環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

土のコレクション

2011-03-01 21:43:06 | 書籍紹介
先日浜松へ行った際に立ち寄った Tarminal of Books ~みんなで持ち寄ってつくる本の展覧会~にて、いくつもの楽しい、また懐かしい本の数々に出合いました。中でも感動したのが、この土のコレクション



土の美しさに見せられた著者は、全国を回って土を集め、そのコレクションは1万種以上になるそうです。土の採集の仕方に始まり各地で採集される土色の地域別の分析、更には土で紙を染めたり絵の具をつくったりという、遊び方までもが詳しく写真入で掲載されています。漢字には全てふりがなが振ってありますので、子供向けの学習書のようですが、とても専門的な内容ですのでむしろ大人がはまりそうです。

この著者ほど丁寧ではありませんが、CLIMATでも長年、調査の度に土や砂を集めています。試験管とコルクの蓋、ステンレス製のスタンドは東急ハンズで購入しました。この形式に至るまで、実に紆余曲折があったことをよく覚えています。長く保存することを考え、ケースはガラス製が良いだろうということはすぐに決まったのですが、『蓋が白いとおかしい』『この瓶はずん胴すぎる』等々、何度も所長からダメだしが続きました…。

現在のオフィスに引っ越す際、スタッフ一同が『土のコレクションをどこに・どのように展示するか』ということを“重要なミッションとして”考えていたことが懐かしく思い出されます。各自にも様々な思い入れのあるコレクションになっています。

この本との出会いが印象的だった理由は他にもあって、展覧会をお手伝いしていた文芸大の2年生(昨年度の生徒さん)が会場で声を掛けてくれ、『この本を見たとき、去年の授業で紹介してもらった試験管の土を思い出しました!』と言ってくれました。ものに対する美しさや印象深さの記憶が、こうして繋がって行くことをとても嬉しく感じました。



著書の中で、もっとも素敵だなと感じた一節。
『色鮮やかな土がある北陸地方。気になってあちこちを歩いてみたら、すごいところを見つけた。石川県鳳至郡の柳田村。能登半島の先端に近い、低い山々に囲まれた小さな村だ。ここにはひとつの村とは思えないほどの、きれいな土がたくさんあった。こんなにも何種類もの色があるところはめずらしい。村に住んでいる人たちがうらやましい。』

美しい色合いの土を探しに行く。そのような目的の旅もあるのですね。

土や砂の色はまさにアースカラー。関東育ちの私は、土色というと関東ロームの暗く黄味よりの茶色しか記憶にありませんでしたが、今ではその豊かさや巾の広さを知り、『暖色系の低彩度色』等とひとくくりにしてしまうことが勿体無い、とさえ感じています。

一つの世界の中にある微細な変化に出来るだけ目を向けること。そうした意識が薄れると、色が素材や形態から切り離され、薄っぺらな存在となってしまうような気がしてなりません。大地は食物を育て、動植物の命を育みます。それはすなわち、人間の命を支えているということに他ならない、とも思います。土色に囲まれるとホッとしたり穏やかな気持ちになったりするのは当然のことでしょう。

これからも益々、土色の新しい表現の可能性を探求して行きたいと思います。

建築の色彩設計

2010-12-24 19:00:49 | 書籍紹介
少し古い書籍になりますが、『建築の色彩設計(乾正雄著・鹿島出版会刊)』について。
『本書は建築色彩学の教科書、また建築の色彩設計のための参考書を意図するものである』と、前書きにあります。1976年に発行されており、私は入社して間もない頃、確か1993年くらいに読んだ記憶があります。

前書きには更に、『若い建築学生はしばしば色彩という分野に興味を持つ。しかし現在その興味に答える建築の建築学科に専門家がほとんどいないし、その結果として建築色彩の本がほとんどない。』とあります。

それから30年以上が経過した現在でも、建築やアーバンデザインの分野に比べると建築における色彩関連の出版物は圧倒的に少なく、状況はさほど変わっていないようにも思います。



このような書籍を参考書と考えるとき、時代背景というのも大きな意味を持つと思います。細かなデータを用いた内容は、当時随分と理論的であると感じたものですが、その後の30年における建築やインテリアの空間そのものや建材の変化と照らし合わせると、やはりある種の相違は感じずにはいられません。

そうした要素を差し引いても、この書籍に書かれている内容は現在でも大変参考になると思っています。
項目を挙げてみます。

・色彩の体系
・色彩の効果
・色彩調和
・光源の色と演色性
・色彩調節
・建築の色彩
・色彩設計法

何より、始めに色彩の数量化の必要性を説き、色彩の効果や調和のことについて記述されている点に大変興味を持ちました。後半では特に色彩設計法の部分で、『色彩設計の手順』が大変具体的に紹介されています。整ったカラーシステムの中から色を選び、整理していくといったまさに方法論がとても具体的に明記されています。
このプロセスの項については、後に自分なりのアレンジを加えながら現在の方法論を確立してきた、とも言えます。

漠然とですが、もし私が書籍を発行するとしたら、この内容にデザインの視点やここ30年間のまちなみや建材の変化なども加え、より実践的な実用書のようなものにしたい、と考えています。
このblogはそのためのたたき台のつもりで、書き溜めています。

この書籍、ここ半年ほど読み返したいなと思い探していたのですが中々発見できずにいたところ。先日の事務所内の大掃除により、見事発掘(?)に至りました。どうも大事にしまい込み過ぎていたようです。
年末年始、久しぶりに読み返してみようと思います。

Couleurs de la France(フランスの色彩)

2010-10-17 22:10:35 | 書籍紹介
フランスのカラリスト、Jean-Philippe Lenclos(ジャン・フィリップ・ランクロ)氏。地域には地域の色があるという“色彩の地理学”を提唱し、独自の環境色彩に関する方法論を構築された方です。私の師匠はランクロ氏のアトリエに研究留学をしていました。今から35年以上前のことになります。

ヨーロッパ全土、さらには世界各国のまちなみの詳細な色彩調査を実施し、その調査の様子や結果をまとめた写真集が3冊、刊行されています。残念ながら現在は絶版になっており、古書でしか入手できないようです。

全編フランス語ですが、各ページにはカラー写真や図版が満載で、私の中ではこれは立派な写真集の扱いです。今から10年以上前、シリーズ1巻目のフランスの色彩、2巻目のヨーロッパの色彩、合せて2万円位だったと思いますが、入手しておいて良かったと思っています。



購入した当時は、“ヨーロッパの街並みはなんて美しいのだろう”という思いが圧倒的であり、時折開いては自身が日頃眼にしている周辺の街並みとのあまりの違いに溜息をついたりしていました。2巻目のフランス全土になると、それぞれの街並みが本当に個性豊かで、美しい自然景観と共に風景画のようであることに心打たれたこと、今でも鮮明に覚えています。

ですが、3巻目の“世界の色彩”が発行されたあたりから、自身の環境色彩に関する考え方が変わって来ました。この世界の色彩には日本の街並みも紹介されています。室津という古い漁村なのですが、木造の住宅が建ち並ぶ日本の伝統的な街並みが、ランクロ氏の色彩調査によって紐解かれ、切り取られた色彩が美しいカラーパレットを構成しています。

ランクロ氏の色彩調査の手法(素材にも注視し、ミクロな視点で色を取り上げていく)は仕事を始めた時から教え込まれていましたし、日本の古い街並みの調査も体験していました。ですが、最初の10年くらいは『自分自身の眼では見ていなかったのかも知れない』、と今になって考えています。色々な情報や景観とはこうあるべきであるという思い込み、固定観念。その国や地域の歴史や文化に対する知識の少なさが見る眼を曇らせていたのだと思います。

そこにあるものをありのままに捉え、新しいものに繋ぐべき要素があれば、それを拾い上げ丁寧に磨いて汚れを落とす様な気持で、新しい素材や形に置き換えていく。まちは生きており、私が暮らす日本・東京という都市はその生き物としてのスピードが、若干(ある部分は相当)早いのだということ意識しなければなりません。
今を生きる自身の眼の前にある風景を、その成り立ちを正しく公正に見つめること。今はこの本を見返すたび、欧州に対する羨望ではなく、丁寧にまちを見ることの大切さを教えられる思いが強くあります。

色彩の基礎知識を学ぶにはこれ一冊で充分

2010-10-13 13:34:54 | 書籍紹介
書籍紹介のカテゴリーを新設しました。
特に建築や都市デザイン、ランドスケープに係わる人にとって、役に立つようなものをピックアップして行きたいと思います。

まずは基本中の基本、色彩とは?ということを学習するのに最適な一冊。私も今から10年以上前に購入し、その後改定版も購入しましたが、未だに時折開いては講義の参考などとして愛用しています。

カラーコーディネーター入門 色彩


設計者に最も必要な色彩の知識は、まず以下の2点だと考えています。
一つは、色彩の表示・伝達方法に関する内容。日本で採用されているJIS標準色票、この表記システムの元であるマンセル表色系等、“色のものさし”の種類や特性を理解し、色を測ったり比較したり、あるいは実際に色を指定する際に必要不可欠な事項です。

もう一つは色彩の心理に関する内容です。色彩の心理とは色の働きについてであり、“色がどう見えているか”という効果のことを言います。例えば先日紹介した辺縁対比や色の面積効果(同じ色でも面積が大きいものの方が明るく・鮮やかに見える)等、私達の生活の中でも日々目にしている色の見え方、その仕組みを知ることが大切だと考えています。

他にも、例えば地である背景の色によって図となる色の見え方が変わることや(同時対比)、環境の中で起こる“色彩は周辺の環境に影響を与え、影響されるという相互の関係にある”ことなど、いくつかの効果が挙げられます。これらの内容は色彩の見え方の特性であり、色彩はこのように常に周囲や背景との関係性によって捉えられる、ということをしっかり意識する必要があります。

この2点を充分に理解した上でないと、配色調和論はただの技法・手法となりがちであり、様々な規模や用途、場の特性を有する建築物等の色彩計画には応用が効かないのでは、と常々考えています。
基礎を学ぶにはシンプルなテキストが最適です。この書籍はカラー図版も多く、解説も最小限で非常にコンパクトにまとめられた一冊で、価格も手頃ですから特に学生にはお勧めの一冊です。

『色彩建築』 再読

2010-09-23 16:27:04 | 書籍紹介
1996年にINAX出版より刊行された、『色彩建築-モダニズムとフォークロア』を再読しています。
当時20代後半、登場する建築家の方々の名前に今ほど馴染みがありませんでしたが、再読してみると70年代から90年代までの変遷が非常にわかりやすくまとめられており、長く大切にしたい一冊です。

巻頭に長谷川章氏の“現代建築の色彩世界”という序文があるのですが、その中の一節。

“注目すべきは、『色彩論』の序文である。ゲーテは、「もし眼が太陽のようでなかったらら、どうしてわれわれは光を見ることができるだろうか」と語っている。すなわちゲーテは、人間にとって光や色彩がどう見えるかを解き明かそうと試みたのだ。繰り返すが、「人間の目に映る色彩」について言及したのである。
しかしこの色彩論は、後世の波長分析に基づいた色彩論に敗北し、近代に至って色彩は、単なる物理的な現象にまで堕落するのである。われわれにとって色彩とは、単に三原色の混合比で表現できるほど単純なものではないはずなのだが。”

当時この一文に大変同意を得たとを鮮明に覚えています。数値で色彩を管理し、調和のとれたバランスのよい配色を行うことができる、ということを知る一方で、日差しや照明の影響、天候の変化、空間における距離感や素材感との関係性など。
私達の目に映る色彩というのは非常に多様な要素が複雑に影響し合い、表れているということなのだと思います。

自身は近年特に、基本的な事項としてマンセル表色系の色彩体系を軸とした配色調和論をはじめ、建築や都市における色彩のごく当たり前の配慮点をいかに明確し共有出来る方法論を構築するか、ということに重きを置いてきました。しかし一方で例えば儚い色、滲み出す色、浮かび上がる色、というような現象として映しだされる色彩にも引き寄せられています。

授業の際に、空間の色をどう感じているか・体験してきたか、ということをよくテーマにするのですが、これは実のところ自身の中でも完全には明確に出来ていません。物体に付帯する色が三次元空間に立ち上がる時、私達は何を見、感じているのか。部材・素材と色彩の関係は、色彩の心理学的効果を超えた部分で、空間にどのような影響をもたらすのだろうか…。

複雑であるからこそ、丁寧な検証によってしか把握できないこともあっていい。言語や数値で共有出来ることの限界、もあって然るべきですし、例え体感しても感じ方が各々異なることも当然なのだろう、等と考えています。