弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

女は世界の奴隷か

2013年06月01日 | 音楽
 とても有名な曲だが、今まで歌詞にしっかり向き合ったことはなかった。たまたまYou Tubeで面白い動画を見つけて、ハッとする思いがして訳してみたくなった。

 http://www.youtube.com/watch?v=S5lMxWWK218 演奏は動画後半

 ジョン・レノンの「Woman is the nigger of the world」は、日本では「女は世界の奴隷か」というタイトルを付けられている。このタイトルが昔から僕は好きというか、適切な訳だと思っている。日本で「nigger」という言葉を使っても、なかなかピンと来ないからだ。
 欧米では、まさにこの「nigger」の語が当時物議を醸した(今でも、多少)。レノンに好意的な人達からさえ、何も差別用語の「nigger」を使うことはないじゃないか、黒人の身にもなってみろ、というような批判が飛んだわけである。しかし、わかる人にはわかるはずだが、レノンはniggerの語をあえて使うことで、差別する人間に対して物申すだけでなく、「差別はいけないことだ」とわかっているつもりの多くの皮相なリベラルな人達に向けて、そういうあなたがたも口に出さないだけで「常識」という名のこういう差別を隠し持っているんじゃないの、口に出さないことでそれが「ないこと」にしたいだけじゃないの、と挑発している。「リベラル」というより「ラディカル」(急進的<根源的)なレノンならではの行き方、なのだ。
 実際にはこの歌のアイデアはオノ・ヨーコがレノンに向けて言った言葉に依っていて、半分以上ヨーコの歌詞と言っても過言ではないものらしい。レノンは正直にも、自分がこれを言われた時には大いに反発した、だけどだいぶ時間が経って、ヨーコが正しいと気づいた、自分の中の男尊女卑的な考えを猛省した、と語っているのを何かの記事で読んだことがある。

 You Tubeで拾った動画(Dick Cavett ShowというTV番組出演時の映像)では、前半の対談部分でもう一つ重要な視点が出されていた。レノンが数々の批判に答える形で、ある投書(カリフォルニア在住の黒人男性?・・・英語がよく聴き取れないんで、違うかもしれないけど)を紹介している。レノンとヨーコにとって、まさに我が意を得たり、というものだろう。

"If you define niggres as someone whose life style is defined by others, whose opportunitiies are defined by others, whose role in society is defined by others, then good news!- you don't have to be black to be a nigger in this society. Most of the people in America are niggers."

「ニガー」の定義が、周囲の人達(圧力)によってライフスタイルを制限されている者、機会を制限されている者、社会における役割を制限されている者、だとするなら、グッドニュースがある!…ニガーになるには、別に黒人である必要はない。アメリカのほとんどの人間はニガーだ。

 然り、そして日本人も。

 そういうわけで、「nigger」を、ただ「黒人」と書いただけでは意味がないので、「被差別者」というニュアンスを強調するように訳してみた。

「Woman is the nigger of the world」

女は世界中で差別されている
そのことを考えてみろ
女は世界中で権利を奪われている
考えてみろ、何かできることはないか

男は女に化粧させ 踊らせる
女が奴隷になりたくないと言うと
俺を愛してないのかと言う
女がありのままの姿で生きようとすると
あいつは男になりたいんだと笑う

女は世界中で偏見を持たれている
嘘だと言うなら 君の彼女を見てごらん
女は奴隷の中の奴隷だ
そうとも でかい声で叫んでやれ!

男は女に子どもを産ませ 育てさせる
そして卵を産む太っためん鶏になるまで
部屋に置き去りにする
家こそが女がいるべき唯一の場所だと諭し
そのくせ友達の前で女が社交的じゃないと不満を言う

女は世界中で偏見を持たれている
嘘だと言うなら 君の彼女を見てごらん
女はどこまで行っても奴隷だ
そうとも それが真実だ

男は毎日TVで女をはずかしめる
そうしておいて
なぜ女は根性がなく頼りないのかとうそぶく
小さいうちから男は女の自由への願いを切り刻む
頭の切れる女は嫌われると吹き込みながら
女があきらめて唖になるよう仕向ける

女は世界中で偏見を持たれている
嘘だと言うなら 君の彼女を見てごらん
女はどこまで行っても奴隷だ
そう思うなら 大声で言うべきだ!

俺達は女に化粧させ 踊らせる
俺達は女に化粧させ 踊らせる
俺達は女に化粧させ 踊らせる
俺達は女に化粧させ 踊らせる
・・・・

※原詩はこちら
http://www.allthelyrics.com/lyrics/yoko_ono/woman_is_the_nigger_of_the_world-lyrics-953633.html

 僕はといえば、当たり前の話だけど、女性が子どもを産んで家事に専念しようと、化粧をしてセックスアピール丸出しで踊ろうと、それ自体が悪いこととは全然思わない。しかしそれが本人の意思でなく、「女性はそうするもの」という社会通念の押し付けによってそうなっていないかどうか、一度は掘り下げて考えてほしい、と思ってしまう。この歌は女性をそうした立場に追いやる身勝手な男性側を批判するだけでなく、女性の方に「本当に考えてみたことある?」と問いかけている面も、同じくらい強いはずだから。
 ちなみに、「どこまでが自由意志でどこからが押し付けか、はっきり線を引けるはずもないのだから、そうした問いかけは無意味である」といって話を済ませるのは、まさに男のがさつな思考にあぐらをかいているだけであり、決して分別ある大人の態度ではない。レノンが歌った当時から40年以上たった今でも、日本にはこの程度の輩がごろごろいて、いっぱしの社会人ヅラをしている。

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9 コメント

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心の壁、愛の橋 (BLOG BLUES)
2013-06-07 04:31:10
わんばんこ。チャーミングなエントリですね。

僕は若い頃から女性崇拝で、それも裏返しの女性蔑視と口撃されては、うなだれるほかない。

でも、原始、女性は太陽であり、今も僕のなかでは、そうなのであって。自分の心に、嘘はつけない。
Re:心の壁、愛の橋 (civil_faible)
2013-06-14 17:16:34
そう、僕も昔そうだったけど、「俺はむしろ女性崇拝だから」なんていうのは浅はかさを指摘されるパターンですね(笑)。すでに女性を下に見るようにできてしまっている社会で、具体的にお前はどう闘っている?という話ですからね。
同感です (ハウスキーパー)
2013-07-13 20:41:34
日本共産党は、発足当時から
   ハ  ウ  ス  キ  ー  パ  ー
と称して、 男性党員に対する、
   性  と  家  事  の  奉  仕
を義務付けていたね。小林多喜二 「 党生活者 」 や片岡鐵兵 「 愛情の問題 」 、婦人公論1933年3月号で問題視されたハウスキーパー問題
>同感です (レイランダー)
2013-07-17 09:22:18
へえ、そうなんですか。今はやめちゃったんですか?
いずれにしろ、そういうことを党から義務付けられるなんて、大きなお世話ですよね。レノンは一時期「主夫宣言」して、子育てに専念してましたが、それはもちろん自発的というか、自分でしたいからカミさんと話し合ってそうやってただけでね。

で、僕のエントリーのどこに「共感」なんですか?
Unknown (ハウスキーパー)
2013-07-28 00:41:18
「女性はそうするもの」という社会通念の押し付けによってそうなっていないかどうか、一度は掘り下げて考えてほしい、と思ってしまう。ということろに共感です。

平塚らいてう氏も平塚、婦人公論』1933年3月号131頁より「女性共産党員とその性の利用」と題した記事において、
『過日「東朝」神上で、女性共産党員たちが、党の資金調達のために、党資金局の指令をうけて、その性を売つた形跡のあるのを、女性としての自覚を全く欠くものとして抗議したのに対し、多くの識不識の同性のかたがたから共鳴の言葉を送られたのにはわたくし自身も意外とするほどした。 (紹介にあたる部分を省略)これによつても共産党が、その運動に女性の「性」をああも露骨に、極端と利用したこと、そして婦人党員の幾人かがその犠牲となって踊らされたといふことは一般女性の本能的な憤激と憎悪とを買つたことが十分察せられるやうに思はれます』 (一部漢字修正、省略部あり)という言葉から始まる「党のために犠牲となった婦人党員たち自身の性思考について」が述べられており、「新時代の新しい型の男性奴隷」であるとし、「女性としてのはつきりした自覚をもち、女性の立場にしつかりと足を踏みしめて、社会運動に参加してほしいと思ひます」と締めくくっている。
>ハウスキーパーさん (レイランダー)
2013-08-01 08:03:13
「共感するところ」と引用した文章の間の、つながりがわかりにくいですね、正直言って。戦前の共産党が女性の性を利用したのも社会通念が背景なら、それに対して「多くの識不識の同性のかたがたから共鳴の言葉を送られた」のも当時育ちつつあった社会通念ですからね。

それと、なんでそんな古い記事を持ち出す必要があるのか、違和感が拭えません。僕らの同時代の話にはないんですか?
考えさせられました。 (SHUN)
2013-08-04 01:03:58
こんばんわ、

話のコシを折るようなコメントをしてしまって
申し訳ありませんが、(^^;)

エントリを読んで、
女性差別問題ってもしかすると、
全ての差別の根源に位置しているのかも
という思いにさせられました。

僕たちが身近にある
女性差別問題と向き合って
それを解決へと導いて行くことによって、
もしかしたら、
今ある全ての差別問題が解決されるんじゃないか・・と

ちょっと粗雑な考え方かもしれませんが。
>考えさせられました。 (レイランダー)
2013-08-11 00:07:36
SHUNさん、ありがとう。
粗雑なんかじゃありませんよ、むしろ素直な、根本的な、それこそ言うなら「レノン的な」ご意見だと感じます。

遅ればせながらブログ、ブックマークに加えさせてもらいました。それにしてもすごいですね、こういう趣味というか特技があるなんて。手先ド不器用人間の僕には到底真似できない・・・。
>レイランダーさん (SHUN)
2013-08-11 21:40:29
ありがとうございます。

レノン的な と言われると、
何だか照れくさくなるのを通り越して、
恐縮してしまいます。(汗)

ブックマークへの追加、ありがとうございます。
私の方からもこちらのブログをリンクさせて頂きます。

私のブログは
とても人様にお見せできるようなものではありませんが、( ̄▽ ̄;)
今後、精進していきますので、
どうぞ、よろしくお願いいたします。

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