乳児湿疹はたいてい顔面から始まります。
生後1ヶ月まではオイリーな脂漏性湿疹ですが、1〜2ヶ月には乾燥性湿疹へと移行し、痒みを伴うアトピー性皮膚炎へ進行していくことが観察されます。
痒みを伴う乾燥性湿疹はステロイド軟膏以外では治せません。
有効ではあるのですが、やめると再燃することを繰り返す例に時々遭遇します。
眼周囲にステロイド軟膏を塗っていると、眼への副作用が心配になります。
乳児に使用するステロイド軟膏はマイルドクラス(ロコイド®やキンダベート®)で強さは問題ないのですが、期間が長くなると無視できません。
調べてみると、
・1週間までは大丈夫(=1週間以上は危険)
・2週間までは大丈夫(=2週間以上は危険)
・1ヶ月までは大丈夫(=1ヶ月以上は危険)
・・・など様々なことが書いてあり、どれが正しいのかわかりません。
できれば眼周囲へのステロイド軟膏の使用は1週間までに抑えたいものです。
そのための補助療法として内服薬が考えられます。
しかし、生後6ヶ月未満の乳児に使用できる薬は限られており、いわゆる抗アレルギー薬は使えません。
そこで漢方薬の登場です。
とくに頭部/顔面の乳児湿疹は古くは「くさ」と呼ばれ、治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)が使用されてきました。
しかしこの方剤は乾燥性より湿潤性湿疹に使用するイメージがあり、私はあまり処方してきませんでした。
今回、あらためて乾燥性湿疹へ適用可能か、調べてみました。
結論を先に提示します。
<基本>
(「ツムラ医療用漢方製剤」より)
・虚実:実〜中間
・寒熱:熱
・気血水:瘀血
(赤本)表熱実証
(「活用自在の処方解説」)
・六病位:少陽病
・風湿熱の皮疹
・TCM:祛風・清熱解毒・活血化湿
<ポイント>
・表皮の浮腫、血流を改善し、清熱、解毒することによって皮膚の状態を整える作用がある。アトピー性皮膚炎では、頭部、顔面の分泌物が多く、痂皮が付着した病変に用いられる(黒川晃夫Dr.)。
・この処方は頭瘡のみならず、すべて上部頭面の発瘡に用いる。同じく体上部の皮膚疾患に用いるが、清上防風湯は清熱を主とし、この方は解毒を主とする(『勿誤薬室方函口訣』)。
・毛根部にのみ出る皮膚病にもよいが,すべて頭や顔に出るものによい(『済生薬室』)。
・本方は日本の経験方であって,中和解毒の効があるとされ,小児の頭瘡で分泌物,掻痒,痂皮を認めるものを目標として用いる。大体小児の頭瘡というが,少年や大人でもよい。顔面や頸部,腋窩,陰部などに発赤,丘疹,水庖,びらん,結痂を作るもので,実証の場合であり,下剤の適応するものが多い。便通のあるものには大黄を去って用いる。小児の頭瘡は短期間では治癒が困難なものが多いので,ある期間の連用が必要である。(『漢方診療医典』)
・清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強い(漢方LIFE.com)。
・目標は小児の頭瘡で、分泌物・瘙痒・痂皮を認めるものである。小児の頭瘡(大人でもよい)・顔面・頸部・腋窩・陰部等に発赤・丘疹・水疱・糜爛・結痂を作るもので、実証に属し、大体において下剤の適応するものを目標とし、通じのあるものは大黄を去る。長期連用する。方解すれば、連翹・忍冬は諸悪瘡を治し、防風は上部の滞気をめぐらし、風湿を去る。荊芥は瘡を治し、瘀を消し、頭目を清くする。紅花は血を破り、血を活かし、瘀を消す。蒼朮は湿を燥かし、川芎は諸薬を引いて上部に作用する(矢数道明Dr.)。
<まとめ>
・湿疹の様子が湿潤か乾燥かで考えるのではなく「赤く熱を持つほど炎症が強く、掻き壊すと浸出液が出るようなむくみっぽい湿疹」と捉えました。
ではここに至るまでの思考の旅を記してみます。
まず、乳児アトピー性皮膚炎に頻用する漢方薬から。
<乳児アトピー性皮膚炎によく使われる漢方処方>(黒川晃夫先生)
小建中湯
黄耆建中湯
桂枝加黄耆湯
治頭瘡一方
補中益気湯
十全大補湯
この中で標治薬(急性期に症状を軽減する)は治頭瘡一方だけで、他の方剤は本治薬(亜急性〜慢性期の体質改善)です。
やはり治頭瘡一方に目が向きます。
治頭瘡一方は、川芎・蒼朮・荊芥・連翹・忍冬(にんどう)・防風・紅花(こうか)・大黄・甘草の9種類の生薬からなる処方である。本剤は表皮の浮腫、血流を改善し、清熱、解毒することによって皮膚の状態を整える作用がある。アトピー性皮膚炎では、頭部、顔面の分泌物が多く、痂皮が付着した病変に用いられる。
キーワードは「分泌物が多い」「痂皮付着」と、乾燥というより湿潤病変に合いそう。
現在私が頻用している黄耆建中湯の記述も引用しておきます。
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は、小建中湯に黄耆を加味した処方である。黄耆は強壮、肉芽形成促進、皮膚の血液循環の促進による栄養状態の改善、利尿作用、抗菌作用がある。アトピー性皮膚炎では、虚弱体質の患児で、皮膚は乾燥もしくは湿潤し、発汗傾向があり、感染症を繰り返す場合に用いられる。
皮膚の状態は「乾燥もしくは湿潤」とどちらかに限定しておらず、もっと大きな視野で「皮膚の血液循環の促進による栄養状態の改善」を目指す方剤ですね。
<治頭瘡一方の応用疾患・症状>(中島俊彦先生)
・湿疹(主に頭部、顔面)
・乳幼児の湿疹
・脂漏性湿疹
・膿皮症
・アトピー性皮膚炎
かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向があれば是非一度使ってみてください。必要に応じて抗アレルギー薬、抗生剤、外用薬などは併用が可能です。1~2週間続けて症状の変化がない場合は他の漢方薬に変更するなど、手を変える必要があります。勇気ある撤退も必要です。排膿散及湯との合方はよくやる手法です。
中島先生は、湿潤・乾燥にはあまりこだわっていません。
んん、待てよ・・・湿疹は掻き壊せばジクジク浸出液が出てくるから、表面の乾燥感にとらわれなくてもいいのかもしれないな。黒川先生の記述にも「表皮の浮腫」とあるし。
■ 治頭瘡一方(山田光胤先生)
浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』には,「この処方は頭瘡のみならず、すべて上部頭面の発瘡に用いる。藩響萌颪蕩は清熱を主とし,この方は解毒を主とす」とあり,要するに頭にできる化膿性の腫物や,体の上部や面部にできる皮疹を中心に使う,ということであります。清上防風湯との違いはこの通りであります。
これも浅田宗伯の『済生薬室』に,「毛根部にのみ出る皮膚病にもよいが,すべて頭や顔に出るものによい」となっております。
大塚敬節先生が汎用された処方でありまして,先生の著書の『漢方診療医典』に多々記載されております。これを読んでみますと「本方は日本の経験方であって,中和解毒の効があるとされ,小児の頭瘡で分泌物,癌痒,痂皮を認めるものを目標として用いる。大体小児の頭瘡というが,少年や大人でもよい。顔面や頸部,腋窩,陰部などに発赤,丘疹,水庖,びらん,結痂を作るもので,実証の場合であり,下剤の適応するものが多い。便通のあるものには大黄を去って用いる。小児の頭瘡は短期間では治癒が困難なものが多いので,ある期間の連用が必要である」とあります。
鑑別を要する処方としては,次のものがあります。
消風散は非常によく似た皮膚発疹の様相がありますが,漿液の分泌が見られる場合にこの方がよく効きます。
それから当帰飲子は,むしろ皮疹の様相があまりはっきりしないが非常に痒いという場合で,主として高齢者に現われます。たとえば老人性皮膚療痒症などに出ますが,子供のアトピー性皮膚炎で割合に乾燥性で,皮疹があまり元気のないような状態の時によく使われることがあります。
それから葛根湯が用いられる場合もありますが,これの適応症は比較的急性期で,搔痒が非常に激しい場合であります。
山田先生は鑑別処方の中で、分泌物が目立つときは消風散、乾燥が目立つときは当帰飲子を勧めています。すると、治頭瘡一方は乾燥と湿潤が混在していて、むしろ全体的に湿疹病変の勢いがあるときに用いると考えた方がよいのかもしれません。
中医学的にはどうでしょう。
以下を読むと、効能に「清熱解毒」「活血化湿」とあります。これらの用語を分解すると、
・清熱:熱を冷ます
・解毒:毒を排泄する(便として?)
・活血:滞っている血を巡らす
・化湿:たまっている余分な水分を除去する
うん、わかりやすい。
さらに「清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強い」とも。
すると「炎症が強いため赤くてジクジクむくみっぽい〜痂皮付着する汚い感じの湿疹」が適応となるようです。
日本漢方的に表現すれば「熱証・瘀血・水毒」となりますか。
全身の湿疹ではなく「顔面頭部」の湿疹に適応となるのは川芎が入っているかららしい。
<治頭瘡一方 中医学処方解説>(「家庭の中医学」より)
【効能】 袪風・清熱解毒・活血化湿
【適応症】風湿熱の皮疹:かゆみ・発赤・熱感・化膿傾向・水疱や滲出物などがみられ、舌湿は紅・舌苔は黄・脈は数。
【類方比較】
(消風散)患部の湿潤と、掻痒感が顕著で痂皮(かさぶた)の形成と苔癬化があり、口渇を伴う場合に用います。
(温清飲)患部は赤みを帯び、熱感があり、掻痒感がひどい場合に用います。
(加味追遥散合四物湯)体質が虚弱で手足が冷えて疲れやすく、めまい、動悸、不眠などの訴えのある人の慢性の皮膚疾患に用います。
(葛根湯)多くは上半身の急性発疹で、発赤、腫脹、掻痒感の強い場合に用います。
(清上防風湯)上半身、特に頭や顔面に限局する化膿性皮疹に使用します。
【解説】
・袪風の荊芥・川芎
・燥湿の蒼朮
・清熱解毒の連翹・忍冬藤・生甘草・大黄で、風湿解毒の邪を除く。
・活血化瘀の川芎・紅花・大黄の配合により、邪が血分に滞留するのを防ぐ。
・・・風湿解毒による皮疹に広く使用できます。
【治療の現場から】
★発赤、熱感が強いときは、黄連解毒湯を合方する。
★水痘、浮腫、滲出液の多いときは、五虎湯を合方する
★乾燥して湿潤傾向のないときは、温清飲を合方する
★脾気虚が明らかであれば、補中益気湯や参苓白朮散などを合方する。
<赤みの強い湿疹に治頭瘡一方>(漢方LIFE.com)
処方のポイント;
・皮膚の熱を下げ解毒する荊芥・連翹・忍冬・防風
・熱を体外排出する大黄
・血行阻害物質の排除に働く川芎、紅花
・消化器を保護する甘草、
・水分の滞りを除く蒼朮で構成。
・・・過剰な熱と血行阻害物質を便通により体外排出するため、便がゆるくなる。赤みのある湿疹に適応。甘辛味。
漢方的適応病態:風湿熱の皮疹。すなわち、かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向、水疱や滲出物などがみられ、舌質は紅、舌苔は黄脈数。
効能:去風燥湿・和血解毒
主治:風温の侵入・熱毒内蘊
解説:
治頭瘡一方は日本の経験方で、胎毒によって生じる小児頭瘡などに用いる処方である、川芎も大黄も大きいものを用いた方が効果が高いことから「大芎黄湯」の別名がある。
適応症状:
◇頭瘡:
頭部に発生する湿熱瘡蜥瘡などで、化膿傾向をもつ皮疹、湿疹などに相当する。風熱相搏(風邪と熱邪が一体となって侵入する)、湿熱相蒸(湿邪と熱邪が上に燻蒸する)、熱毒内蘊(体内に毒が潜伏する)によって邪気が経絡を塞ぎ、局部の気血が凝滞して発症する。小児ばかりでなく大人にも頭瘡が生じることがある。
◇皮膚紅潮・滲出物・瘙痒:
体内に熱毒や湿毒が洊在するため、熱盛の皮膚紅潮、湿盛の滲出物がみられる。湿熱が皮膚、筋肉に潜伏することによって瘙痒感がおこる。風邪が存在する場合はさらに瘙痒感が強くなる。
◇舌紅・苔薄膩:紅舌は熱を示し、膩苔は湿を示す舌象である。
◇脈数:病症の性質が熱であることを示している。
治頭瘡一方は去風薬を多く配合し、上部に侵入した風熱の邪気を発散し、皮膚掻痒感を治療する。連翹と忍冬藤はともに清熱作用があり、連翹は瘡治療の主薬である。忍冬藤は金銀花の茎で優れた通利作用をもち、邪気に塞がれた経絡を通じさせる。蒼朮は強い燥湿欄をもっており、体内の湿邪を乾燥させる。防風と荊芥は使用範囲の広い去風薬で、風邪による搔痒感に用いる。川芎と紅花は活血薬である。川芎は上部に向かう性質をもっており、紅花とともに凝滞している気血を動かす。大黄は瀉下薬に属し、川芎、紅花の活血化瘀作用を補佐しながら、通便瀉火の作用によって体内の熱毒を下から排出する。本方を長期にわたって服用する場合は、大黄を除くこともある。
臨床応用
◇皮膚疾患
風熱、湿毒による頭瘡、湿疹に用いる。清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強いので、皮膚がやや紅潮、滲出物が多い、水疱、搔痒感が強いなどの湿邪、風・風邪がい症状に適している。大黄が配合されているため、便秘をともなうときに用いやすい。
さて、まとめはやはり秋葉先生の「活用自在の処方解説」から。
(活用自在の漢方処方:秋葉哲生先生より)
【治頭瘡一方】(ぢづそういっぽう)
1 出典:「本朝経験方」
本方は香川修庵とも伝えられる本邦先人の経験方である。 参考までに、本方の評価を『勿誤薬室方函口訣』より引用すると、
●この方は、頭瘡のみならず、すべて上部顔面の発瘡に用う。(浅田宗伯)
2 腹候:腹力中等度前後(2-4/5)。
3 気血水:血水が主体の気血水。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:舌質は紅、舌苔は黄。脈数。
6 口訣:
●(同じく体上部の皮膚疾患に用いるといえども)清上防風湯は清熱を主とし、この方は解毒を主とするなり。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態
効能または効果:湿疹、くさ、乳幼児の湿疹。
b 漢方的適応病態:風湿熱の皮疹。すなわち、かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向、水疱や滲出物 などがみられ、舌質は紅、舌苔は黄。脈数。
8 構成生薬:川芎3、蒼朮3、連翹3、防風2、甘草1、荊芥1、紅花1、大黄0.5、忍冬2。(単位g)
9 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説:祛風・清熱解毒・活血化湿。
10 効果増強の工夫:
・十味敗毒湯との合方などは試みられる意味がある。
処方例) ツムラ治頭瘡一方 7.5g 分3食前
ツムラ十味敗毒湯 5.0g(1-0-1)
・炎症がいかにも激しく、顔面の発赤が酷い場合の皮膚炎には、黄連解毒湯の合方が行われる。
処方例) ツムラ治頭瘡一方 5.0g 分2朝夕食前
ツムラ黄連解毒湯 5.0g
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より 小児の胎毒、小児頭部湿疹、胎毒下し、諸湿疹。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より 小児頭部の湿疹を目標に、分泌物、痂皮の多い便秘がちのものに適する。
<ヒント>
本方は一名を大芎黄湯(だいきゅうおうとう)といい、本朝経験方の1つである。本方の運用について矢数道明氏は次のように述べている。
「(本方は)中和解毒の効があるとされ、小児の胎毒に用いる。すなわち、本方は主として小児頭部湿疹・胎毒下し・諸湿疹に用いられる。 福井家(*福井家の流儀のこと)にては黄岑を加え、紅花・蒼朮を去るという。 目標は小児の頭瘡で、分泌物・瘙痒・痂皮を認めるものである。小児の頭瘡(大人でもよい)・顔面・頸部・腋窩・陰部等に発赤・丘疹・水疱・糜爛・結痂を作るもので、実証に属し、大体において下剤の適応するものを目標とし、通じのあるものは大黄を去る。長期連用する。 方解すれば、連翹・忍冬は諸悪瘡を治し、防風は上部の滞気をめぐらし、風湿を去る。荊芥は瘡を治し、瘀を消し、頭目を清くする。紅花は血を破り、血を活かし、瘀を消す。蒼朮は湿を燥かし、川芎は諸薬を引いて上部に作用する。 加減としては、桃仁・石膏を加えて、口渇甚だしく煩躁するものに用いる。 治頭瘡一方にて治らないものは、馬明湯加減方を用いるがよい。」(『臨床応 用漢方処方解説増補改訂版』)
文章に何回か出てきた「胎毒」とは?
・(ハル薬局HP)親からの遺伝による毒や体質的な病毒のこと(先天梅毒など)。
・(小川新 新論「乳幼児のアトピー性皮膚炎〜胎毒下しを中心に」)
・・・「分娩時の汚物を吸い込んでいれば吸引も必要なことだが、私の言う胎毒は主として脱落した腸粘膜(古典では腸垢という)を言うのです。皮膚と同じように腸粘膜は毎日新生し、脱落していることを考えて下さい。それは生理的に胎内でいつも行われているのです。君の話はどうも胎児の病態生理を知らないようですね」。
現代のアトピー流行は、この胎毒下しを行わないことに大きな原因がある。胎毒の少ない子供は母乳を飲みながら自然に排泄するが、これだけではいけない。一度胎毒下しを行っておかなければ、一二週間ないしは一二カ月ごろからアトピーが出ることが多い。そこで初めて治療に入るのだが、私はアトピー性皮膚炎とは呼ばずに「胎毒性皮膚炎」と呼んでいる。
・(小児はりでお子さんの胎毒体質を解消/小児はり師のいる鍼灸院)
胎毒(たいどく)とは・・・!?
『胎毒(たいどく)』とは文字どおり胎児の間に赤ちゃんの体に蓄積した毒素のこと。
毒素!なんて聞くと、ひどく有害な体質のように思えますがこの点はご安心ください。
胎毒は多少の差はありますが、ほとんどのお子さんが持っている体質なのです。
でも油断するわけにもいきません。
というのも、この胎毒は乳幼児~幼児期に起こるほとんどの病気の原因となる病気体質なのです。
胎毒が引き起こす病気や症状
新生児黄疸、 高熱・頻繁な発熱、頑固な夜泣き、熱性けいれん(ひきつけ)、乳幼児湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、突発性発疹、水疱瘡
などの症状の原因となります。
胎毒の蓄積がひどいと、以上の症状もきつくなったり、頻繁に症状を繰り返すことになるのです。
胎毒をウンチから追い出す=胎便(たいべん)
赤ちゃんの体には、胎毒を追い出す仕組みがあります。それはウンチです。産まれて初めてするウンチを胎便(たいべん)といいます。その胎便(たいべん)は特殊で、ウンチの色は黒~黒緑色。あまりの色にビックリするほどですが、そのわりに臭いは無臭に近く、通常のウンチとはまるで違う臭いです。
漢方医学では【胎便が出ること=体内の胎毒を排出する】という意味があります。
・(「漢方まんだら」より)
「胎便(カニババ)=胎毒」と誤解している人がいます。・・・漢方の先駆者であった石野信安先生や小川新先生などは「胎便=胎毒」説を唱えておられ、何となくそれが通説のようになってます。・・・江戸時代には「カニババ下し(甘草2 黄連・大黄・紅花1 連翹0.5g)」というものを煎じて綿に含ませ、赤ちゃんに吸わせたそうです。そんな風習があるは日本だけで、漢方の本場である中国にはありません。・・・中国ネットから“胎毒”を調べると、[ 嬰、幼児瘡疖、疥癬、痘疹等... ]の病名が当てられています。・・・このように小児胎毒とは主に小児湿疹を指していっている。・・・新生児の体は純陽であり、肺脾の功能が失調すると体内に湿熱を形成しやすい。
それが発散されずに体表で鬱結すると小児胎毒となり皮膚アレルギーの発症となったり、小児鵝口瘡や黄疸等の疾病になることもある。
漢方分野でも捉え方が異なることが判明しました。
小川新氏は「胎毒=胎便」説、小児はり師のいる鍼灸院さんは「胎毒≒胎便」説、ブログ「漢方まんだら」では「胎毒=湿疹」説。
用語は統一してほしいですね。
私としては、後者の「胎毒=湿疹」に一票。
生後1ヶ月まではオイリーな脂漏性湿疹ですが、1〜2ヶ月には乾燥性湿疹へと移行し、痒みを伴うアトピー性皮膚炎へ進行していくことが観察されます。
痒みを伴う乾燥性湿疹はステロイド軟膏以外では治せません。
有効ではあるのですが、やめると再燃することを繰り返す例に時々遭遇します。
眼周囲にステロイド軟膏を塗っていると、眼への副作用が心配になります。
乳児に使用するステロイド軟膏はマイルドクラス(ロコイド®やキンダベート®)で強さは問題ないのですが、期間が長くなると無視できません。
調べてみると、
・1週間までは大丈夫(=1週間以上は危険)
・2週間までは大丈夫(=2週間以上は危険)
・1ヶ月までは大丈夫(=1ヶ月以上は危険)
・・・など様々なことが書いてあり、どれが正しいのかわかりません。
できれば眼周囲へのステロイド軟膏の使用は1週間までに抑えたいものです。
そのための補助療法として内服薬が考えられます。
しかし、生後6ヶ月未満の乳児に使用できる薬は限られており、いわゆる抗アレルギー薬は使えません。
そこで漢方薬の登場です。
とくに頭部/顔面の乳児湿疹は古くは「くさ」と呼ばれ、治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)が使用されてきました。
しかしこの方剤は乾燥性より湿潤性湿疹に使用するイメージがあり、私はあまり処方してきませんでした。
今回、あらためて乾燥性湿疹へ適用可能か、調べてみました。
結論を先に提示します。
<基本>
(「ツムラ医療用漢方製剤」より)
・虚実:実〜中間
・寒熱:熱
・気血水:瘀血
(赤本)表熱実証
(「活用自在の処方解説」)
・六病位:少陽病
・風湿熱の皮疹
・TCM:祛風・清熱解毒・活血化湿
<ポイント>
・表皮の浮腫、血流を改善し、清熱、解毒することによって皮膚の状態を整える作用がある。アトピー性皮膚炎では、頭部、顔面の分泌物が多く、痂皮が付着した病変に用いられる(黒川晃夫Dr.)。
・この処方は頭瘡のみならず、すべて上部頭面の発瘡に用いる。同じく体上部の皮膚疾患に用いるが、清上防風湯は清熱を主とし、この方は解毒を主とする(『勿誤薬室方函口訣』)。
・毛根部にのみ出る皮膚病にもよいが,すべて頭や顔に出るものによい(『済生薬室』)。
・本方は日本の経験方であって,中和解毒の効があるとされ,小児の頭瘡で分泌物,掻痒,痂皮を認めるものを目標として用いる。大体小児の頭瘡というが,少年や大人でもよい。顔面や頸部,腋窩,陰部などに発赤,丘疹,水庖,びらん,結痂を作るもので,実証の場合であり,下剤の適応するものが多い。便通のあるものには大黄を去って用いる。小児の頭瘡は短期間では治癒が困難なものが多いので,ある期間の連用が必要である。(『漢方診療医典』)
・清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強い(漢方LIFE.com)。
・目標は小児の頭瘡で、分泌物・瘙痒・痂皮を認めるものである。小児の頭瘡(大人でもよい)・顔面・頸部・腋窩・陰部等に発赤・丘疹・水疱・糜爛・結痂を作るもので、実証に属し、大体において下剤の適応するものを目標とし、通じのあるものは大黄を去る。長期連用する。方解すれば、連翹・忍冬は諸悪瘡を治し、防風は上部の滞気をめぐらし、風湿を去る。荊芥は瘡を治し、瘀を消し、頭目を清くする。紅花は血を破り、血を活かし、瘀を消す。蒼朮は湿を燥かし、川芎は諸薬を引いて上部に作用する(矢数道明Dr.)。
<まとめ>
・湿疹の様子が湿潤か乾燥かで考えるのではなく「赤く熱を持つほど炎症が強く、掻き壊すと浸出液が出るようなむくみっぽい湿疹」と捉えました。
ではここに至るまでの思考の旅を記してみます。
まず、乳児アトピー性皮膚炎に頻用する漢方薬から。
<乳児アトピー性皮膚炎によく使われる漢方処方>(黒川晃夫先生)
小建中湯
黄耆建中湯
桂枝加黄耆湯
治頭瘡一方
補中益気湯
十全大補湯
この中で標治薬(急性期に症状を軽減する)は治頭瘡一方だけで、他の方剤は本治薬(亜急性〜慢性期の体質改善)です。
やはり治頭瘡一方に目が向きます。
治頭瘡一方は、川芎・蒼朮・荊芥・連翹・忍冬(にんどう)・防風・紅花(こうか)・大黄・甘草の9種類の生薬からなる処方である。本剤は表皮の浮腫、血流を改善し、清熱、解毒することによって皮膚の状態を整える作用がある。アトピー性皮膚炎では、頭部、顔面の分泌物が多く、痂皮が付着した病変に用いられる。
キーワードは「分泌物が多い」「痂皮付着」と、乾燥というより湿潤病変に合いそう。
現在私が頻用している黄耆建中湯の記述も引用しておきます。
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は、小建中湯に黄耆を加味した処方である。黄耆は強壮、肉芽形成促進、皮膚の血液循環の促進による栄養状態の改善、利尿作用、抗菌作用がある。アトピー性皮膚炎では、虚弱体質の患児で、皮膚は乾燥もしくは湿潤し、発汗傾向があり、感染症を繰り返す場合に用いられる。
皮膚の状態は「乾燥もしくは湿潤」とどちらかに限定しておらず、もっと大きな視野で「皮膚の血液循環の促進による栄養状態の改善」を目指す方剤ですね。
<治頭瘡一方の応用疾患・症状>(中島俊彦先生)
・湿疹(主に頭部、顔面)
・乳幼児の湿疹
・脂漏性湿疹
・膿皮症
・アトピー性皮膚炎
かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向があれば是非一度使ってみてください。必要に応じて抗アレルギー薬、抗生剤、外用薬などは併用が可能です。1~2週間続けて症状の変化がない場合は他の漢方薬に変更するなど、手を変える必要があります。勇気ある撤退も必要です。排膿散及湯との合方はよくやる手法です。
中島先生は、湿潤・乾燥にはあまりこだわっていません。
んん、待てよ・・・湿疹は掻き壊せばジクジク浸出液が出てくるから、表面の乾燥感にとらわれなくてもいいのかもしれないな。黒川先生の記述にも「表皮の浮腫」とあるし。
■ 治頭瘡一方(山田光胤先生)
浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』には,「この処方は頭瘡のみならず、すべて上部頭面の発瘡に用いる。藩響萌颪蕩は清熱を主とし,この方は解毒を主とす」とあり,要するに頭にできる化膿性の腫物や,体の上部や面部にできる皮疹を中心に使う,ということであります。清上防風湯との違いはこの通りであります。
これも浅田宗伯の『済生薬室』に,「毛根部にのみ出る皮膚病にもよいが,すべて頭や顔に出るものによい」となっております。
大塚敬節先生が汎用された処方でありまして,先生の著書の『漢方診療医典』に多々記載されております。これを読んでみますと「本方は日本の経験方であって,中和解毒の効があるとされ,小児の頭瘡で分泌物,癌痒,痂皮を認めるものを目標として用いる。大体小児の頭瘡というが,少年や大人でもよい。顔面や頸部,腋窩,陰部などに発赤,丘疹,水庖,びらん,結痂を作るもので,実証の場合であり,下剤の適応するものが多い。便通のあるものには大黄を去って用いる。小児の頭瘡は短期間では治癒が困難なものが多いので,ある期間の連用が必要である」とあります。
鑑別を要する処方としては,次のものがあります。
消風散は非常によく似た皮膚発疹の様相がありますが,漿液の分泌が見られる場合にこの方がよく効きます。
それから当帰飲子は,むしろ皮疹の様相があまりはっきりしないが非常に痒いという場合で,主として高齢者に現われます。たとえば老人性皮膚療痒症などに出ますが,子供のアトピー性皮膚炎で割合に乾燥性で,皮疹があまり元気のないような状態の時によく使われることがあります。
それから葛根湯が用いられる場合もありますが,これの適応症は比較的急性期で,搔痒が非常に激しい場合であります。
山田先生は鑑別処方の中で、分泌物が目立つときは消風散、乾燥が目立つときは当帰飲子を勧めています。すると、治頭瘡一方は乾燥と湿潤が混在していて、むしろ全体的に湿疹病変の勢いがあるときに用いると考えた方がよいのかもしれません。
中医学的にはどうでしょう。
以下を読むと、効能に「清熱解毒」「活血化湿」とあります。これらの用語を分解すると、
・清熱:熱を冷ます
・解毒:毒を排泄する(便として?)
・活血:滞っている血を巡らす
・化湿:たまっている余分な水分を除去する
うん、わかりやすい。
さらに「清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強い」とも。
すると「炎症が強いため赤くてジクジクむくみっぽい〜痂皮付着する汚い感じの湿疹」が適応となるようです。
日本漢方的に表現すれば「熱証・瘀血・水毒」となりますか。
全身の湿疹ではなく「顔面頭部」の湿疹に適応となるのは川芎が入っているかららしい。
<治頭瘡一方 中医学処方解説>(「家庭の中医学」より)
【効能】 袪風・清熱解毒・活血化湿
【適応症】風湿熱の皮疹:かゆみ・発赤・熱感・化膿傾向・水疱や滲出物などがみられ、舌湿は紅・舌苔は黄・脈は数。
【類方比較】
(消風散)患部の湿潤と、掻痒感が顕著で痂皮(かさぶた)の形成と苔癬化があり、口渇を伴う場合に用います。
(温清飲)患部は赤みを帯び、熱感があり、掻痒感がひどい場合に用います。
(加味追遥散合四物湯)体質が虚弱で手足が冷えて疲れやすく、めまい、動悸、不眠などの訴えのある人の慢性の皮膚疾患に用います。
(葛根湯)多くは上半身の急性発疹で、発赤、腫脹、掻痒感の強い場合に用います。
(清上防風湯)上半身、特に頭や顔面に限局する化膿性皮疹に使用します。
【解説】
・袪風の荊芥・川芎
・燥湿の蒼朮
・清熱解毒の連翹・忍冬藤・生甘草・大黄で、風湿解毒の邪を除く。
・活血化瘀の川芎・紅花・大黄の配合により、邪が血分に滞留するのを防ぐ。
・・・風湿解毒による皮疹に広く使用できます。
【治療の現場から】
★発赤、熱感が強いときは、黄連解毒湯を合方する。
★水痘、浮腫、滲出液の多いときは、五虎湯を合方する
★乾燥して湿潤傾向のないときは、温清飲を合方する
★脾気虚が明らかであれば、補中益気湯や参苓白朮散などを合方する。
<赤みの強い湿疹に治頭瘡一方>(漢方LIFE.com)
処方のポイント;
・皮膚の熱を下げ解毒する荊芥・連翹・忍冬・防風
・熱を体外排出する大黄
・血行阻害物質の排除に働く川芎、紅花
・消化器を保護する甘草、
・水分の滞りを除く蒼朮で構成。
・・・過剰な熱と血行阻害物質を便通により体外排出するため、便がゆるくなる。赤みのある湿疹に適応。甘辛味。
漢方的適応病態:風湿熱の皮疹。すなわち、かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向、水疱や滲出物などがみられ、舌質は紅、舌苔は黄脈数。
効能:去風燥湿・和血解毒
主治:風温の侵入・熱毒内蘊
解説:
治頭瘡一方は日本の経験方で、胎毒によって生じる小児頭瘡などに用いる処方である、川芎も大黄も大きいものを用いた方が効果が高いことから「大芎黄湯」の別名がある。
適応症状:
◇頭瘡:
頭部に発生する湿熱瘡蜥瘡などで、化膿傾向をもつ皮疹、湿疹などに相当する。風熱相搏(風邪と熱邪が一体となって侵入する)、湿熱相蒸(湿邪と熱邪が上に燻蒸する)、熱毒内蘊(体内に毒が潜伏する)によって邪気が経絡を塞ぎ、局部の気血が凝滞して発症する。小児ばかりでなく大人にも頭瘡が生じることがある。
◇皮膚紅潮・滲出物・瘙痒:
体内に熱毒や湿毒が洊在するため、熱盛の皮膚紅潮、湿盛の滲出物がみられる。湿熱が皮膚、筋肉に潜伏することによって瘙痒感がおこる。風邪が存在する場合はさらに瘙痒感が強くなる。
◇舌紅・苔薄膩:紅舌は熱を示し、膩苔は湿を示す舌象である。
◇脈数:病症の性質が熱であることを示している。
治頭瘡一方は去風薬を多く配合し、上部に侵入した風熱の邪気を発散し、皮膚掻痒感を治療する。連翹と忍冬藤はともに清熱作用があり、連翹は瘡治療の主薬である。忍冬藤は金銀花の茎で優れた通利作用をもち、邪気に塞がれた経絡を通じさせる。蒼朮は強い燥湿欄をもっており、体内の湿邪を乾燥させる。防風と荊芥は使用範囲の広い去風薬で、風邪による搔痒感に用いる。川芎と紅花は活血薬である。川芎は上部に向かう性質をもっており、紅花とともに凝滞している気血を動かす。大黄は瀉下薬に属し、川芎、紅花の活血化瘀作用を補佐しながら、通便瀉火の作用によって体内の熱毒を下から排出する。本方を長期にわたって服用する場合は、大黄を除くこともある。
臨床応用
◇皮膚疾患
風熱、湿毒による頭瘡、湿疹に用いる。清熱解毒の作用より去風操湿の作用が強いので、皮膚がやや紅潮、滲出物が多い、水疱、搔痒感が強いなどの湿邪、風・風邪がい症状に適している。大黄が配合されているため、便秘をともなうときに用いやすい。
さて、まとめはやはり秋葉先生の「活用自在の処方解説」から。
(活用自在の漢方処方:秋葉哲生先生より)
【治頭瘡一方】(ぢづそういっぽう)
1 出典:「本朝経験方」
本方は香川修庵とも伝えられる本邦先人の経験方である。 参考までに、本方の評価を『勿誤薬室方函口訣』より引用すると、
●この方は、頭瘡のみならず、すべて上部顔面の発瘡に用う。(浅田宗伯)
2 腹候:腹力中等度前後(2-4/5)。
3 気血水:血水が主体の気血水。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:舌質は紅、舌苔は黄。脈数。
6 口訣:
●(同じく体上部の皮膚疾患に用いるといえども)清上防風湯は清熱を主とし、この方は解毒を主とするなり。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態
効能または効果:湿疹、くさ、乳幼児の湿疹。
b 漢方的適応病態:風湿熱の皮疹。すなわち、かゆみ、発赤、熱感、化膿傾向、水疱や滲出物 などがみられ、舌質は紅、舌苔は黄。脈数。
8 構成生薬:川芎3、蒼朮3、連翹3、防風2、甘草1、荊芥1、紅花1、大黄0.5、忍冬2。(単位g)
9 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説:祛風・清熱解毒・活血化湿。
10 効果増強の工夫:
・十味敗毒湯との合方などは試みられる意味がある。
処方例) ツムラ治頭瘡一方 7.5g 分3食前
ツムラ十味敗毒湯 5.0g(1-0-1)
・炎症がいかにも激しく、顔面の発赤が酷い場合の皮膚炎には、黄連解毒湯の合方が行われる。
処方例) ツムラ治頭瘡一方 5.0g 分2朝夕食前
ツムラ黄連解毒湯 5.0g
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より 小児の胎毒、小児頭部湿疹、胎毒下し、諸湿疹。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より 小児頭部の湿疹を目標に、分泌物、痂皮の多い便秘がちのものに適する。
<ヒント>
本方は一名を大芎黄湯(だいきゅうおうとう)といい、本朝経験方の1つである。本方の運用について矢数道明氏は次のように述べている。
「(本方は)中和解毒の効があるとされ、小児の胎毒に用いる。すなわち、本方は主として小児頭部湿疹・胎毒下し・諸湿疹に用いられる。 福井家(*福井家の流儀のこと)にては黄岑を加え、紅花・蒼朮を去るという。 目標は小児の頭瘡で、分泌物・瘙痒・痂皮を認めるものである。小児の頭瘡(大人でもよい)・顔面・頸部・腋窩・陰部等に発赤・丘疹・水疱・糜爛・結痂を作るもので、実証に属し、大体において下剤の適応するものを目標とし、通じのあるものは大黄を去る。長期連用する。 方解すれば、連翹・忍冬は諸悪瘡を治し、防風は上部の滞気をめぐらし、風湿を去る。荊芥は瘡を治し、瘀を消し、頭目を清くする。紅花は血を破り、血を活かし、瘀を消す。蒼朮は湿を燥かし、川芎は諸薬を引いて上部に作用する。 加減としては、桃仁・石膏を加えて、口渇甚だしく煩躁するものに用いる。 治頭瘡一方にて治らないものは、馬明湯加減方を用いるがよい。」(『臨床応 用漢方処方解説増補改訂版』)
文章に何回か出てきた「胎毒」とは?
・(ハル薬局HP)親からの遺伝による毒や体質的な病毒のこと(先天梅毒など)。
・(小川新 新論「乳幼児のアトピー性皮膚炎〜胎毒下しを中心に」)
・・・「分娩時の汚物を吸い込んでいれば吸引も必要なことだが、私の言う胎毒は主として脱落した腸粘膜(古典では腸垢という)を言うのです。皮膚と同じように腸粘膜は毎日新生し、脱落していることを考えて下さい。それは生理的に胎内でいつも行われているのです。君の話はどうも胎児の病態生理を知らないようですね」。
現代のアトピー流行は、この胎毒下しを行わないことに大きな原因がある。胎毒の少ない子供は母乳を飲みながら自然に排泄するが、これだけではいけない。一度胎毒下しを行っておかなければ、一二週間ないしは一二カ月ごろからアトピーが出ることが多い。そこで初めて治療に入るのだが、私はアトピー性皮膚炎とは呼ばずに「胎毒性皮膚炎」と呼んでいる。
・(小児はりでお子さんの胎毒体質を解消/小児はり師のいる鍼灸院)
胎毒(たいどく)とは・・・!?
『胎毒(たいどく)』とは文字どおり胎児の間に赤ちゃんの体に蓄積した毒素のこと。
毒素!なんて聞くと、ひどく有害な体質のように思えますがこの点はご安心ください。
胎毒は多少の差はありますが、ほとんどのお子さんが持っている体質なのです。
でも油断するわけにもいきません。
というのも、この胎毒は乳幼児~幼児期に起こるほとんどの病気の原因となる病気体質なのです。
胎毒が引き起こす病気や症状
新生児黄疸、 高熱・頻繁な発熱、頑固な夜泣き、熱性けいれん(ひきつけ)、乳幼児湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、突発性発疹、水疱瘡
などの症状の原因となります。
胎毒の蓄積がひどいと、以上の症状もきつくなったり、頻繁に症状を繰り返すことになるのです。
胎毒をウンチから追い出す=胎便(たいべん)
赤ちゃんの体には、胎毒を追い出す仕組みがあります。それはウンチです。産まれて初めてするウンチを胎便(たいべん)といいます。その胎便(たいべん)は特殊で、ウンチの色は黒~黒緑色。あまりの色にビックリするほどですが、そのわりに臭いは無臭に近く、通常のウンチとはまるで違う臭いです。
漢方医学では【胎便が出ること=体内の胎毒を排出する】という意味があります。
・(「漢方まんだら」より)
「胎便(カニババ)=胎毒」と誤解している人がいます。・・・漢方の先駆者であった石野信安先生や小川新先生などは「胎便=胎毒」説を唱えておられ、何となくそれが通説のようになってます。・・・江戸時代には「カニババ下し(甘草2 黄連・大黄・紅花1 連翹0.5g)」というものを煎じて綿に含ませ、赤ちゃんに吸わせたそうです。そんな風習があるは日本だけで、漢方の本場である中国にはありません。・・・中国ネットから“胎毒”を調べると、[ 嬰、幼児瘡疖、疥癬、痘疹等... ]の病名が当てられています。・・・このように小児胎毒とは主に小児湿疹を指していっている。・・・新生児の体は純陽であり、肺脾の功能が失調すると体内に湿熱を形成しやすい。
それが発散されずに体表で鬱結すると小児胎毒となり皮膚アレルギーの発症となったり、小児鵝口瘡や黄疸等の疾病になることもある。
漢方分野でも捉え方が異なることが判明しました。
小川新氏は「胎毒=胎便」説、小児はり師のいる鍼灸院さんは「胎毒≒胎便」説、ブログ「漢方まんだら」では「胎毒=湿疹」説。
用語は統一してほしいですね。
私としては、後者の「胎毒=湿疹」に一票。