London Dance Diary

ロンドンのコンテンポラリーダンス情報を中心に日々の出来事を綴ってゆきます。

ずっとスープのことばかり考えて暮らしたい

2012-10-18 18:39:30 | 偏見いっぱい!読書感想文

最近読んだ本:吉田篤弘著 「それからはスープのことばかり考えて暮らした」中公文庫

久しぶりに小説を読んでみました。

映画で言ったら小津安二郎監督作品のような淡々と詩的に日常生活をさらりと表現しています。凝った表現はしてないものの作者独自の感性で紡がれた言葉は上質の白いコットンの手触りを思い出させます。登場人物はみんなユニークなのに何となくうちの近所にもこんな人がいるかもしれないと思わせるところがこの作品に親近感を覚える所以でしょうか?

登場人物の一人、安藤さんが経営するサンドイッチショップがフランス語のun, deux,troisに掛けて「トロワ」という名前であるというところなんかは、だじゃれなんだけどおしゃれ。(うちの旦那のさむい親父ギャグ的だじゃれと大違いだわ。)ヨーロッパカルチャー好きな女性読者の心をくすぐるんでしょうね。舞台となる路面電車が通る町や主人公が通う小さな映画館、映画館の暗闇にぼんやり浮かぶ緑色の帽子の老婦人。このご夫人が主人公の憧れの女優さんなのではというくだり。イメージがフェリーニの映画みたい私の頭の中に浮かんできました。

この作品を読んでいて思い出したのが、今敏監督のアニメ映画「千年女優」、それに在日英国人の映画監督John Williamの「いちばん美しい夏」。どちらも往年の映画女優が絡んだお話で、私の中のノスタルジックなものに心が動く感覚をうまくくすぐるんですよね。

池波正太郎の小説は食べ物の描写が秀逸で、池波作品を読む時の私の楽しみの一つでありますが、吉田篤弘氏の描くサンドイッチもなかなかです。読んでいてスープとサンドイッチがものすごいごちそうに思えて来ました。小さい頃におかあさんに作ってもらった甘めの卵焼きが入ったサンドイッチを今度思い出しながら作ってみようか…。

吉田氏の姉妹作「つむじ風食堂の夜」は映画にもなったそうで…。食堂が舞台なのかな。期待したいです。今度帰国したときの買いたいものリストに加えなきゃ。

この作品素直によかったです。今日は★★★★★。


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