赤い子馬

 
 一昨年の夏、野辺山の牧場に泊まって馬に触れてから、すっかりお馬が好きになってしまった私。馬にはきっと知性がある。心もある。とても優しい眼をしている。あー、お馬っていいなー。
 
 スタインベック「赤い子馬」は自叙伝的な短編集。10歳になるジョーディ少年の、牧場の日々の生活のなかでの、喜びと悲しみを描いている。ただそれだけと言えばそれだけなんだけど、少年特有の感性が捉える世界のきらきらした印象と、サリナスの美しい自然とが相俟って、好もしく感じる。
 自然のなかでの少年が主人公なだけに、スタインベックの他の作品のような、貧困にがんじがらめになった牧場労働者の袋小路や、肉親同士の愛憎なども、さすがにないからいい。

 少年が、父から贈られた赤い子馬に、サリナスの山脈の一つをとってギャビランと名づけ、愛情を持って熱心に世話をするのに、雨に濡らせたのが原因で子馬を死なせてしまう。子馬を手に入れた喜びとそれを失った悲しみが、厳格な父、優しい母、気のいい雇い人を交えて描かれる。少年にとって世界には、サリナスの自然と牧場のほか、これら数少ない家族しか存在しないのだけれど、少年は少年らしい好奇心で、旺盛にその世界を我がものとしていく。
 ある日忽然とやって来たパイサーノ(スペイン人、アメリカ土人、メキシコ人その他の混血)の老人が、死を待つばかりの老いぼれ馬とともに連山に去っていった話、大陸横断とインディアンの思い出ばかりを繰り返し周囲に聞かせる西部開拓者の祖父の話など、すべてが少年の一つの印象となって、少年の心に刻まれていく。

 サリナスはアメリカのカリフォルニアの二つの山脈に挟まれた、谷あいの町で、牧場が広がっているらしい。アメリカって嫌いなんだけど、行く機会なんてあるかな。

 画像は、ブーダン「飼葉桶の白馬」。
  ウジェーヌ・ブーダン(Eugene Boudin, 1824-1898, French)

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