネマトゥウデイ評論 映画「関ケ原」の酷評評論が炎上(togetter: 2017年8月26日付)

母衣知らないでしらないこと書いちゃったのかなあと思っていましたが、劇中でちゃんと家康が母衣のことを話しているのだから、このレビュワー、ちゃんと観ずに批評している可能性があります。

映画にせよ読書にせよ、あるいは他の趣味にせよ、何かを楽しむためには相応の教養が求められます。自分の場合、洋楽の知識がなかったために『ベイビー・ドライバー』を十分に楽しむことができなかったように、関ヶ原に至るまでの大筋を知らなければ本作を楽しむのは難しいでしょう。

司馬遼太郎の原作は未読ですが、本作は関ヶ原が「天下分け目の決戦」ではなく、いろいろ面倒ごとを収めるためのイニシエーションであったとの描き方です。

(1)石田三成(岡田准一)は秀頼擁立の道筋をつけることができれば引退して初芽(有村架純)とよろしくやりたいだけだった。
(2)だから三成を単に殺すのは意味がない。合戦をして、西軍が家康(役所広司)の軍門に下る形を示さなければならない。
(3)三成も家康もポジション・トークを別にすれば目指すところは同じ(天下泰平)。それは合戦前と合戦後、二人が同じ地蔵を立て直すシーンで象徴されている。

考証で気になったのは母衣ではなく、勝鬨。歴史考証に関する本で、大将が「えいえい」と叫び、手下が「おう(応)」と続くとあって、大河ドラマ『功名が辻』の家康もそうしたのですが、本作では一人で「えいえいおう」と言っておりました。関ヶ原は西軍と東軍との決戦ではなく、三成と家康個人の通過儀礼であったから、家康に「おう」とまで言わせた演出だったのかもしれません。

三成の参謀役として、また戦場では一騎当千の活躍を見せる島左近(平岳大)ですが、壮絶な最期を迎えます。対馬に落ち延びた説は……ないか。いやでも最後に近くにいたのが朝鮮からやってきた砲兵だったから、あるいは……。



ちなみに関ヶ原ウォーランドの島左近像からは悪意しか感じられません。



関ヶ原
個人的満足度: ★★★

シークレット・サービスへの残業代未払い問題

2017年08月28日 | 日記
予算の立て方が甘かったんでしょうか。

参照先: US Secret Service Says 1,100 Employees Face Unpaid Overtime(VOA: 2017年8月21日付)

本件を最初に報じたのはUSA TODAYで、その取材に対してランドルフ・アレス長官は「シークレット・サービスのミッションは法で定められたものであって、勝手に割愛(curtail)することはできないのだそうです。警護すべき人数がオバマ時代の31人から42人に増えているので、単純計算でも30%増しの経費がかかる計算になります。

もっともシークレット・サービスの予算は10年前から増加傾向にあり、トランプ大統領の任期(tenure)に限ったことではないと言います。それにしても移動が頻繁なため、予想以上に経費がかかっているのだとか。

参照先: シークレットサービスが悲鳴…トランプ氏が旅行三昧で負担激増 給与未払い、退職続出(Sankei Biz: 2017年8月22日付)

Sankei Bizでは「給与未払い」となっていますが、原文は残業手当の未払いですね。退職続出なんて書いてましたっけ。

いずれにしても、トランプ大統領がもう少しホワイトハウスに腰を落ち着けて仕事をすれば経費を抑えられるはず……ですが、彼はホワイトハウスは「マジでごみ溜め(That White House is a real dump)」だと言い、「トランプ大統領が、政権の座にいた最初の194日間のうち58日間しかホワイトハウスで過ごしておらず、43日間はゴルフ場で過ごした」とか。シークレット・サービスのミッションは法律で決まっているのに、大統領が仕事をする場所は自由なのだから、そりゃあ経費も天井知らず。

参照先: PODCAST: The story behind our Trump golf story (and a certain explosive quote)(GOLF: 2017年8月2日付)
参照先: トランプ米大統領「ホワイトハウスは全くのゴミ溜め」(TRT: 2017年8月2日付)

しかし調べてみると3月の時点で追加予算を申請していたそうで、SSの予算は桁違いに増えることになりそうです。