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【近未来からの警告~積極的平和主義の先に】<5>

2015-08-11 13:01:11 | 
http://www.nishinippon.co.jp/feature/warning_from_future/article/174882
【近未来からの警告~積極的平和主義の先に】<5>
ドイツから 支援任務「戦死」隠す国
2015年06月11日 14時02分


 70年前、米英など連合国が日本に無条件降伏を求める共同宣言を出した、ドイツ北東部ポツダムの郊外に「追憶の森」がある。ドイツ連邦軍の国外殉職兵の追悼施設だ。週末には、遺族などが花を手向ける。

 5月、現地を訪れた。アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)の活動中などに命を落とした兵士の名を刻んだ7基の慰霊碑が並ぶ。「絶対に忘れない。ママより」。木々に掲げられた追悼文の一つに、そうあった。

 国会で審議中の安全保障法案が成立すれば、戦闘中の米軍への後方支援など、自衛隊の海外活動は大幅に広がる。近い将来、日本にも同様の施設が造られることにならないだろうか。

 アフガンで殉職したドイツ兵は計55人。ターニャ・メンツさん(46)も当時22歳の長男を亡くした。2011年2月、駐屯地に侵入した男の銃弾に倒れた。

 昨年11月にあった追憶の森の落成式典。遺族代表のあいさつでターニャさんは大統領らに訴えた。「慰霊碑が増えないよう願います。それでも派兵が避けられないなら、任務の実態を隠さずに教えてください。正直でなければ、国民の理解と支持は得られません」

「派兵の代償」報復テロ 高まる危険

 アフガニスタンの民主化支援と自国の安全保障‐。それが、ドイツが2002~14年、中東に最大5千人(特殊部隊除く)を派兵した理由だ。あくまで治安維持と人道復興支援が任務だった。

 だが、03年6月、現地で活動中の部隊が自爆攻撃を受け、兵士4人が死亡し、29人が負傷。以後も、テロの標的となったり、戦闘に巻き込まれたりして命を落とす兵士が相次いだ。ところが国民にネガティブな情報はほとんど知らされなかった。

 政府系のシンクタンク、ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)のフィリップ・ミュンヒ研究員(34)によると、国防省のウェブサイトでは、食糧配給や難民支援の実績を強調する一方、部隊の活動実態や被害は詳しく記載されなかった。当初は「戦死者」の存在も認めなかったという。

 ミュンヒ氏は「国家の隠蔽(いんぺい)体質に加え、『戦争に巻き込まれたくない』と考えるドイツ国民を刺激するのを恐れて、政府は適切な情報開示をしなかった」と分析する。

 アフガンから帰還した兵士たちが「戦争に行ってきた」と家族や友人たちに語っても、政府は「戦争ではない」と否定した。国防省が第2次大戦後長らくタブーだった「戦死」という表現を初めて使ったのは08年。現地が「戦争に近い状態」とようやく認めたのは、09年になってからという。

   ■    ■

 派兵の犠牲者は、ドイツ兵だけではなかった。

 09年9月4日の早朝。ドイツ連邦軍の国外派兵司令部の司令官だったライナー・グラーツ元中将(64)は、自宅で軍からの緊急の電話を受けた。「アフガン北部クンドゥズ州でタンクローリーが奪われた。武装勢力が集まり、現場指揮官の要請で空爆が行われた」

 だが、のちに「クンドゥズ事件」と呼ばれ、多数の地元市民を巻き込む誤爆だった。国際治安支援部隊(ISAF)の任務が武装勢力との戦闘行為に及んでいることも明らかになり、国内世論が一気に「派兵反対」へと傾いたという。

 ただ、ドイツ軍はアフガンから撤退しなかった。元軍幹部は「共同作戦を展開している同盟国との関係もあり、国内世論や現地情勢が変わったからといって、自軍だけ引き揚げるのは困難だ」と打ち明ける。

   ■    ■

 多くの代償を払って得られたものは何だったのか。

 SWPのミュンヒ氏は今年4~5月に現地情勢の調査のためアフガンを再訪。ISAFの戦闘任務は14年末に終了したが、外交官や欧米から来た民間人がテロの標的になっており、治安が回復したとは言えない状況だったという。

 「今回の派兵の最大の問題は、兵士自身が何のために戦っているのか理解できないまま命を落としたことだ」

 一方、ドイツ国内は報復テロの脅威にさらされている。5月の自転車レース大会で、イスラム過激派組織の関与が疑われるテロ計画が発覚。大会は中止を余儀なくされるなど、テロ警戒で催しが中止になる事態が相次いでいる。

 ミュンヒ氏は言う。「派兵が成功だったのか失敗だったのか、まだ結論は出せない。ただ、報復の連鎖を生み、ドイツがテロの標的となるリスクを高めたことは確かだ」

=2015/06/05付 西日本新聞朝刊=

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