ギリシャ神話あれこれ:12の功業その1

 
 エウリュステウス王というのは、卑劣で臆病なくせに権力欲だけは持ち合わせている、しかもそれをしっかり自覚している、という、権力者によくあるタイプ。正直で勇敢なつわもの、ヘラクレスが煙たくてたまらず、彼が贖罪にやって来たのをこれ幸いと、無茶苦茶な難題を出して、彼を亡き者にしようと画策する(ヘラがそう吹き込んだともいう)。
 こうして、王がヘラクレスに出した難題が、いわゆる「ヘラクレスの12の功業」。

 さて、難業その1は、ネメアの森の獅子の皮を取ってくること。まずは近場から。

 ネメアの森には人畜を喰らうライオンがいて、人々から怖れられていた。このライオンは百頭の大蛇テュポンと半人半蛇エキドナの子で、不死の身体を持ち、剣も槍も矢も通さない、鋼鉄のような分厚な皮をしている魔性の猛獣。
 この怪物が突如この地に現われたのも、ヘラの差し金だったという。
 
 森に向かったヘラクレスは、ライオンを見つけるとさっそく矢を放つ。が、効き目なし。で、今度は棍棒で、ボカン! と殴る。
 さすが不死なので死にはしなかったが、彼の馬鹿力に仰天したライオンは、とっとと逃げ出す。ヘラクレスはライオンを洞穴へと追い込んで、その首に腕を巻きつけ、3日3晩絞め上げる。で、ライオンがヘロヘロにのびたところで、皮を剥ぎ(肉は食って。いくら不死でも、これではもう何もできまい)、ミュケナイへと持って帰る。

 このライオンが、天に昇って獅子座となったという。……ヘラクレスが倒した怪物には、星座になったものが多いのだが、これは、彼を苦しめた褒美にヘラ神が与えた栄誉であるらしい。

 ところで、ヘラクレスが肩にかけているライオンの毛皮は、先のキタイロンのものではなく、ネメアのライオンのものだともいう。ま、こっちの化け物の皮のほうが、剣も槍も通さないのだから鎧としての使用価値は大きい。

 さて、難業を果たしたヘラクレスの存在を、エウリュステウス王は本気で怖がるようになる。以来、王はヘラクレスがミュケナイの門内に入ることを許さず、彼が戻ってくると聞くと、地中に埋めた青銅の甕に隠れ(……おいおい)、コプレウス(=糞)という男を仲介に、やり取りするようになったという。
 度胸のない王だこと。

 To be continued...

 画像は、スルバラン「ネメアのライオンと戦うヘラクレス」。
  フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran, 1598-1664, Spanish)

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