陽気なM一家(続々々々々)

 
 食堂には台所がついていて、私たちは知らなかったのだが、宿泊客が自由に使って料理できる。冷蔵庫には大量の缶ビールが冷やしてあるし、鍋には湯のなかで大量の卵が茹だっている。

 中庭にはブランコや砂場があって、子供連れの客が遊べるようになっている。相棒はミュリーナちゃんに、「遊んで」と声をかけて、ドッジボールの投げ合いを始めた。
「心をキャッチボールするんだ!」と大はしゃぎの相棒。
 でも、若い子を舐めちゃいけない。相棒がポン! と投球すると、ミュリーナは胸許で捕球したその両手で即座にパッ! と投球してくる。相棒もそれを真似るものだから、ボールは二人のあいだを、鬼のように猛烈な速さで、ポポポポポ! と際限なく往復している。

 私はと言えば、黙々と砂場にしゃがみ込んでいた小さな坊やのそばに行って、一緒になってしゃがみ込んだ。この子がマキシムだな。大きな眼に長い睫。金髪の巻き毛がほわほわと柔らかそう。
 坊やは訳の分からない片言の言語で私に喋りかけながら、スコップでぎこちなく砂を掘っていたが、私が「ダー(=イエス)」としか返事をしないので、やがてスコップとバケツを両手に引きずって、お母さんのいる自分の部屋へと帰ってしまった。

 なので私は、今度は乳母車のそばに行ってしゃがみ込む。赤ちゃん坊やがアー、ウー言いながらもぞもぞと動いている。
 この子がマルクだな。青灰色の大きな眼。金色の長い睫。キメの細かな肌は透き通るような甘酒の白で、頬っぺたは熟れた桃のようなピンク。わーい、私、白人の赤ちゃんをこんなに近くで見たの、生まれて初めて!

 赤ちゃんを触らせてもらえるのは久しぶり。おしゃぶりする指だけ遠慮して、あちらこちらを繰り返し触る。いかにも柔らかそうな頬は、触ってみると、しっかりと硬い。指をプニュッと押し込めない。

 ミュリーナちゃんの若い体力に圧倒された相棒が、息をゼーゼー切らしながら休みに来た。缶ビールを飲んでいたミハイルが、相棒は飲まないし好きでもないビールを一本くれる。ミハイルの友人も、つまみに笹かまぼこ(?)をくれる。
 好意を無にするわけにはいかない、と俄か飲ん兵衛になる相棒。人の好いエストニア人は何やかやと世話を焼く。

 To be continued...

 画像は、パルヌ、海岸の湿原。

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