オランダ絵画によせて:ユトレヒトのカラヴァジェスキ

 

 「カラヴァジェスキ(Caravaggesque)」というのは、カラヴァッジョに影響されて、その様式に沿って絵を描いた画家たちのこと。
 オランダ絵画には全般に、レンブラントにせよフェルメールにせよ、カラヴァッジョの絵画表現、特に強烈なコントラストによる明暗効果を見出すことができるのだが、そのつなぎとなったのがユトレヒト派。ヘンドリック・テルブルッヘン(Hendrick Terbrugghen)、ヘリット・ファン・ホントホルスト(Gerrit van Honthorst)、ディルク・ファン・バブレーン(Dirck van Baburen)の三人衆が主だそう。
  
 カラヴァッジョが活躍し、バロック絵画の幕開けの舞台となったローマでは、カトリック教会がその絵画のパトロンだった。オランダのユトレヒトは、ローマと同様、カトリックの優勢な地だったらしい。
 そのせいか知らないけれど、ユトレヒトの画家たちがてくてくとローマまで赴いて、そこでカラヴァッジョ絵画に接し、またてくてくとユトレヒトまで戻って、カラヴァッジョと同様の主題で、同様の庶民的描写や明暗処理の特徴を備えた絵を描いた。

 他方、ユトレヒト派の絵が全般に、カラヴァッジョよりも色調が明るく、鮮やかなのは、ユトレヒトの画家たちが師事したマニエリスムの画家、アブラハム・ブルーマールト(Abraham Bloemaert)の影響であるらしい。

 彼らは宗教画も描くが、自然な風俗画も描く。三人衆のなかでは、私はテルブルッヘンの絵が一番好きかな。色調が落ち着いているし、明るい背景のなかに暗い人物を対峙させる描写も趣がある。こうした処理は、フェルメールらデルフト派にまで影響を与えたのだという。
 カラヴァッジョの絵は、イタリア絵画って雰囲気そのままだけれど、ユトレヒト派の絵は、やっぱりオランダ風に見える。

 画像は、テルブルッヘン「フルート奏者」。
  ヘンドリック・テルブルッヘン(Hendrick Terbrugghen, ca.1588-1629, Dutch)
 他、左から、
  テルブルッヘン「合奏」
  テルブルッヘン「二重奏」
  ホントホルスト「女衒女」
   ヘリット・ファン・ホントホルスト(Gerrit van Honthorst, 1592-1656, Dutch)
  ホントホルスト「ワイングラスを持った幸福なバイオリン弾き」
  バブレーン「口琴を弾く男」
   ディルク・ファン・バブレーン(Dirck van Baburen, c.1595-1624, Dutch))

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