ギリシャ神話あれこれ:ヘクトルの邀撃

 
 戦争には、とかく自由意志というものがないわけで、兵卒はただの駒だし、大将だって、なまじ真面目で責任感なんかが強いと、逃げるに逃げれず、自業自得でもないのに戦場に引っ張り出されることもある。

 ヘクトルはおそらく、父王プリアモスの名君としての人格を受け継いだのだろう。彼はギリシャ神話には珍しく、ほとんど欠点のない人間。その分、影が薄くはあるが。
 
 長子アイサコスが、崖から海に身を投げてしまったため(カイツブリになった)、トロイア戦争の際には、長男のヘクトルが、老齢のプリアモス王に代わって、総大将としてトロイア軍を指揮する。
 良妻アンドロマケと、幼い息子アステュアナクス。何の問題もない生活は、突然現われた弟パリスがしでかしたヘレネ誘拐によって、一変する。王子としての責任から総大将となり、戦う以上はトロイア一の武勇でもって勇敢に戦う彼だが、やはりパリスに対しては、やりきれないのか、たしなめる以上に罵りもした。他方、ヘレネのことは、父王同様、最後まで庇ってやった。

 ヘクトルは善戦したが、アキレウスの親友パトロクロスを討ち取ったために、アキレウスを鬼神のごとく激怒させ、一騎打ちの末に倒れる。彼の屍はアキレウスによって戦車に繋がれ引きずりまわされるが、父王プリアモスがアキレウスに慈悲を乞い、それを引き取って埋葬した。
 トロイア陥落後、ヘクトルの忘れ形見アステュアナクスは、ヘクトルを殺したアキレウスの息子である、ネオプトレモスによって惨殺される。そして妻アンドロマケは、このネオプトレモスの戦利品となる。

 憐れ、ヘクトル。

 画像は、ダヴィッド「ヘクトル」。
  ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David, 1748-1825, French)

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