カレワラを描いた画家

 

 昔、亡き友人が、「どこか森と湖しかないところで何かに没頭できたら最高だろうな」と呟いたことがある。
 以来、私は森と湖の国を探している。ノルウェーあたりがそうなのだろうと勝手に思い込んでいたのだが、どうも世間では、森と湖の国と言うとフィンランドを指すらしい。

 フィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラ(Akseli Gallen-Kallela)はフィンランドの国民的画家。シベリウスが同国の民族叙事詩「カレワラ」を題材に作曲したように、ガッレン=カッレラも生涯、「カレワラ」の連作を描き続け、民族的アイデンティティを喚起した。

 私は「トゥオネラの白鳥」くらいしか知らないのだが、相棒はシベリウスのその手の曲を全部知っていて、自分のことを、武術・魔術ともに優れ、ハンサムで陽気で我儘な女たらしの神、レンミンカイネンだと思っている。
 読もう、読もうと思ってまだ読んでいない「カレワラ」だが、以前、図書館のリサイクル会場で児童版のものを見つけたので、つい持って帰ってきた。で、読まないでいるのを、あるとき突然、相棒がペロリと読んでしまった。さすがレンミンカイネン。

 子供の頃から絵の道に進もうと決めていたガッレン=カッレラは、反対していた父親が死んだ途端に画学へと転向。パリでは同郷の画家、アルベルト・エーデルフェルトとも親交を結んだ。
 妻とともにカレリア地方を旅行し、その頃から「カレワラ」のための取材を始める。「カレワラ」はもともと、カレリア各地に伝わる伝承を編んだもの。カレリアはフィンランド人にとって原風景であり、精神的な故郷なのだという。

 「カレワラ」のロマンチックな情景を描いていたガッレン=カッレラだったが、娘の病死をきっかけに、神々の戦いや復讐、死、等々へと絵のテーマが激化。パリ万博では、ロシアからの祖国独立を訴えるメッセージがはっきりと見て取れるフレスコ画を描いて、国際的な名声を決定的にした。1918年には自身、フィンランド内戦に参加している。

 彼はアフリカに行ってはそこの原始美術、アメリカに行ってはそこの原始美術に傾倒しかかるのだが、すぐに、フィンランドこそが我が霊感なのだ! とはたと気づいて、祖国へと帰っていく。
 ガッレン=カッレラに限ることではないが、祖国への誇り、その祖国が抑圧されることへの忍耐と悲憤には、物凄いものがある。

 画像は、ガッレン=カッレラ「巨大な黒キツツキ」。
  アクセリ・ガッレン=カッレラ(Akseli Gallen-Kallela, 1865–1931, Finnish)
 他、左から、
  「少年と鴉」
  「サンポの鍛造」
  「サンポの防衛」
  「レンミンカイネンの母」
  「カイスリッコ」

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