町長のひとり言

和食店料理長の『ひとり言』

老夫婦

2010年10月26日 | 町長
久しぶりにブログをと思い、自分の前のブログを読み返した。
いや、恥ずかしいね~っ
だいたいブログ書き込むのは朝方、酔っぱらってる時が
多いので感情が入りすぎるんよね。(笑)
まあ、誰が見てるって身内みたいなやつらが数人しか
見てないから別にいいんやけど。(笑)

ところで、ひと月ほど前から私はバイトを始めました。
そろそろ本気で自分の店を出すことを
考えなければいけない年齢になりました。
店以外に二件の飲食店で、こちらはホールの仕事なのですが
スーツにネクタイとか、ベストに蝶ネクタイなどという
笑える恰好で働いています。(笑)
おかげで寝るひまはありません。
ということでブログもなかなか更新できないわけです。(笑)
とりあえず近況報告。



今日の本題はこんな話ではないんです。




今からそう、15年以上前のお話・・・。
そのころ僕はサラリーマンをやめて、まだ板場として駆け出しの頃。
当時はまだ包丁もろくに使えず、営業時間はホールをやっていました。
店は2階にあったせいか、常連さんがほとんどのお店で、
まだまだ若くこれからだった二十歳の俺はたくさんのお客さんに
かわいがっていただきました。


ある日、初めてのお客さんで歳はそう65歳ぐらいだろうか。
男性が一人でいらっしゃった。
当時、一人でのお客さんも珍しくはなく、カウンターに座られ
お食事されながら色々話させていただいたものだ。
そのご老人は某タクシー会社の社長さんでありながら
なんとも腰の低いお方で、俺のような若僧にまで深々と
ごちそうさまと頭を下げられるような気さくなかただった。
その方は店を気に入っていただいたようで、それから何度か
いらっしゃいました。
何度目かのご来店の時、今度は奥様にも美味しいものを
食べさせてやりたいのだがと話され、次は二人で来ると言って
帰られた。


そして数日後、なんともお似合いの奥様とお二人でいらっしゃいました。
本当に羨ましくなるような、素敵なご夫婦で、とても仲良く
お食事されて、満足げにありがとうと言って帰られたことを
今でも覚えている。
そしてそれからその方はパタッと来られなくなりました。

それから半年?、1年ぐらいが過ぎたでしょうか。
ふっとそのお客様がまたお一人でいらっしゃいました。
でもその方はもう前のような笑顔ではありませんでした。
どこかやつれた様にも見えました。そして一言、
「うちの家内が色々お世話になり、ありがとうございました。」
そう言って深々と頭を下げられました。
この時、従業員全員が奥様が亡くなられたんだということを
知りました。
実は、前々からお体が悪く、最後に美味しいものを
食べさせてやりたくてここへ連れてきたのだと。

その方に笑顔はありませんでした。
きっとここへ来るのも辛かったことでしょう。
それからその方は来られなくなりました。


あれからもう15年以上が過ぎました。
夜、9時近く。
店がひと段落した頃に珍しくお客様がカウンターに入られた。
裏の厨房からカウンターに出てみるとそこには
当時と変わらないままのその方がいらっしゃいました。
もちろん、その方は俺がいると知ってて来られたわけではない。
ビールをお出しする時に昔の店の話をしたら
いまだに覚えていたことにびっくりされていた。
そして笑顔でそうか、そんなに前になるかなと
目を細められた。
偶然にせよ、またこの方に会えてよかった。
会いたいとずっと思ってた。
思い続ければいつかきっと会える気がする。



その方はお食事をされ、また来ると言って
深々と頭を下げられ、ごちそうさまと言って笑顔で帰られました。