決して〝通〟なわけではないけど、私は結構なラーメン好きである。
昼時になると、だいたいいつも
「うまいラーメンが食べたいなぁ」
と、無意識のうちに考えている。
汗をかく夏は体内の塩分が不足がちになるので、そのせいもあるのかもしれない。
どうだろう・・・一週間のうち2~3度はラーメンを食べているかもしれない。
ウ○コ男になっているときは、店や他の客に悪いんで遠慮しとくけどね。
仕事柄、私の外出先は毎日違う。
したがって、私が入るラーメン屋も色んな所の色んな店。
特定の店の常連になっているようなことはない。
車で走ってて、たまたま通りかかった美味そうな店に入るのだ。
一番多く食べるのは、とんこつ系。
味も好きなんだけど、とんこつ系の味は店の数が圧倒的に多いから、食べる数も自然と多くなる。
しかし、好きな味でも、度を越した脂ギトギト系は苦手。
しばらく前から、スープにたっぷりの脂を浮かせる店が多くなったような気がするけど、ラーメン界の流行?客の好み?
どちらにしろ、私の好みではない。
とんこつ系に反して、味噌や塩を食べることは少ない。
味が嫌いなわけではないのだけど、上に同じく、その味を専門とする店が少ないから。
味づくりが難しくて、商売として成り立たせにくいのだろうか。
東京界隈でも、〝ラーメン激戦区〟と言われるエリアがいくつかある。
どの店も、高いレベルで競っているようだが、有名店でも無名店でもどんな種類のラーメンでも、本当に美味しいラーメンは誰が食べても美味しいはず。
麺や具、店構えや雰囲気・演出も重要なポイントなのだろうけど、何よりもスープ!スープが要だと私は思う。
ある日の夜中。
枕元の携帯電話が鳴った。
もともと眠りが浅い私は、電話が鳴る前から覚醒していたかのように電話にでた。
「あのー、身内が死んだんですけど・・・」
「そうですか・・・死後どのくらい経ってましたか?」
仰々しい挨拶は省略して、私は、いきなり本題をきりだした。
依頼者の方も、社交辞令的な挨拶を望んではいないだろうし、お互いにとって夜中の電話に回りくどい挨拶は必要ない。
「〝10日くらい〟って
、警察から言われました」
「10日ですか・・・ニオイや汚れはヒドイですか?」
「ええ、ヒドイです・・・風呂場で亡くなってまして・・・」
過去に何度も書いている通り、風呂やトイレの特掃は格別。
この時も、汚腐呂の衝撃映像が脳を殴ってきた。
「ちなみに、亡くなってたのは浴槽の中ですか?それとも、洗い場ですか?」
「浴槽の中です・・・お湯に浸かったままで・・・」
「あ゛ー、そうですか・・・」
イケないパターンだった。
「ちなみに、溜まっている水はどんな状態ですか?」
「濁っていて・・・ラーメンのスープ状態です」「ラーメンの・・・スープ・・・ですか」
「ええ、まさに・・・」
「食べ物に例えるとは、なかなかの感性だな」
そう思いながら、口調を控えめにして尋いてみた。
「ラーメンのスープにも色々あると思いますが・・・」
「え~と、近いのは〝トンコツ醤油〟かなぁ」
「え゛!?と、とんこつ?」
通常の汚腐呂(汚腐呂に〝通常〟もへったくれもないか)は、醤油系が多い。
コーヒー色、コーラ色だ。
それが、〝とんこつ〟ときたもんだから、ちょっと動悸がした。
それが、〝脂ギトギト系〟なのか〝サッパリ系〟なのかも気にはなったけど、無神経すぎて、さすがにそこまでは尋けなかった。
仮に、尋いたところで、依頼者も応えようがなかっただろうし。
後日、私は現場に出向いた。
現場は、古い公営団地。
依頼者の男性とは建物前で待ち合わせた。
「ヤバイですよぉ」
男性には、身内の死を悲しむ素振りはなく、とにかく〝人間スープ〟の行く末に好奇心が駆り立てられているようだった。
男性から部屋の鍵を預かった私は、一人で現場へ。
玄関を開けると、早速に汚腐呂特有の生臭い腐乱臭が鼻に入ってきた。
「とんこつ醤油・・・とんこつ醤油・・・」
まるで呪文でも唱えるように、頭の中に〝とんこつ醤油〟の画が浮かんできた。
「ここだな」
目当ての浴室はすぐに分かった。
そして、自分に余計なことを考えさせないよう間髪入れずに扉を開けた。
「!と・ん・こ・つ・し・ょ・う・ゆ」
浴槽の中は、まさに〝とんこつ醤油〟状態。
しかも!私が苦手とする、脂ギトギト系。
その脂ときたら、まるでバターのようで・・・
ラーメンのイメージを下げかねないんで、これ以上を書くのはやめておこう。
私の場合、ラーメンのスープは全部飲み干さないで残す。
塩分と脂分が気になるんで。
しかし、人間スープは残してはいけない。
特掃の責任として。
さ~て、次は、どこでどんなスープと遭遇することになるのかな。
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。