陽気なM一家(続々々々々々)

 
 ミハイルが、日本のお金を見たいという。日本に興味があるフリをして、日本の金を見せてくれと頼み、見せてもらったうちの紙幣だけを巧妙に抜き盗るという詐欺があるそうだが、お金を見たいという好奇心自体は存在するものらしい。
 で、安直に、五円玉を出して一人一人に献上する。穴の開いた五円玉は、みんな本当に珍しがる。ミハイルは五円玉を天にかざして、穴から空を覗いている。

 ミハイルの友人が、お返しだ、と言ってユーロ硬貨をくれる。いくらこちらが東洋人とはいえ、ユーロ圏を旅している以上、ユーロ硬貨くらいいくらか持っているのが普通なのだけれど、そんなことにはエストニア人は頓着しないらしい。

「こりゃ貰えないよ。貨幣価値が全然違う」
 相棒が本気で困っている。市場のルールを重んじる彼にとって、不等価交換は主義に反するのだ。
 五円玉はチープなのだ、このユーロ硬貨に見合う価値のものではないのだ、と相棒が説明しても、友人は「いいんだ、取っておいてくれ」と受け付けない。

「何かないかな、他に何かあげられるものは……」
 相棒、必死で小銭入れを掻き混ぜる。
 ユーロ硬貨は発行する国ごとに絵柄が異なるので、子供の趣味レベルだがコインを収集している相棒は、新しい絵柄のものをゲットするたびごとに、同じ絵柄のよりピカピカなものを再ゲットするまで、それを取っておく。ので、相棒の小銭入れには、使う気のない各国発行のユーロ硬貨と、これも使えないラトビア・ラッツと日本円の硬貨が、無駄にジャラジャラと入っている。
「あ、あった! これなら同じくらいの価値だぞ」

 相棒がようやく取り出したのは五十円玉。五円玉と似たり寄ったりの珍しさで、穴の開いた白銅貨を眺めるエストニア人たち。が、これを受け取ってもらえたことで、相棒の良心は静まった。

 さて、ミハイルたちと握手して別れる。チェックアウトの際、ロシア語を話した相棒に、今まで無愛想に英語で案内していたペンションの夫君、
「なんだ! ロシア語を話せたのか!」
 途端に愛想が好くなって、最後の最後で笑顔を見せた。

 To be continued...

 画像は、パルヌ、旅先のエストニア家族。

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