ギリシャ神話あれこれ:牝牛になったイオ

 
 小学生のとき、星座に興味を持った私は、学校の図書室に行き、その手の本を探した。そして、確かに「星座の話」と題名のあるシリーズ本を見つけた。
 が、それは星座を解説する科学本ではなく、星座が由来する物語、つまりギリシャ神話の本だった。いつまで経っても星座が出てこないなー、と思いつつ、それでも私は図書室に通いつめて、何週間もそれを読んだ。そのうちに、気づくとギリシャ神話にハマっていた。
 これ、10歳になる前くらいのこと。

 ヘラの神殿に仕える、イオという美しい巫女がいた。ある日彼女は、ゼウス神に身を任せよ、という神託を受ける。
 ゼウスは妻ヘラの眼をごまかすため、黒い雲に姿を変えて彼女を訪れ、想いを遂げる。が、夫の不在中に突然、野の一箇所にだけ黒雲が現われれば、猜疑心の強いヘラでなくても察しがつくというもの。
 ヘラが現場に駆けつけると、ゼウスは慌ててイオを純白の牝牛に変えて、知らん振りをする。で、ヘラも知らん振りして、その美しい牝牛を頂戴な、とせがむ。薄情にもゼウスは、牝牛イオをヘラに渡してしまう。
 
 さて、ヘラは百の眼を持つ怪人アルゴスに、牝牛になったイオを見張らせる。一方ゼウスのほうは、ヘルメスに牝牛を盗むよう命じる。
 アルゴスの百の眼は交代で、昼夜、牝牛の番をする。ヘルメスは葦笛で百眼を眠らせ、その首を切り落とし、牝牛を救い出す。 
 ……ヘラはアルゴスの死を悲しみ、その首を孔雀の尾羽にはめ込んだ。以来、百の眼は孔雀の羽模様となったという。
 ヘラの嫉妬は収まるどころではない。復讐の神エリニュスの一人をアブに変えて放ち、牝牛イオに差し向ける。以来、牛という牛はみんな、尻尾でいくら追い払っても、払いきれないアブに悩まされるのだという。
 
 牝牛イオは諸国をさまよい、逃亡の果てにエジプトのナイル川辺でゼウスに再会する。彼女はようやく人間に戻ることができ、ゼウスが手を触れただけで身籠って、エパポスを産む。この子はのちに、エジプトの王となった。

 イオは、木星(ジュピター)の第一衛星の名。木星の衛星は、ゼウスの愛人の名前が多い。

 ギリシャの神さまというのは、結局、厄病神でもある。

 画像は、コレッジョ「ユピテルとイオ」。
  コレッジョ(Correggio, ca.1489-1534, Italian)

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