弱い文明

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『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』②

2007年04月22日 | 書籍
 捕鯨問題と本書『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』に絡んで、一般に誤解されていると思われる、あるいは誤解されがちな点について補足的に記しておきたい。
 この問題に詳しい人にとっては今さらな、基本的なことばかりだろうが、僕も含めて大多数の日本人にとっては、この問題に関する明らかな情報統制・情報操作のために、肝心な論点が伝わりにくい現状がある。毎年6月にIWC(国際捕鯨委員会)の年次会合が行われるが、そのたびに大方のメディアを通して入ってくるのは、日本を無垢な被害者のように捉える視点からの報道がほとんどである。今年あたりはさらに国家主義的・民族主義的色彩の濃い主張がくり広げられそうな予感があるので、念には念を入れたくなる。まあ僕の下手な文章より、星川氏の本を読んでもらった方が全然早いのだけど。

○星川氏および、氏が現在事務局長を務めるグリーンピース・ジャパンは、無条件にクジラを殺すな・食べるなと主張しているわけではないこと。
 このことは、全世界規模のネットワークであるグリーンピース全体の中では温度差があるのも確かだが、少なくとも日本支部であるグリーンピース・ジャパンが主張しているのは、むしろ沿岸漁業を再興し、その中でつつましくクジラを獲ることのできる環境の実現である。つまり、厳密には「反捕鯨」ではない。星川氏は、水産庁の役人とこのヴィジョンを共有できるという見通しすら持っている。現にそういう状況というか、条件が揃ってきているからである。そのことも本書を読めばわかる。

○現在日本が行っているのは、IWCの規約上認められている「調査捕鯨」を拡大解釈した日本流の「調査捕鯨」だが、その実態は限定的「商業捕鯨」である。ものすごく簡単に説明すれば、ミンククジラなど一部の鯨種は殺しても差し支えないことを証明するために、実際に毎年千頭も殺して、殺した後は有効利用しなければならないことが規約で決まっているので、肉などを国内の市場に流している。もちろんIWCはそんな「調査」を頼んだ憶えはなく、逆に毎年「やめてくれ」と言っている。また「一部の鯨種」の中に、実際には絶滅危惧種のナガスクジラ、絶滅危急種のザトウクジラも含まれている。
 何度もくり返すようだが、日本はそれを沿岸および北西太平洋だけでなく、IWCが保護区と定めた南極海という公海でおこなっている。

○このいびつな「国営捕鯨」を支えているのは、水産庁捕鯨班とタッグを組む日本鯨類研究所である。「鯨研」は国庫補助金と調査捕鯨の副産物、つまり鯨肉の販売収入で運営されている。
 「鯨研」の手足となって動くのが、かつての商業捕鯨最盛期を担った大手水産会社が統合された「共同捕鯨」を前身とする現・共同船舶株式会社である。またその下で鯨肉消費促進を図るために去年設立されたのが「鯨肉ラボ」という合同会社である。さらにこれらを、前回も触れた自民党捕鯨議員連盟などが「官民一体」の名のもと、後押ししている。
 だが、それでも鯨肉はだぶついている。そのため、自衛隊や学校の給食への導入も考えられている。また、かつて販売の主体であった民間の水産会社は、すべてクジラに見切りをつけている。採算がとれないからだ。

○上の話に絡んで、もし世界で商業捕鯨が解禁されれば、逆に日本の捕鯨は労働力の安い外国に太刀打ちできず、崩壊する。輸入大国になるしかない。
「ようするに、日本政府はこのまま“調査捕鯨”で一定の鯨肉供給を維持したいのが本音と断定していい。もっとあけすけな本音は、捕鯨官僚や捕鯨議連の一部が口をすべらすように、「沿岸捕鯨の鯨肉は汚染がひどいから、クリーンでヘルシーな南極海のクジラをどうぞ」というところだろう。」(P194)

 さらに「捕鯨は日本の伝統」という観点についても、様々な角度からその非現実性が指摘されているが、本書で星川氏も参照している渡邊洋之氏の『捕鯨問題の歴史社会学』(東信堂、2006年)という本を、ぜひとも合わせて紹介しておきたい。古代から現代に至る日本の捕鯨の歴史、特に明治以降「近代」に入ってからの「歴史」を慎重に分析し、これが「日本の伝統」と呼べる代物ではないことを論じている。
 簡単に言えば、近世までの(局地的な)沿岸捕鯨の伝統と、明治時代の「ノルウェー式捕鯨」導入後に形成された歴史とでは、あらゆる点で断絶がある。また一方で、昔の多くの漁村では、クジラは大漁をもたらす「神」として獲ることを禁じられていたり、魚ではなく動物という認識が昔からあったため、その肉を食べることが倫理的に(仏教の影響もあり)良くないとされていた「伝統」もある。渡邊氏の著書は、そうした日本人の意識の問題や、歴史の「複数性」に焦点を当てているところが面白い。いずれにしろ、こういったことが現代の日本人の意識にはなかなか上らないのはなぜだ?という問題もあるわけだ。
 本来はかなり専門的でむずかしげな本だが、星川氏の本書を読んで概要をつかんだ後なら、結構わかりやすいと思う(もちろん、「伝統だ」と言えばなんでも許されるわけではない、という当たり前の話も忘れるべきではない)。

 くり返し、僕がこれだけははっきりさせておきたいと思うのは、捕鯨問題は「文化摩擦」の問題なんかじゃなく、「環境問題」であるということだ。ただ、その「環境」には、海の生態系環境だけでなく、僕らを取り巻くメディアという「環境」も含めて考えなければいけないだろう。だからわざと「」をつけている。


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2 コメント

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Unknown (ken)
2008-06-22 16:26:18
 この書に対して心酔されている様子ですが、捕鯨問題に関する一般的な知識が欠如されている様子ですので、もう少し勉強してからもう一度レビューされることをおすすめします。

 また、グリーンピースなる環境テロリスト集団が、今までどういう主張をしてきているかを、勉強なされた方があなた自身恥をかかずにすむと思われる。
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怒りを抑えきれなければ (レイランダー)
2008-06-22 19:08:56
内容がなくても言うだけ言ってみる、というのが電波人間の作法なんですね。わんだふる。
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