徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

日本脳炎ワクチンの取り扱いを停止します

2011年10月06日 08時10分51秒 | 小児科診療
 最初に申し上げておきますが「ワクチン接種環境に問題があり接種ミスを誘発しやすい」という理由です。「日本脳炎ワクチンの副反応が危険」という話ではありません。

 最近、日本全国で日本脳炎ワクチンの過量接種事故(3歳未満に倍量接種)が後を絶ちません。

女児にワクチン誤接種 日本脳炎で適正量の2倍(2011年6月1日:福島民友ニュース)
誤接種:日本脳炎、1人に2倍の濃度 発熱などの可能性-八百津/岐阜(2011年7月3日)
2児にワクチン2倍接種(宮崎県)(2011年2月19日:毎日新聞)
2歳10カ月男児にワクチンを誤接種 群馬(2010年9月10日:産経新聞)


 なぜ繰り返されるのか、私なりに考えてみました。
 結論から申しますとミスが発生しやすい要因が複数存在することに気づきました。
 「予診表の不備」と「患者家族の勘違い」と「医療機関のチェックミス」の3つです。
 これらが組み合わさることにより発生した事故と認識するに至りました。

予診表の不備
 ご存じと思われますが、推奨される標準接種年齢は3歳以上となっています。これはあくまでも「標準」であり、実は生後6ヶ月から接種可能です。
 ただし、3歳未満では接種量が半分に減量されます。この知識は親御さん達には浸透していません。小児科医は知っていますが、希ながらそのルールを知らない医師も接種に当たっているようです(上記の岐阜県例)。
 しかし予診表の接種量の欄には「0.5ml」としか書かれていません。もし、この予診表を使うなら、3歳前に接種しないような工夫(3歳の誕生日に配布するとか)が必要です。
 ここが間違いやすいポイントであり、ミスを誘発する予診表の記載を改善していただきたいと思います。

患者家族の勘違い
 日本脳炎ワクチンは3歳になったタイミングでを予約するのが一般的です。
 もし3歳未満で接種希望の場合は、予約する際に「3歳前だけど海外で生活することになったので早めに接種したい」等と事情を添えて申告していただければ誤接種はまず起こりません。
 しかし、患者さん家族の勘違いで、例えば「どうせなら兄弟一緒に」と下の子の年齢を意識せずに申し込みされると、チェックをすり抜けてしまう可能性があります。

医療機関のチェック・ミス
 医院のチェックミスはあってはならないことです。当院では「予防接種・間違い防止の手引き」等を参考にふだんから十分注意してチェック体制を構築しているつもりですが、限られた時間の中で複数のワクチンを扱う現場では人間の能力に限界があり、スタッフは疲弊しています。

 次に過量接種してしまった場合の問題点を挙げます。

過量接種の問題点
副反応
 実際に倍量を接種しても局所の腫れと発熱の頻度が高くなることはありますが、重篤な副反応は報告されていませんので、過度の心配は無用です(メーカーに確認済み)。

補償
 過量接種してしまった場合の問題は「定期接種として扱われなくなる」ことです。つまり市町村の補助が無くなり任意接種扱い(実費)になります。
 そして何よりも問題なのは「保険での補償がなくなる」ことです。
 重篤な副反応の可能性はごく希だとしても、もし発生した場合は100%医院の責任にされてしまうのです。現場では神経をすり減らして接種に当たっているのに、ミスしたらフォローしてくれるどころかはしごを外されてしまう印象さえあります。本当に発生したら医院は潰れてしまいかねません。

 この事実を知ってから、私は日本脳炎ワクチンを扱うのが怖くなりました。
 以下の条件が整い、事故の可能性が低くなるまでは接種を控えることにしました。

接種間違い対策
・患者さん家族が「日本脳炎ワクチンを3歳未満で行う際は減量接種となるが、間違い接種が起こりやすい、そしてその場合は副反応が起きても補償されない」と認識すること。これは医院受診前に自治体が担当すべき啓蒙・教育です。
・予診表の記載が改善されること。例として「3歳以上は0.5ml、3歳未満は0.25ml」とわかりやすく記載されること等。予診表は各自治体が作成していますので、統一した見やすい記載に改善していただきたいと思います。


 ご迷惑をおかけしますが、開業医は零細企業故、過大なリスクを負うことができないことをご理解ください。
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