この季節になると、毎年お供え物を送るところがあります。
大学時代にお世話になった、下宿の大家さん。
今日、品物を選んで発送してきました。
私は、自分でも閉所恐怖症の節があるんじゃないかと思うくらい狭い空間が苦手で、
大学生活を送るあたり、ワンルームだけは避けたいと思っていました。
しかしそうは望んでも、家賃の問題もありますから、
入学前に大学から提供された物件リストの中から、「下宿」というタイプを選んでは、
手当たり次第、電話をかけていました。
この「下宿」というのは、主に民家の別棟を借りるという形態で、
ひとつ屋根の下で、大家さんと行き来する訳ではありません。
台所も別ですし、トイレもお風呂も完全独立です。
この「下宿」は人気があったようで、入った学生は卒業まで出て行くことがないし、
卒業となれば、後輩に紹介して引き継がれていくという状態で、
電話をしても「 空きがありません 」「 もう、決まりました 」という答えばかり...。
そんな中、本当に不思議なご縁があって、
前年にご主人を亡くされて、「 女の子だったら貸そう 」というつもりでおられた、
私の第二の母とも言うべき、この大家さんに巡り合いました。
京間の8畳ふた間に縁側付きの大きな離れで、水道代、電気代、米、味噌付きにして、
当時のワンルーム家賃相場の7割ほどという、破格の好条件で迎えてもらいました。
年齢は聞いたことがありませんでしたが、60歳を少し過ぎたぐらいの方で、
にこやかで優しいおばさん、私のことを親戚の子のように気にかけてくれながらも、
決して干渉しない距離感で、柔らかくて大きな器で包んでくれるお母さんでした。
友達十数名で、庭でバーベキューをさせてもらったり、
季節ごとに手作りのお寿司のお裾分けをもらったり、
帰省する際にはわざわざお土産を持たせてもらったり、
中学生のお孫さんの家庭教師をさせてもらったこともありました。
そうしてお世話になって、4年目の夏。
大家さんの様子がおかしいな......とは気付いていました。
あまりお顔を見ないし、たまに会話をしてもどうも顔色が悪く、明らかに元気がない。
「 胃が悪くて病院に通っているのよ。夏バテかなぁ 」とは聞いていましたが、
大家さんはひとり暮らしでしたが、近くに住んでいる娘さん一家がいらっしゃったし、
まさか、それが悪い病気だなんて思ってもみなかったんです。
私は無事に卒業式を迎え、大家さんに喜んでもらおうと、
謝恩会の前に、卒業証書と主席の表彰を勇んで見せに走って、
「 まあ、頑張ったねぇ...すごいねぇ... 」と褒めてくださって、
「 手術はね、しなくていいっていわれたの。手術しなくてもお薬で治るって 」
と体のことを言っておられた、あの柔和なお顔......
実は、その4ヶ月後にはお亡くなりになって、本当にびっくりして、
それが、私の中にある最後のお顔なのですが、
あの方は、私の4年間を待つように見守ってくださって、
それを終えたと同時に旅立って行かれた......
なにか、古(いにしえ)からの繋がりがあったかのような、そんなご縁の方でした。
亡くなった翌年、大家さんのお宅に伺って、仏前で手を合わせることが出来ました。
下宿時からお顔は拝見していた、娘さんのご主人が丁寧にお相手をしてくださって、
涙が止まらなかったことを、今でも鮮明に思い出します。
毎年はお伺いできないので、せめてもの感謝の気持ちで、
...と言っても、こんなことでは返せない数々の御恩なのですが、
お盆が近付くと、お供え物を送らせてもらっています。
あ、またお盆が近付いてきたな......
そんな気持ちが染み渡る、真っ青に晴れた夏の日でした。
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私の大家さんも良い方で、もう48年も店子でいます。
48年というと、ちょっとやそっとでは得られないお付き合い。
谷間のゆりさんからは、いつも、そこはかとない迫力を感じております。(笑)