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【近未来からの警告~積極的平和主義の先に】<3>

2015-08-11 11:57:42 | 
http://www.nishinippon.co.jp/feature/warning_from_future/article/174880
【近未来からの警告~積極的平和主義の先に】<3>
米国から 帰還兵、戻らぬ心
2015年06月11日 14時01分


 生ぬるい風が顔をなでる。その家の庭の高いポールに掲げられた星条旗が、ゆっくりと揺れていた。5月、米国フロリダ州南部の町デイビー。2年前、愛国心に満ちた24歳の元海兵隊員が逝った夜のことを、旗も見ていたのだろうか。

 2013年1月12日夜、この家は立ち入り禁止のテープに囲まれていた。「お会いしたいでしょうが、今はおやめになった方が…」。緊急連絡を受け、外出先から帰宅したジャニーン・ルッツさん(53)は、警察官にそう告げられた。ベッド脇で倒れたままであろう長男ジャノスさん(愛称ジョニー)の遺体を、抱きしめたい気持ちをこらえなければならなかった。

 精神安定剤などを大量服用しての自殺。パソコンに遺書が残っていた。「ママ、ごめんなさい。(でも)今は幸せです」と。

 01年に起きた米中枢同時テロ。13歳だったジョニーさんは「将来、国のためにテロと戦う」と誓った。母の反対を押し切り18歳で海兵隊に入隊。イラク、アフガニスタンで戦った。だが09年12月に帰還した時、パーティーでいつも盛り上げ役だった、かつての面影はなかった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。

 米国防総省に近いシンクタンク「ランド研究所」によると、01年から続く「テロとの戦い」でアフガン、イラクに派遣された200万人以上の米帰還兵のうち、約50万人がPTSDや、爆発などによる外傷性脳損傷で精神的な障害を負っているという。民間人の犠牲も多い、殺し、殺される戦場での過酷な経験が原因とみられている。

 01年は153人だった現役兵の自殺も、両国での戦闘が激化した05年ごろから急増。12年に過去最悪の349人に上り、14年も268人だった。しかも退役兵の自殺者総数は不明。帰還兵全体の自殺者総数は、イラク、アフガンでの戦死者約6800人をも上回るとみる識者もいる。

 ジョニーさんは10年にも自殺未遂を起こしていた。「元のジョニーに戻ってほしかった。その私の気持ちが彼のプレッシャーになっていたのかもしれない」。取材中、ジャニーンさんはそう叫び、自分を責めた。

「戦場の記憶」罪悪感から命を絶ち

「アフガニスタンでの親友の死と生き残った罪悪感に苦しんでいたと同僚から聞きました」。自殺した元米海兵隊員ジャノス・ルッツさん(愛称ジョニー)=当時(24)=の母親ジャニーンさん(53)はそう振り返った。

 2009年7月2日、米軍はアフガン南部ヘルマンド州で武装勢力タリバンの掃討作戦を実施。ジョニーさんも海兵隊約4千人の一員として参加した戦いで、親友のチャールズ・シャープさんが首を撃たれ死亡。その夏、他に13人の大隊の仲間が戦死したという。

 冬に帰還したジョニーさんは抜け殻のようだった。無表情、うつ状態…。すぐに怒りを爆発させ、ベッドでは悪夢に悩まされた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、グループセラピーや薬物治療を受けた。抗うつ剤や精神安定剤など一時は24種類もの薬を飲み、さまざまな副作用に襲われた。

 11年秋に治療を理由に除隊し、自宅に戻った。「自分には生きる価値などない」と同僚には苦しみの理由を明かした。一方で、家族に戦場でのことを語ることはなかったという。

 ある朝、一心不乱にシャワーで体を洗い始めた。「夢の中で自分の体が血と内臓にまみれていた」のだという。大量出血して死んだ親友が夢に現れたのかもしれなかった。壊れていく息子にどう向き合えば良いのか。母の苦悩も深かった。

   ■    ■

 厳しい訓練に、自殺防止効果がある‐。かつて米軍はそう考えていたが、深刻な心のダメージは、精神力では防げなかった。オバマ政権は精神科医やカウンセラーを大幅に増やすなど現役、退役兵の自殺防止対策を近年、本格化させた。退役兵自殺防止法も今年成立。だが状況は改善せず、過剰投薬など課題も多い。

 一方、4月に合意した新たな日米防衛協力指針で、安倍晋三首相は、自衛隊による米軍支援を「地球規模」に拡大した。自衛隊は、米国の戦争にどこまで関わることになるのか。

 安全保障関連法案の国会審議。首相は他国領域での集団的自衛権の行使について「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海以外は念頭にない」としつつ、「安保上の対応は事細かに事前に設定し、柔軟性を失うことは避けた方がいい」とも。含みを残す説明に、野党は「歯止めのない派遣拡大につながる」と警戒する。

   ■    ■

 「子連れのイラク人女性が不審な動きをしたので、自爆テロだと確信した。銃の引き金を引こうとした瞬間、視界に邪魔が入り、動作を止めたら何も起きなかった。罪もない母親を子どもの目の前で殺していたかもしれない自分が、今も恐ろしい」とアンドリュー・カスバートさん(28)。

 「仕事を代わってくれた同僚が地雷を踏んで片足を失った」とブライアン・ルポさん(31)。2人は、PTSDと闘う帰還兵と家族の支援財団を立ち上げたジャニーンさんが紹介してくれた元海兵隊員だ。

 帰還兵と、家族を苦しめ続ける「戦争の後遺症」。「私たちのために戦ってくれた苦しむ兵士たちを、今度は社会全体で支えていかないといけない」。一時は自殺も考えたジャニーンさんだが、息子の死を無駄にしないために心にそう決める。遺灰は今も自宅で大切に安置している。

=2015/06/03付 西日本新聞朝刊=

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