櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

オーネット・コールマンへ

2015-07-06 | ダンスノート(からだ、くらし)
来るべきもの、あるいは、いかなる終着点もなく、、、。

自由という言葉がヘタをすると安く薄く響いてしまう悲しさを感じ、しかし、本気で自由であろうとすればするほど苦しいほどに自立ということがついてくる、というのは、多くの方がご経験のことかもしれませんが、踊りを続けていると、自由なるものと向き合うこと、向き合う限り思い知らされ考えさせられることが、本当に沢山あります。

いま自分は自分の生に対して、自由であり得ているか。何かを勝手に決めつけてしまったり、自分で自分の決めつけた真実や正しさに支配されたり、自分が勝手に出してしまった生に対する意識に服従して、何が起きるかわからない未来から可能性を剥奪して、その代わりに安心安住安全を決め込んではいないだろうか。そんなことを考えさせられる瞬間がダンスには実に沢山、あります。

8月9日の長崎公演、11月7~8日の東京公演、そして、ごく短いながら出演を受けた今月19日のミニステージ(近日詳細を掲載)と、3つの舞場にむけて稽古を続けながら、上記のようなことを、またしても思う日々のなか、「いかなる終着点もなくはじめる」という、あれはどの録音解説だったか会見だったか、オーネット・コールマンのそんな言葉を、なぜか覚えていて、最近になってしきりにその言葉はカラダの奥にさえ届くほど、踊るときに聞こえて来るのを感じます。

いかなる終着点もなしに何かを始める。

それは僕にとってはダンスの態度そのものにも重なって仕方がないのですが、コールマンの音楽や発言の数々に出会っていなかったら、どうだったか、自分一人で、そう思うようになっていたか、それは分かりません。出会ってしまったのだから。

何かを始める多くの場合、社会は細やかに終着点あるいは目標つまりは予定的結論を準備しようとします。わからないまま進み、わからない場所を踏み越えて、またわからない方へ。というのは歓迎されない事が多いです。出演の機会や公演には言葉がつきまといますし、また、稽古するなかで、次々に言葉やら形やらが生まれてしまいます。テーマ、モチーフ、メッセージ、その他その他、、、。それらは必然もあろうけれど、それらに下手すると絡め取られて思考停止に陥ってしまいそうになったり、肉体を狭い場所に押し込められそうになったりすることも、ある。そうすると、踊りが始まるどころか、踊りに似た別物を捏造してしまうような気がします。言葉はきっかけに過ぎない、形は経過に過ぎない、それを答えにしてはならない、終着点にしてはならない。生まれたものを、いかに踏み越えてゆくか、瞬間瞬間を大切にするには。思いが湧く余白、考える余白、想像が始まる余白、未来という余白をいかに。そう思います。

共有すべきものは、完結し得ない響きや広がりなのではないか、とも。

あらゆる全て、わからないから面白い。次なんか明日なんか未来なんか、知らないから何かを始める。

そういう気分が、踊りながらそこはかとなく駆け巡るのは何故かしら。

ジャズミュージシャンのオーネット・コールマンが亡くなって1ヶ月が経ちますが、僕には喪失感がない。それは彼がまさに終着のない道を歩いていた人だからかもしれません。コールマンの肉体が亡くなってもコールマンの音楽が永遠の未完を響かせ続けているからかもしれません。

彼は音楽家と規定されているけれど、少なくとも59年の「来るべきもの」を聴いていると、それは音楽でありながらダンス。肉体の震えに聴こえてならないです。

6月11日、オーネット・コールマンはこの世を去った。85歳のアルトサックス奏者。

まだ大人になる前に出会ったのが良かったのかもしれませんが、コールマンからは、 思春期に大変な刺激を得ました。

The Shape of Jazz to Come「ジャズ・来たるべきもの」(1959)と題されたLPレコードを亡父から聴かされたのをきっかけに、コールマンの身体の震える音は、思えばダンスへの潜在的な種を僕のカラダに植えたのかもしれません。ひとり東京に来るときに実家から持ち出したレコードの一つ「来たるべきもの」は、今も聴き続けています。

いかなる終着点もなしに、彼の音は響き、僕のカラダの奥を叩き続けています。


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★2015年内、櫻井郁也のステージ予定★

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