特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

LIMITED

2008-11-22 15:05:56 | Weblog
「酒が美味いのは健康な証拠(?)」
また少しずつ晩酌を復活させつつある私。
日を置きながらチビチビとやっている。
そして、今年もまた〝にごり酒〟の季節がやってきた。
私がこれをこよなく愛しているのは、今までに書いてきた通り。
今、取り立てて飲みたくなってるわけでもないのだが、飲みたくなったときに備えて買い置きしておくことに。
よく行く酒屋の内、日本酒に強い一つに出掛けてみることにした。

一口に「酒」と言っても、その種類は膨大。
日本酒・焼酎・ビールetc・・・国産酒だけでも大した量。
ウイスキー・ワイン・ブランデーetc・・・輸入酒まで含めるともう大変。
一つの店では、到底揃えきれるものではない。
したがって、店は商品を厳選する必要がでてくる。
そして、そこに店主の商才と酒屋の特色が表れる。

この時に行った酒屋は、日本酒に力を入れている店。
洋酒に興味のない私には、お誂え向きの店。
私には高嶺の花である高級酒もあるけど、安価で味のいいものもふんだんに取り揃えられている。
そして、それに付いてくる店主のウンチクが、結構いい味を出しているのだ。

「おっ!?〝どふろく〟ですか?好きな人は好きなんですよねぇ」」
お互い、名前は知らなくても顔見知り。
店主は、にごり酒を持って店内を歩く私に近寄ってきて、早速声をかけてきた。

この店主。
趣味が講じて酒屋になったのか、酒屋になるために生まれてきたのか、はたまたそれも商才なのか、前記の通りやたらとウンチクが多い。
初めて会ったときは、「酔ってんのか?」と思ったくらいで、どんな客を相手にも構わず語り始める。

「〝にごり〟もいいけど、とっておきのがあるんですよぉ!」
店主は、いつものごとく話をスタート。
時間も興味もあった私は、それに聞き入った。

〝とっておきの酒〟とは、〝にごり〟ではなく清酒。
それは、日本酒好きなら誰でも知っているような有名酒。
ラベルばかりが光って味が伴わない有名酒がたくさんある中で、この銘柄はその類ではないことは私も知っていた。
しかし、その中でのグレードは並。
私の中では、わざわざ買ってまで飲む品ではなかった。

それが、〝とっておきの逸品〟になった経緯とは・・・
知名度も高く、そこそこに人気もあったその酒を、この店も長年に渡って常備。
ただ、売場スペースの問題があり、陳列できる数には限りがある。
店頭に出しきれないものは、バックルームの冷蔵庫に保管していた。
そんな日常業務の中、何本かが他の商品に混ざり冷蔵庫の隅に隠れてしまった。
そして、それは誰にも気づかれることなく、二年の年月を冬眠したのだった。

ある日、冷蔵庫を整理していた店主は、偶然にそれを発見。
記憶を掘り起こしてみても、そうなった経緯は思い出せず。
ラベルと製造年月を頼りに、その中の一本を試飲してみた。

「いや~!この味がスゴくてねぇ!ビックリしましたよ!」
「深いコクにトロッとした甘みが加わって、新酒のときにはない味わいがでてたんですよ!」
その表現のうまいことと言ったら、年季の入った落語家のよう。
その顔を見ていると、口に生唾がでてきた。

私の場合、晩酌のレギュラーは、缶チューハイ・缶ビール。
寒い時季になると、ビールと〝にごり酒〟がとって代わる。
清酒も好きなのだが、いいものは値が張るので、自分で買うことはほとんどない。
たまの頂きものをチビチビとやるくらい。
しかし、店主の話を聞いていくうちに、私の購買意欲はどんどんと刺激されていった。

「これを店に出すかどうか迷っててね・・・ま、出したらすぐに売れちゃうな!」
「〝にごり〟が好きな人の口には、間違いなく合うだろうなぁ!」
「これは、なかなか手に入れられないよ!」
店主は、自信ありげに断言。
その言葉は、商魂よりも親切心からくるもの聞こえてきて、私の気持ちは一気に傾いた。

「置いといたって腐るもんじゃないしな」
飲んでみないわけにはいかなくなった私は、秘蔵の一本を所望。
財布の中身をはたき、に結局、ごり酒と合わせて二本の一升瓶をブラ下げて帰ったのだった。


〝今だけ!ここだけ!貴方だけ!〟
人は、こんな文句に弱い。
何事も〝限定〟されると心を動かされるもの。
ありきたりの品物でも、〝限定品〟を名乗られると希少価値があるように錯覚してしまう。
それが、ありきたりの物ではなく、真に限りがあるものだとしたら、その価値は測りようがないくらい高い。

これは、人生・命についても言えること。
悠久の時の中では、人の一生なんて一瞬。
それはまるで、大砂漠に輝く一粒のダイヤモンド。
大海原に煌めく一滴の飛沫。
大宇宙に光る一筋の塵。
それほどに小さく儚ない。
その中にある、たくさんの泣き笑い。
その一瞬一瞬すべてが希少品。
その時しか、今しか手に入れられない逸品なのである。

時間だけでなく、一人一人も究極の限定品。
その顔一つとってみても、同じ顔を持っている者はいない。
地球上には、何百億もの人間がいるのに、同じ顔は一つもない。
顔に限らず全てがそう。
この地球上に、自分はたった一人。
自分に価値を見いだせず、虚無感に苛まれているとしても、誰にも測れない価値がある。
自分で測ってはいけない価値がある。


困っている人を助けるためではなく・社会貢献のためでもなく、金のため・生活のためにやっているこの仕事。
自分のためであっても、楽しいことより辛いことの方が多い。
正直言うと、この暗い場所から・冷たい風から逃れたくてたまらなくなるときも多い。
だけど、私のような弱い人間が、明るくて暖かいところに長居するのはマズいこと。
そんな所にいると、すぐに腐ってしまうはずだから。


今の今の今!本当に大切なものは何か?
家族か?健康か?金か?名誉か?仕事か?友か?自分か?
今の今の今!生きていること・生かされていることには意味がある。
生きていて体験することに、無意味なことなんてない。

酒が、暗くて冷たいところでその味に磨きをかけるように、私もその中でだからこそ生きられる・自分が磨かれている。
そして更に、生きること・生きていることを実感できているのだと思う。

いつも、知った風なことばかり書いているこの私。
この社会では負け犬かもしれないが、それでもまだ噛みつく力は残っている。
噛みつかなければならない相手は、世間でも他人でもはなく自分。
自分の死生観・人生観。

〝これだ!〟〝これでいい!〟
そう思える答はないかもしれない。
しかし、〝向上心〟なんて上等なものでも〝チャレンジ精神〟なんて熱いものでもなく、とにかく、何かを問い続け・何かと戦い続けていないと身を保てない自分がいる。


〝特殊清掃ブログ「戦う男たち」〟
二月に予告した通り、晩秋に身を委ねつつ、間もなく終焉。

美酒を口に転がしながら、
「最後は、どう締めようかなぁ」
と考えている私である。





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